第85話 新しい父は親ばか

 私はお酒を少しだけ嗜む。

 やっぱり…好きな味じゃない。何で貴族というのはお酒をガバガバ飲むんだ?

 この世界特有なのか?


「セレア!お酒か?二年間飲んでこなかったのに、突然だな」

「理由があるんだよ…全く。そもそもお酒は好きじゃないし」

「飲んだことあるのか?見たこと無いが」


 リオンが首を傾げながらそう言った。

 前世の話はしてないしなぁ。いつかしないといけないな。


 ………前世の話をしたら、引かれるだろうか。もしそれでリリアナに距離を取られた…うぅ。

 立ち直れるかなぁ。


「それで、酒の感想は?」

「美味しくない。それにお酒には弱いんだ。もう二度と飲まない」

「所長になったんだ。また飲むかもしれないだろ」

「私は水でいいよ」


 前世の時もお酒は苦手だった。お酒に弱すぎて直ぐに酔ってしまうのだ。

 今の私も変わらずお酒に弱い。嫌な共通点だよほんと。


 ワインが入ったグラスを揺らしたりするのやってみたいんだけど…この世界のワインは度数が高いものしか無い。


 低いのもあるけど、味は保証できないらしい。


「そういや、リオンは騎士団長になってたね」

「忘れてたのか?元々、父親が騎士団長だったしな。順当に行ったと考えれば普通だろう」

「先を越されちゃって焦ったよ。時間もかかったし、これでも結構急いでたんだけど」

「あー、セレアはイエラ達が王城に来るまでには所長になっておきたいんだっけか」

「そうそう。何とか間に合ったよ」


 婚約破棄イベントがいつ来るか分かったもんじゃないからな。

 リリアナから聞く限り、イエラはリリアナのあらぬ噂を流しているようだ。


 そのせいで学園でのリリアナの評判はガタ落ち。

 イエラと関わっていない貴族達は信じていないようだが、学園での信者達はその噂を信じて色んな所に流しているらしい。


 リリアナがしていない事は明白だ。いつ婚約破棄されても私は証拠を出せる。

 これも全て、カートン家のおかげだ。


 リリアナはアルベルトと早く婚約を破棄したいらしい。

 いつかは気が変わるとは思っていたが、まだ気が変わっていないことに驚いた。


 セレアの存在は、リリアナにとって偉大なものだったのかもしれない。


「リリアナはそっちの生活には慣れているのか?」

「そうだね。もうアルセリア家の一員みたいなもんだよ」

「それは良かった。リリアナが時折、俺達に手紙を送ってくれるんだがセレアの妻になると言っていてな。もし、婚約破棄された時にアルセリアに嫁がせようって話なってるんだ」

「セントラ家は本当にそれで良いの?私にとっては好都合なんだけど」

「リリアナが望んでいるからな。俺達、セントラ家は家族の想いが第一だから」


 ゲームでは、婚約破棄されたら聖女を陥れた罪として処刑されるんだが、今のところリリアナは何もしていないし逆に魅了魔法を使っているイエラの方が犯罪者なんだよな。


 王家を魅了するなんて、この世界では淫魔と呼ばれてもおかしくはない。

 反国王派との接触は確定だし、婚約破棄の時には逆にイエラを断罪してやろう。

 ヒッヒッヒッヒ……。


「………セレア、怖い顔してるぞ。見たくない顔だ」

「おっと、ごめんごめん。気が緩んでた」

「気が緩んでた……?」


 危ない危ない。変なやつだと思われ…もう遅いか。


 私とリオンは、それから沢山話をした。他愛も無い話をして盛り上がっている私達にある貴族令嬢が近づいてくる。


 私は彼女の顔を覚えていた。その為、私はリオンから離れて移動する。

 彼女は私についてくる。やっぱりか。


「キャルナさん。何用でしょうか」

「ふん!貴方、調子に乗りすぎなのよ。ラエル様に少し気に入られているだけなのに、魔術師の中心みたいに動いちゃって目障りだわ」

「そうですか。そう思っていただくのは、構いません。ご勝手にどうぞ」

「何よ、私より年上みたいな振りしちゃって。貴方まだ十九でしょう?まだまだおこちゃまなのに。だからお酒も苦手なんじゃないのかしら」

「そんなおこちゃまに、地位を抜かされているのはどこのどいつなんでしょうね。そもそも、私は学園を卒業する前から、魔術師として生きてきました。キャルナさんよりかは、魔術師の事を知っていると思っていますよ」


 どうせ、ラエル関連だとは思ってはいたけど……私より実力も経験もないのに良くここまで言えるな。


 確か、親のコネで入ったってラーヴァルさんが言ってたか。


「それと、私の父に関わるのはやめてくださいませんか?」

「父?アルセリア家の当主は貴方でしょう?父親は居ないんじゃなかったかしら」

「あぁ…伝えてませんでしたけど、私の父はラエルですよ。養子の話をのんだので」

「は?」


 私はキャルナさんにそれだけ言い残して、立ち去る。

 さーて、ラエルの所に行って養子の話を進めよう…と思ってたら私の目の前に突如、ラエルが現れる。


「私の事を父と認めてくれたのかい!?嬉しいなぁ!良いのかい?」

「まぁ、父親としても頼もしいから………一緒に過ごしてて楽しかったし」

「やったぁぁ!うちの娘可愛いんだけど!」

「ちょっ!離れて!」

「嫌だ」

「頑固な父親は嫌われるぞ!」


 私がそう言うと、ラエルは悲しそうな顔で離す。

 ふぅ。びっくりした。喜ぶにしても…抱きつかれるのはちょっと………恥ずかしい。

 ずっと前から思ってたけど、親バカだよな。ラエルは。

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