第97話 微かな家族の姿
私達は学園の変化に絶望を感じながら学園の庭園のベンチで休んでいた。
そういや、王城でエルトンさんを見かけないけど…ゲーム通りなら暗殺業やってるはずなんだよな。
何してるんだろうか。今のうちに聞いておくか。
「エルトンさんって王城で働いてないけど何処で働いてるの?」
「さぁ〜どこなんでしょうかぁ」
「私の感ですが、何だか我が家と同類な気がしました」
「カートン家の方が明るいような気がしますぅ」
カートン家は商家であり情報収集の家門でもある。
その暗いバージョンって……やっぱり暗殺家?
エルトンさんは気配を消して裏に回るのが得意だ。学園の頃から毎度のように驚かせられた記憶がある。
「そろそろ皆は帰るか?俺は訓練があるから帰ろうと思ってるんだが」
「そうですね。私もこの後大手との約束があります」
「私はにん…………やり残したことがあるのでぇ」
「私はリリアナと一緒に帰るよ」
「相変わらずだな」
「一途だと言ってくれ」
てか、エルトンさんにんって言いかけたけど…どうせ任務だろうな。
私は皆に手を振ってさよならする。
さーて!リリアナを見に行こうかなぁ。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
リリアナの教室に向かう途中、色んな生徒が私を見て驚いていた。
やっぱり所長は目立つか。
「リリアナー?」
「セレア様!用事は終わったんですか?」
「終わったよ。そっちは授業はもう終わり?」
「はい!私が受ける授業は全部終わりました!」
教室に顔を出してリリアナを呼ぶとリリアナは直ぐにこちらに向かってきて、嬉しそうに話す。
することは無いし、早く帰ろう。
リリアナの手を握り二人で門を出る。
門の前には手配しておいたアルセリア家の紋章が描かれた馬車があった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
馬車内でリリアナは楽しそうに学園生活を語った。
私は静かに聞いていた。
本当に楽しいなら良いんだけどな…。
リリアナの話では何人かはまだ味方をしてくれていると言っていた。
「あの!本当に楽しいんです。友人と過ごす学園は……」
私はリリアナの隣に移動してリリアナの手を握る。
「セレア様?どう、されたんですか?」
「いや……握りたくなっただけだよ」
私がそう言うと、リリアナは私の肩によたれかかった。
少しすると、リリアナは疲れたのか眠ってしまった。
時々、悪夢でも見ているのかリリアナの目から涙が込み上げているのが見える。
「…………いかない…で…」
リリアナは小声で発する。
私は着ていたコートをリリアナに着せて、外の風景を眺める。
馬車は動きを止め、風景は森から屋敷に変わる。
私はリリアナをお姫様抱っこをして屋敷の中に入る。
出迎えてくれたのはセバスチャンとメリーだった。
「お帰りなさいませ。おや、おやリリアナ様は寝ておられるのですね」
「このまま部屋まで運ぶよ。あ、リリアナの為に朝風呂の用意をしておいて」
「分かりました」
私はリリアナを寝室まで運ぶ。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
セレアの背中を眺めるセバスチャンは自分の娘かのように優しい顔をする。
「随分と成長されましたな」
「本当ですね……。昔はとても小さかったのに」
「このような所は旦那様と似ておられますな」
「確かにね。でもレディオみたいに頭は固くないよ」
「ラエル様、いつの間に」
「二人が帰ってきたって報告があったからね」
メリーとセバスチャンの背後にラエルが顔を出す。
ラエルは家族を思い浮かべているようだった。
「そういえば宜しいんですか?」
「何?」
「セレア様にレディオ様の兄だったって事を伝えなくて」
「言わないよ。それを伝えたらセレアは同情で親になったと思っちゃうだろう?そう思ってほしくないからね」
「あくまで自分の欲のためだと、言いたいのですね」
「そもそも兄って言っても養子だったし、血の繋がりはないから」
「その割にはラエル様は旦那様を実の弟のように思っていた様ですがな」
「この関係、セレア様にはいつ経っても話すつもりは無いんでしょう?」
「まっ、隠したっていつかバレそうだけどね。あの子は家族には全力だから……ドミニクとも会ったみたいだし。さっ!私は執務室に籠もるよ」
ラエルは笑いながら執務室に向かっていく。
セバスチャンはラエルの姿にレディオの姿を感じるだろう。
セレアに強い信頼を抱いている姿を。
メリーはレディオとラエルの違いを感じるだろう。
娘に愛をうまく伝えれなかったレディオ、愛を伝えすぎたラエル、二人の違いを。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
リリアナをベッドに寝かせて私はドアノブに手をかける。
部屋を出ようとするが、後ろからリリアナの苦しむ声が聞こえ退出を諦める。
もう少しだけそばに居ても良いか。
私は椅子に座り、リリアナの手を握り母に昔歌ってもらった子守唄を歌う。
私も悪夢を見た時、母に手を握ってもらってこの子守唄を歌ってもらったことがある。
その時は悪夢など忘れる事が出来た。
リリアナもそうだと良いんだが。
「お疲れ様、リリアナ。ゆっくり休んでね」
私はリリアナのおでこにキスをする。
どうせ婚約者になるんだこれぐらい許してくれ、そう思ってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます