第88話 古代魔術と回帰者の書物

 私は本を一冊一冊読んでいき、古代魔術に関係するページに印をつけていく。

 リリアナは、私の作業をマジマジと見ている。


 いや、作業というより私を見ているような気がする。

 視線が顔面に注がれているような…気がする。


「リリアナ、居てくれるだけでいいって言ったけど…そんなにマジマジと見られるとしづらいんだけど」

「だって……ただじっとしているだけなのはつまらないので。それに、セレア様の真剣な眼差しは私にとって、癒やしですから」

「そ、そうなの?」

「えへへ♡セレア様を眺めるだけで至福です」

「リリアナが良いなら、別に大丈夫なんだけど…」


 恐ろしいほど熱い視線を送られるんだよな。そんなじっと見られても……。

 いつまで経っても慣れないんだろうなぁ。


 私は印を付けたページをじっくり見ていると、気になったものを見つける。

 これは…回帰者に関するものか。何で古代魔術のページに?


 私は回帰者についての文章を読んでみると、この世界には、回帰者が時折現れる事が分かった。

 しかも、回帰者は産まれた時から体の何処かにダイヤの印が刻まれているらしい。


 近くでイエラを見たことがあるが…そんな印は無かったが…まぁ体の何処かって書いてあるし背中とかだったら分からないからなぁ。


 ん?これは……。

 私が気になったのは、回帰者は誰でもなれると書いてあったことだ。


 産まれた時からダイヤの印が付いている回帰者である『セス』と呼ばれる人物が居る。

 反対に禁忌で回帰力を得た人間には、古代魔術を体内に描かれると体中に黒い紋様が出てくる。


 禁忌によって力を得た者を『ガブリエル』と言う。


「そんな話があるんだな…」

「何かめぼしいものでもありましたか?」

「ちょっと興味深いものを見つけてね」


 リリアナは回帰者という存在を知らないだろうし、見てもわからないだろう。


 禁忌で回帰力を得ることが出来る…か。

 もし本当なら、イエラが禁忌を使って回帰力を得ている可能性がある。


 本には、禁忌で回帰の力を得た回帰者の特徴が書いてあった。


・回帰に回数制限がある。だが、本人はそれを知らない。

・古代魔術を異様に恐れる傾向がある。

・回帰する時間を決めることができない。


 そんなにデメリットは…いや、案外ある方か。

 古代魔術を恐れるか。自分が偽だとバレるのが嫌なのだろう。


 古代魔術を習得するのも悪くないのかもしれないな。

 回帰に制限…。イエラは今、六回目の回帰だったか、でも本人はわからないんだっけ。


 うーん。そこから考えるのは難しいか。

 イエラが禁忌を使ってると明かすには、古代魔術を使うしか無いみたいだな。


 産まれた時から回帰者の印がある…セス。会ってみたいな。

 ていうか、他の人が回帰したって他の回帰者は分かるんだろうか。


 気になってしょうがない…オリカさん達に回帰者を探せないか…いや、カートン家は回帰者の存在は知らないし………ルイスと探すかぁ?


「はぁ〜」

「ため息ついてどうしたんですか」

「ちょっと、面倒くさいことになってね…まぁ古代魔術とは少し違うんだけど」


 古代魔術についての術式を見たけど…古代語が分かってても解くのに時間がかかりそうだ。

 そもそも今の魔術の術式と形が違いすぎて、どれが何なのか分からない。


「古代魔術が今のと全然違うと言うのは聞いたことありますが…どれぐらい違うんですか?」

「例えるのが難しいけど、簡単に言うなら魔族と人間」

「あ…全然違うんですね。今、セレア様がしようとしているのは今使える術式とは全く持って似つかないものを一から解読しようとしているわけですか」

「無茶な事なのは分かってるんだけどねぇ。欲に駆られると言うか」

「他者から見れば、不可能って事ですよね」


 不可能って言われるとやりたくなる。押しちゃいけないって言われると押したくなる理論と一緒だな。


 私は紙を取り出して、回帰者に付いて分かった事を書いてルイスに手紙を出す。

 弟子だし…別にいいよね?


「リリアナ、申し訳ないんだけどこれをセバスチャンの所まで持っていってくれるかな」

魔道具アーティファクトでやればいいんじゃないんですか?」

「正式にって事でね。流石に第二王子相手だし、師匠と言えど王家に魔道具アーティファクトを介して手紙を送るのはちょっと、遠慮が」

「ふふっ。分かりました、渡していますね」


 別に魔道具アーティファクトで送ってもいいんだけど、ルイスは政治の天才と言われるからなのか仕事で忙しいみたいだしな。


 魔道具アーティファクトで送っても気付かれないかもしれない。


 にしても、もうこんな時間か…。そろそろ寝ないといけないな。


 私は寝間着に着替えて、本を綺麗に並べると丁度リリアナが戻って来る。


「セレア様、寝るんですか」

「うん。リリアナも一緒に寝る?」

「良いんですか!」

「今日ぐらいはね」

「なら一緒に寝たいです!」


 私はベッドに寝転がり、飛び込んでくるリリアナを受け止める。

 ダイナミックだな君。


「明日は、リリアナは普通に学園があるんだよね?」

「そうですね、残念ながらあります」

「なら送り迎えはするよ」

「本当ですか!嬉しいです!」

「休みだしね」

「それなら……私のお弁当を作ってくれたりしませんか?」


 サンドイッチしか作れない私に?マジで言ってます?それ。


「サンドイッチになるけど、いいの?」

「セレア様の作るサンドイッチは美味しいですから!問題ないです♡」


 うぐっ。この笑顔に逆らえない。

 明日は早起きかなぁ。仕方ない、サンドイッチを作るか。

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