第87話 少し不安な遠征話
目の前で繰り広げられる喧嘩を止め、リリアナに遠征の件を伝える。
「来年の遠征に殿下達が行くんですか?」
「そうそう。それで魔術師である私もいかないといけないんだ。しかも、来年の遠征は死に至る可能性もあるんだ」
「………それで私も来年は王城勤務だから伝えに来たということですね。それは、私が行くことは可能なんですか?」
「出来ると思うけど……私的にはオススメしないよ」
「それは、私がもしかしたら死ぬかもしれないからですか?それなら気にしないでください。私は闇魔法使いです、死ぬことはほぼありえません」
「………リリアナが望むなら、陛下に伝えておくよ」
私の中で不安があった。ゲームでもこの遠征イベントは憂鬱展開だったからだ。
簡単に言えば暗い話しか出てこないイベントだった。
攻略対象達が恐ろしいほどの怪我を負う。
そのせいか、このイベントは恋せし乙女の薔薇プレイヤーもとい恋薔薇Pの皆から批判しか来なかった。
私もこのイベントは批判派だった。のほほんとしていた話から突然、憂鬱展開になるんだもん。
心の準備が出来ていないのに来たから反感しか喰らわなかった記憶がある。
ゲーム内で怪我を負うイベントだ。本当に死にかねない。
「死ぬかもしれないって言っても連携が崩れない限り死ぬことはない。それがルーベン国だ」
ラエルの言葉で私は思い出す。
そうか、ルーベン国は武力で考えれば世界3本に入るほどの国家だ。
イベントで怪我を負った理由は、イエラ達が初の遠征だったこともあり連携が取れなかったことが原因だから……。
回帰者であるイエラだから、関係ないのか。
それでも注意するのに越したことはない、魔術の勉強は進めなくては。
私はラエルに魔術を時折教えてもらっている。
ラエル曰く、私は戦闘魔術との相性が良いらしい。そのせいか、火力は魔塔の魔術師の数倍はあるとのことだ。
魔法についても教えてもらったが、何ひとつ成長しなかった。
魔術があるだけマシか…。そもそも持ってる魔法自体が弱いと言われるものだからな。
無くてもあっても変わらない…のかな。
「遠征の話はここまでにして、早めに風呂に入りな。セレアは明日は休みなんだろう?」
「そういえば、そうだった」
明日は休み……てことは、ちょっと無理してもいいのでは?
私はラエルを所長バッジを持ちながら見つめる。
「そんな顔しても、徹夜はダメだよ」
「ちぇっ」
「ちぇっ、じゃありませんよ。セレア様はすぐ無茶するんですから。それで倒れたら元も子もないですよ」
その通りです。
仕方ない、風呂に入ってこよう。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
風呂から出て私は書庫に行き、古代文明に関する物を全て持って行く。
このバッジを解読するには古代文明の魔術を理解する必要がある。
徹夜はダメって言われたし、徹夜にならないぐらいまで本を読んで寝よう。
朝から解読を開始すれば、このバッジの謎が解けると思いたい。
私は大量の本を持って自室に向かう。
自室で机の上に本を積み上げて古代の魔術に関する物を一つ一つ探す。
三時間ほど経った後、目が疲れてきたのか痛い。
本を読んでて思ったが、眼鏡を作るのもありだな。
何気に小さい文字が読めなくてイライラする。
解読より、眼鏡を作るのを急いだほうが良さそうだ。
コンタクトとか作れれば良いんだけど、作り方が分からない以上眼鏡で我慢するしか無いか。
……眼鏡………眼鏡。眼鏡も商売になるのでは?
レンズを作ることは問題ないし、今は職人だっている。良いものを作れるのでは?
「よーし!張り切っちゃおうかな!」
「張り切るのもいいですが、無理はダメですよ?」
「分かってる。分かってるよ」
「本当ですか?」
「本当、本当」
リリアナが扉を少しだけ開けて、隙間から顔を出す。
可愛い!っていうか入ってきてもいいのに。
「入ってきたら?」
「いえ、邪魔をするわけにはいけないので」
「邪魔って…別に話しかけてくれるぐらいなら問題ないよ?」
「それなら…」
リリアナが部屋の中に入ってくる。
普段は普通に入ってくるのに、今回はどうしたんだろうか。
「セレア様は何を読んでるんですか?」
「古代文明の事を調べてるんだ」
「何でですか?」
「このバッジに魔術が描かれているんだけど、今の術式じゃなくてね。ラエルも分からないみたいだし解読したいんだ」
「それが解読できたら、他の物にも応用ができるんでしょうか」
「出来ると思うよ」
「うーん。思ったんですが、バッジは王家のものですよね?王家の人に聞いたら分かるのではないでしょうか」
「ラエルがそう思って聞いたことがあったらしいんだ。だけど王家自体も知らないみたいなんだ」
「相当、古いものなんですね」
これを解読できたらお金とか貰えないかな。
世界初!バッジに描かれた術式を解いた人間!みたいな感じでさ。
変な期待を抱くのはやめよう。辛くなるだけだ。
「古代語が沢山書いてありますけど、読めるんですか?」
「読めるよ」
「え!読めるんですか!」
「実は得意分野だからね」
言語系の授業では好きな分野だったな、古代語。
リリアナは苦手なのか、私が持ってる本を見るが首を傾けている。
「何か手伝えたら良かったんですが…」
「そこに居て、私の話し相手になってくれるだけで良いんだよ」
実際、居るだけで癒やされるからな。
私はリリアナの頭を撫でながらそう言う。
尊い、解読が捗りそうだ。
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