第95話 悪役なんて似合わない

 リリアナが男誑かしている?しかも、イエラ達の邪魔をしているって……。

 私はその場で固まる、エルトンさんは会話が聞こえたのか不思議そうな顔をしていた。


 オリカさんとリオンは聞こえていなかったのか学園長の居る部屋に向おうとする。


「オリカさん、リオン。私は後で行くから先に行ってて」

「あ、あぁ分かった」

「私はセレアさんと一緒にいますぅ」


 二人は学園長室に向かい、私とエルトンさんは目を合わせる。


「エルトンさんは何か知ってる?」

「知りませんよぉ。王都では聞いたこと無いので、学園だけの噂でしょうねぇ」

「やっぱり?」

「気になるなら当事者であるリリアナちゃんかぁ、殿下達に聞いてみましょうよぉ」


 エルトンさんに背中を押されて私はリリアナとアルベルトの前に押し出される。

 ちょっと!背中押さないで……え、えーどうしよう。


 二人は突然の私にキョトンとしている。

 そりゃその反応するわ…ごめんね。


「セレア会長…あっいやセレア殿何用でしょうか」

「えーっと、話がしたいんだけど……なるべく人目の少ない所で」

「私も同行しても宜しいのでしょうか」

「勿論。アルベルト殿下、リリアナ、二人共来てほしい」


 人目も人通りも少ない部屋に向かう。

 エルトンさんは後ろから着いてきている、エルトンさんは来ないかと思ったが来てくれるんだな。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 部屋に入り、重々しい雰囲気が漂う。


「そのさっき令嬢方が喋っているのを耳にして、リリアナが男性を誑かしていたり、イエラ嬢とアルベルト殿下達の仲を引き裂いているというのはホントなのかい?」


 私が聞くと、二人は困ったような表情を浮かべた。

 その反応は本当なのか?それとも言いたくないのか?


 リリアナはともかく、アルベルト殿下からすれば私は関係のない人間だしな。


「セレア殿、その話は嘘なんだ……。止めようとしたんだが、いつの間にか止めれるほどではないくらいに広まってて」

「私はお二人の恋は応援しています。それなのに引き裂くような事はしているなど…しかも殿方を誑かすなど絶対にしてません!」

「ちなみにイエラ嬢は何と?」

「イエラさんは最近学園に来ていないんです。学園での噂を止めるにはイエラさんが必要なんですけど…」

「イエラ嬢の言葉しか通らないって事か…」

「実はそうなんだ。俺の声も聞こえてないみたいで」


 アルベルトの声さえ届かないなんて、どうなってるんだ。

 私が悩んでいるとエルトンさんが私に耳打ちをする。


「これもイエラちゃんの魅了によるものなんじゃ無いんですか?力の制御がまだ上手くいってないから殿下の声も相手に届かないようになってるんだと思いますぅ」


 そうか!魅了を使っているのが今回で初めてなら制御の仕方が分からないはず。

 でもそうだとしても、イエラが学園を登校しない理由は…?


 もしかして、学園に登校しない事でこの噂の現実味を出しているのか?

 リリアナによりアルベルトと引き裂かれたから心が傷ついてしまったから登校しないと思わせている?


 今までもリリアナがイエラを虐めているという話は出てきていた。

 それも重なって虐めているという話を本当にさせようとしているんだな。


「アルベルト殿下、学園内でのリリアナちゃんの評価はどうなっているんですかぁ?」

「リリアナは、学園内では悪役令嬢と言われている。俺が止めれれば良かったんだが……」


 アルベルトが申し訳そうな表情をする。

 私はその表情を見て、余計な事はするなと言いたくて仕方が無かった。


 アルベルトには魅了が効く、変に動いてリリアナとのハッピーライフを邪魔されたらたまったものではない。


「この件、ひとまずは何も手を付けないでくれないだろうか」

「え?放置するのか?」

「リリアナが何もしなければ問題ない、そしてアルベルト殿下もです。二人はお互いに距離を置き何もしないでください」

「セレア様が言うなら分かりました」

「分かった。今からでもいいだろうか?」

「早ければ早いほど良いでしょうね」


 私がそう言うとアルベルトは一人で部屋から出る。行動に移すのは早いんだな。


「私もお先に学園長のところに行ってきますぅ。お二人はゆっくりしていても良いんですよ?」


 エルトンさんも続いて出ていく。

 あの人……私がリリアナの方を向くとリリアナは気まずそうだった。


「セレア様、言わなくて申し訳ありません…お手を煩わせるわけにはいかないと思っていたのですが」

「何時でも頼っていいのに。私はリリアナを裏切ったりしないよ」

「ごめんなさい、次からは……すぐにお話します」

「嫌だったらしなくてもいいんだよ。ただ、私は好きな子に頼られたいだけだからね」


 私はリリアナを頭を撫でながらそう言う。

 そんな悲しそうな顔をしないでほしいなぁ…。どうしたらいいのか分からなくなるよ。


 リリアナは私に抱きつき顔を埋める。微かに泣き声のように嗚咽が聞こえた。


 表面上は大丈夫のような見えても、辛かったんだろう。

 私はリリアナの背中をさする。


 リリアナが悪役だから傷つけて良いものではない。そもそもリリアナは何もしてないのだから、悪役などと呼ばれる筋合いはない。


 私が…もしリリアナといつも一緒にいられたら良かったのに。

 この時だけ自分の歳を、未熟さを恨んだ。


 恨んだって何も変わりゃしないのにな、リリアナが卒業すればいつだって守れる。


 あと少しの辛抱だ。

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