第84話 新たな所長

 ラエルにお試し養子の話を切り出して二年たった。

 今ではラエルもすっかりアルセリア家の一員だ。ただ、ラエルが父としてアルセリア家に来て困ったことがある。


 それはリリアナとの対立だ。

 私の目の前でもはや日常茶飯事になった、ラエルとリリアナの謎自慢が始まっている。


「私はセレア様と一緒にお風呂に入ったことがあります!お試しの父親であり、幼いセレア様と共に過ごしたことの無いラエル様には絶対にありえない事でしょう?」

「そうか。そうか。だが、私はセレアと共に遠征をしたことがある。勿論、同じテントだ。婚約者でも無い、魔術師でもない君とは違い、私には特権があるのだよ」

「わ、私だってセレア様と寝たことありますし!」

「なら共に仕事をしたことは?君はセレアに構って欲しくて邪魔をしているだけなのではないのか?」

「そんな事ありません!セレア様の仕事を手伝ったことだってあるんですから!」


 私のために争わないで!という発言をするべきシーンが何で私に降り掛かってくるんですかね。

 こういうのってヒロインとかじゃないの?


 何故、父親候補と婚約者候補が言い争っているんだろうか。


「セレア様、モテ期ですな」

「こんなモテ期要らない……」


 セバスチャンが誂うように言う。

 もうヤダこの人たち。


「……そんな喧嘩するならここから追い出すけど?」

「「え!?」」

「私、言ったよね?ここに住む条件は、お互いに!仲良く!する事だって」


 私がそう言うと、哀願するように二人が泣きつく。

 ラエル!あんたは良い大人だろ!何してんだよ!

 リリアナもだよ?もう四年生なんだしそろそろ落ち着こうか。


「はぁ〜。私は仕事に行ってきますね。今日は着任式なので」


 そう、なんてたって今日は私の着任式なのだ!

 魔術師として働いて二年、私は様々な業績を上げてきた。


 それが功を奏したのか、王様の目に留まり私は所長になることになったのだ。

 最年少で所長の座を継ぐという肩書きも貰える。


「そうか。今日は着任式だったか。私も準備しよう娘の晴れ舞台だ」

「まだ親じゃないでしょうが!」

「どうかなぁ?今日はセレアの着任式だけじゃなくて、私が本当の親になるかの話もあるからね」


 そういやそんな話もあったな。着任式のせいですっかり忘れてた。

 お試し養子の話の時、私は二年間一緒に過ごしてそこから答えを出すと言った。


 今日はその最終日だ。私としてはラエルは父として優秀だと思う。

 ちょっとキモい所もあるが、そこは父親らしいのかもしれない。


「リリアナも学園行く準備しなよ?」

「もう出来てるので安心してください!」


 私は馬車を手配して、王城に向かう事にした。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 王城に着き、私とラエルは着任式の会場に向かう。

 といっても陛下がいる間に行くだけなのだが。


「おっセレアか。着任おめでとう」

「予想より早くてびっくりだ。おめでとうセレア君」

「ありがとうリオン。ありがとうございますセントラ伯爵」

「私の娘、凄いだろ?」

「そんな自慢気に言われても、まだお前は父親じゃないだろ」


 セントラ伯爵、その通りです。貴方はマトモで良かった。


 会場に着くと、そこには色んな部署の人が集まっていた。

 人酔いしそうだな…。


 皆が集まったのを確認した陛下は、大きな声で言う。


「集まってくれて感謝する。これより、新たな所長の着任を祝う式を始める!セレア殿よ前へ!」


 私は名前を呼ばれ、陛下の前へと歩き出す。


 陛下は私の業績を一個一個読み上げていく。読み終わると、陛下は私の前へ出てきて所長の証である術棟のバッジを持ってくる。


 私はそれを受け取り、バッジを胸元に着ける。

 これで私は正真正銘、魔術師の所長だ。


「ここに!新たな所長が誕生した事を発表する!さぁ皆のもの!この出来事を祝おうじゃないか!」


 陛下の発言に周りの皆は歓喜する。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 皆がお酒を飲んでいる中、私は所長バッジを眺めていた。


「セレアの祝の場なのに、本人が全く楽しそうじゃないんだが…何かあったのかい?」

「いえ…。実感がないだけで、嬉しいですよ?」

「それならいいんだけど。バッジがそんなに気になるのかい?」


 ラエルが私に問うてくる。気にならないと言えば嘘になるが、魔術師の性だろうか。

 このバッジには魔術が描かれている。


 私はそれを読み解こうとしているのだ。


「このバッジ、魔術が描かれているけど中々読めなくて」

「私の管理者バッジにも描かれている。見てみるかい?」


 ラエルは胸元の管理者バッジを外して私に渡す。そんな簡単に外して良いものなのか?

 いや、私も言えないか。


 見比べてみるが、描かれている魔術は違うもののようだ。

  見たことのない形式…。古代文明のか?


「ちなみに、私はその術式は読めないよ」

「え!?」

「多分、セレアの考えている通り、古代文明の物だろうね。最新のものじゃない」


 解読してみたい欲が、私の中で高まっていく。

 誰も知らない術式ねぇ。気になるじゃないか。


「その術式を解くのはまた今度にしなさい。今は祝の場だよ」


 ラエルは私に叱る。家に帰ってからにするか。

 祝の場はガチャガチャしていてあまり好きじゃないんだけど……まぁいいや。


 私は、机の上にあるケーキを自分の皿に取って食べる。

 お酒にも挑戦してみるか…。

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