第99話 新人いびりは罰するべき

 私は朝食を食べ終え、着替えて王城まで馬車を準備する。

 ラエルも出勤の準備をして同じ馬車に乗ろうとする。


「あれ、今日は仕事は無い日じゃ」

「遠征の話だよ。リリアナの卒業まで後一ヶ月だろう?近くなってきてる以上、会議があるからね」

「それって、私も参加したりするの?聞かれてないけど」

「明日からかな。術棟に行けば、タリンから話がいくと思うぞ」


 そうだよな、流石に所長が会議に参加しないって無いもんな。

 私はラエルと共に馬車に揺られて王城まで向かうことになった。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 私は術棟に向かいタリンさんと会う。


「来ましたか、セレア様。お知らせがあるんですが」

「会議の話でしょ?」

「だ、誰から聞いたんですか?」

「父さんからだけど」

「ラエルさんからですか……またあのバカが…」


 苦労人の表情をしながらため息を吐くタリンさん。うちの父がすみません、本当。

 私はタリンさんと別れて、魔道具アーティファクト作りに没頭する。


 そんな私に術棟の魔術師が話しかけてくる。

 新人だろうか、見ない顔の女性だった。


「あの…セレア所長!こ、ここが、わ、分からなくて…」

「この術式?えーと、まず魔術書の二百六ページの三行目にある氷魔法の術式四式を書いて…」


 女性は術式の書き方が分からないのか、戸惑っており私に聞きに来た。


 こんな術式を書くことを任せた記憶はないんだが、しかも新人に任せるような術式じゃないような…。

 こんな複雑なもの、熟練者にやらせるものだ。


 所長である私は、魔術師歴で任せる仕事を決めている。

 新人に複雑なものは任せてないはずなのに。

 もしや………


「これって誰かに押し付けられたりした?見た感じ新人みたいだし」

「あ、え、えと……」


 言いたくないのか、口止めされてるのか。彼女はどもってしまう。

 無理に聞き出したくないんだけど所長になった以上、こういうのは見逃せないからな。


 女性は決意したのか震える声で話す。


「その…キャ、キャルナ様から…た、た、頼まれて………こ、こ、こ断れなくて」


 女性は青白くなっていく。

 キャルナ、絡まれた事は数え切れないほどある。


 キャルナは魔塔の魔術師だ。術棟の魔術師に魔塔の仕事を任せるとはな。


「この仕事は私が引き受けるよ。それと、キャルナさんにはこの事は内緒ね。また何か頼まれたら私の所に持ってきて」

「わ、わ分かりました……お、お手数をおおかけします……………」


 女性は慌てるように立ち去っていく。

 最後まで名前がわからなかったな。私は術棟の名簿表をペラペラめくる。


 術棟の人間である事は確定だしなぁ。

 魔塔と術棟は二つとも魔術師の職場だが、見分け方がある。


 それはコートだ。

 王宮で働く魔法使いや魔術師にはコートが授けられる。

 コートには職場を象徴する刺繍がされているのだ。


 魔法使いは青色でオオイヌノフグリ。

 術棟は紫色でキキョウ。

 魔塔は赤色でグラジオラス。


 私のコートには紫色のキキョウの刺繍がある。

 私達はこの刺繍を誇りに思っている。


「この人かな…」


 私は名簿でさっきの女性を見つける。


 ペルティア・カーゲイル。キャルナさんの家門メーテル家とは協力関係である。

 やっぱりキャルナさん関連か…、ラエルに言うのもありだが、術棟の魔術師をこき使われたんだ私が対処しないと。


 名簿を本棚に戻して魔塔に向かう事にする。

 おっと、その前にタリンさんに報告をしないと。


「タリンさん、私魔塔に行ってくる」

「分かりました。こちらは任せてください」


 タリンさんは今は副所長だ。私が不在の際は彼女がまとめてくれている。


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 魔塔に着くとラーヴァルさんが居た。

 そうかラーヴァルさんは代理管理者だったな。


 タリンさんと似たようなで管理者であるラエルが不在の場合はラーヴァルさんが魔塔を管理しているらしい。


「ラーヴァルさん」

「セレア様。何用でしょうか」

「ちょぉーとキャルナさんを呼んで欲しいんです」

「なるほど、お任せください」


 ラーヴァルさんはキャルナさんの居る方向に向かい話を交わして私の方に連れて来る。

 キャルナさんはいつものように私にガンを飛ばしている。


 所長だからキャルナさんよりは立場が上のはずなんだけどなぁ。

 やっぱり年齢のせいかな?


「何用かしら」

「術棟の魔術師をこき使うのは止めて頂けませんか」

「あいつ…裏切ったわね……」

「何か心当たりがあるのですね。止めて頂けませんか?我々にも限度というのがありますから」


 今までもこういう事態はあったりはした。

 その度に注意をしていたが、毎回のように被害者は変わっていく。

 もう我慢の限界だ。


「引き受けた相手が悪いじゃない。私を勝手に悪者にしないで頂戴。術棟の品が疑われるわね」

「被害者は全て魔術師としてまだ間もない人ばかりです。ですが頼まれているものは全て高度な術式ばかり……頼んだ人間は相当地位が高いんですね」

「それで私になるとは限らないでしょう!」

「確かに、キャルナさんの言う通りかもしれませんね。キャルナさんの実力じゃ頼まれるはずもないですよね、すみません」


 キャルナさんは顔を真っ赤にして何も言えなくなってしまう。

 隣りにいたラーヴァルさんは何か思い付いたかのように口を開く。


「黙って見ていましたが、キャルナさん。貴方はこれからは魔塔に来なくてもよろしいですよ」

「ら、ラーヴァルさんっ!そそれはどういう事…!」

「セレア様は所長です。そんな相手にタメ口など逆に魔塔の品が落ちます、害になる人間は入りませんので」


 ラーヴァルさんはニコッと笑いキャルナを魔塔から追い出した。

 私の活躍は無かったかな…所長としてちょっと情けないなぁ。

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