第92話 ヘタレな弟子といつも通りな推し

 ドミニクとずっと話していると、いつの間にか夕暮れになっていた。

 話しすぎたな。


「そろそろ帰ったほうが良いだろう」

「そうですね、そろそろ御暇させていただきます」

「俺も帰ろう」


 ドミニクは私達を玄関まで案内してくれた。

 ドミニクに手を振りながら、私達は馬車に乗って帰宅の道へと進む。


 ドミニクとは魔術の話で盛り上がった。

 恋せし乙女の薔薇2は本当に魔術メインのようだ。


 ルイスもヴィルアとくっつきたいからか、魔術の話はしっかりメモを取っていた。


 メモとる必要はなかったような気がするのだが、それぐらい魔術に対して興味を持ってるってことだもんな、師匠は嬉しいよ。


「2の話に入る時、私は二十八歳なんだよな…歳取ってるなぁ」

「異世界だし、見た目は変わらないんじゃないか?そういうもんだろ」

「そうだと良いんだけどねぇ」

「何か心配なのか?」

「いやぁ、リリアナが成長するってことじゃん?大人姿のリリアナに耐えきれるかなって」

「……リリアナ嬢はもう四年生だろう?ほぼ大人じゃ」

「王城編で、めっっっっっちゃ可愛くなるんだよ!」


 学園編では、一途で王妃になるために努力を惜しまなかった乙女だったリリアナが王城編では、努力の結果で生まれたスラッとした体にツヤツヤお肌、しかも王妃教育によって培った天才的な頭脳!

 そして変わらず一途な乙女心もある!


 私の推しが可愛い!天才!天使!マジ断罪してくれた王子許さん。


「ひ、ひとまず落ち着いてくれ。セレアのリリアナ嬢に対する愛情は分かったから」

「何だよ…まだまだ浸ってれるのに」

「やめてくれ。まだ俺は推しに会ってないんだ虚しくなるだろ」

「今すぐ会いに行けよ」

「勇気が…ちょっと無いっていうか」

「ヘタレ」

「泣くぞ!」


 まーったく。推しに会う勇気がないだぁ?

 それでも好きなのかね。師匠は見損なったぞ。


「師匠悲しいな」

「突然師匠ヅラするのはやめろ」

「続編の内容はルイスから聞かされた部分しか知らないから、サポートぐらいしか出来ないよ」

「魔術を教えてくれているだけでもありがたい、ヴィルアとの接点ができるからな」

「本編ではどうだったの?魔術を習ってなかったって事でしょ?」

「婚約者でそこからお互いの事を知っていくっていうルートだからな。知らなかったさ」

「婚約者なら問題は無いのでは?」

「いや、ルート分岐で婚約者になるかならないかの選択があるんだ。それが不安でな」

「断られたら終わりって訳か」


 だから接点を作って仲良くなりたいんだな。

 それならちょっと難しい魔術を教えれば更に仲良くなることが出来るのでは?


「ルイス、今度魔術の勉強をしに来ないか?ラエルも居るし少し難しい魔術を教えようと思って」

「え!いいのか!」

「弟子の恋愛を応援するからね。出来ることはしてあげるよ」


 ルイスは嬉しそうに目を光らせていた。

 何だろうこの子犬感…、ルイスは人気ランキングで上位なんだっけか。

 分からなくはないな、中身がちょっと違うけど。


 精神年齢と見た目がつり合ってないんだよ。

 もはやそれがギャップなのかもしれない。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 ルイスは王城へ、私はアルセリアの屋敷に戻り部屋でくつろごうとした途端リリアナが怖い顔でこちらを見ていた。


 何だ何だ?私なにかした!?


「リリアナ?どうしたの?」

「いえ……………」

「言ってくれないと分からないよ」

「………………」


 沈黙やめて!怖いから!

 何でそんなに怒ってるんだ?帰りが遅かったから?いやでも出かけるって言ってあるし…遅くなるかもしれないとも言ったし。


 私は慌てているとリリアナが私の服を掴んで言う。


「男の匂いがします」

「へ?ルイス殿下の匂いじゃ…」

「違います。それなら私は怒ったりなんかしませんよ。誰の匂いですか?こんなにべったり匂いがつくなんて…相当な距離で喋ったんですね」


 もしかしてドミニクか?確かにドミニクとは握手したり沢山話はしたけど………。

 早めに弁解しないと、私の命が危うい?


「えーと、まず話を聞いてほしいな」

「えぇ言い訳ですか?いいですよ、いくらでも聞いてあげます」

「うーんと、まず私はある貴族の屋敷を訪ねに行きました。勿論ルイスと一緒に」

「はい」

「そこでその貴族の人と意気投合して結構長い時間喋ってまして……」

「要は浮気したわけではない…と言うことですね」


 私は顔を縦に振る。私は浮気しないから!

 リリアナ一途だよ!

 こうやって言われるの何か夫婦みたいで良いなぁとかちょっと思っちゃった!


 何考えてんだ私。下手したら自分の自由どころか命が危ないのに…………。


「私は浮気しない!リリアナだけだから!そもそも私が浮気しそうに見える?」

「だってセレア様は色んな人に優しいんですもん。優しくされたら自分に好意があるんじゃないかって思ったりするんですよ?」


 え、そうなのか。

 リリアナはムスッとした顔になり拗ねてしまう。


 可愛いって思ってしまう私を誰か殴ってくれ。

 自分は愚かだ……あぁ。誰か殴ってくれ。


「リリアナ〜機嫌直して?」

「嫌です!男の人に会うならそう言ってください!勿論女性だとしても!」

「次からは気をつけるから…」


 ぷいっと顔を合わせようとしないリリアナに私は可愛さを感じながら謝罪をする。

 心から謝れない…どうしよう、リリアナが可愛くてそれどころじゃない。


 リリアナの機嫌取りをしないとなぁ、どうしたら許してもらえるだろうか。

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