第81話 親になるかもしれない人間

 王城の食堂に行く途中、騎士団の訓練場が見える。

 訓練場には、リオンとセントラ伯爵が居た。

 私は近寄ることにした。リオンを食事に誘おう、流石に一人だと寂しいからな。


「お久しぶりです。セントラ伯爵」

「セレア君か。久しぶりだな。学園では息子が世話になったな」

「いえ、逆に私がリオンに世話になってました」

「ははっ!リオンが君を支えていたか。男らしくなったみたいだな」


 セントラ伯爵は、笑い出す。

 やはりセントラ伯爵はオヤジ感が強い…失礼だったかな。


 リオンはベンチで汗だくになっていた。タオルを使って汗を拭いているのが分かる。

 周りを見渡すとヘトヘトな騎士達が居る。騎士団長であるセントラ伯爵にしごかれたんだろう。


「リオンになにか用だったかな」

「えーと、昼食に誘おうと思っていたんです。王城の食堂って広いでしょう?一人では寂しいので」

「なら、呼んでこよう」

「いえ!流石のリオンも疲れているのでは?見た感じ、凄いヘトヘトなんですが」

「あんなので疲れていたら、騎士団長を継ぐ事は出来ない。直ぐに呼んでこよう」


 あぁ…行っちゃった。

 私はセントラ伯爵の背中を眺める。ガタイが良いな。


 騎士団は活気があるかと思っていたが、訓練後はやはり抵抗するのを諦めた社畜の集団にしか見えない。


 私は、リオンを待っていると後ろから何か気配がすることに気づく。

 何だろう、背中がゾワゾワする。


「セレア殿〜!ご飯を食べるなら私と食べないかい?良いだろう?」

「ラエル…さん。何しに来たんですか」

「やだなぁ。どうして敬語なんだい?私と君の仲だろう?さっきまでは、タメ口だったじゃないかぁ!」


 やっぱりあんたか。いや、あんな命を狙う感じで見られたら誰でも敬語になるだろうよ。

 私はラエルにダル絡みをされながら、リオンを待つ事にした。


 少しすると、セントラ伯爵が戻って来る。


「すまないセレア君。リオンはもぬけの殻のようになっている」

「おやおや?セレア殿。誰かを待っていたのかい?」

「ラエルか。セレア君がやせ細っているが…何をしたんだ」

「おっさんには関係ないだろう?私はただ自分の欲に従っているだけだ」

「その欲がいけないのではないのか」


 タスケテ…誰か。

 私はラエルに構われ、何を返してもプラスの方向に聞こえるように改造されているのか…似たような返事が返ってくる…。


 セントラ伯爵とラエルは知り合いなのか。いや、まぁ騎士団長と魔塔の管理者だもんな。関わりはあるか。

 お互い、部署の最高権力者なわけだし。


「そういえば、ラエルよ。セレアには未来の奥さんが居る」

「奥さん?セレア殿は女性だろう?」

「あぁ。だが、リリアナという未来の奥さんが居るんだ」

「リリアナって君の娘さんじゃなかったかい?」

「そうだが?」

「はぁぁぁぁ……。セレア殿が娘になるのかい?いぃいなぁぁ!そうだ!セレア殿!私の娘にならないかい?」


 ?????

 私の頭にはハテナが浮かぶ。ラエルさん、何言ってるんですか。

 娘?突然、私に養子の話が舞い込んできたんだが?


「セレア殿が良ければ何だが……。勿論、私の娘になれば何でも買ってあげよう!戦闘魔術も何でも教えてあげるよ!」


 凄い楽しそうですね。

 私の目の前には、承諾してくれと言わんばかりの表情を浮かべるラエルが居る。


「もう少し時間をくれませんか?」

「勿論だ!いくらでも待とう!てことで仲を深めるというのも含めて、一緒に昼食を食べようか!」


 私はまたもやラエルに手を引かれ、食堂に向かうことになる。

 私に自由はないのか。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 食堂に着くと、ラエルは注目の的なのか周りの女性がラエルを見ている。

 私は睨まれている。やめて……。


 席につくと、ラエルがハンバーグを買ってくる。

 おっ。ハンバーグあるのか。


「君は何にするんだい?」

「私もハンバーグを頼もうかなと思ってて」

「好きなのかい?」

「うん」

「そうかそうか。どうやら私と君には接点があるみたいだな。私もハンバーグが好きなんだ」


 意外だ。てっきりサラダとかさっぱりした物が好きだと思っていたんだが…。


「ちなみに、私は野菜が嫌いだ。特にピーマンが嫌いかな」


 私はハンバーグを頼み食べることにした。

 ハンバーグ定食には野菜が沢山のっていた。


 気づいたら、私のハンバーグ定食の皿に乗っていたサラダの量が増えていた。

 ………ラエルぅぅ。子供かよ!


「好き嫌いは駄目では?」

「大人が好き嫌いをしてはいけないって誰が決めたんだい?」

「………確かに」


 何も言えず、私は黙って飯を食べる。

 こんな人が私の父親になるのか。子供みたいな父親だな。


「もし、もしだよ?ラエルが私の父親になった場合、敬語に戻すのが普通なのでは?」

「敬語じゃなくていいよ。その代わり私の事を父さんって呼んでほしいかな」

「…それは別に構わないけど」


 嬉しそうにご飯を一気に食べるラエル。

 あっ、むせた。私はラエルに水を渡して飲むよう催促する。


 目が離せないな。危ないぞ。

 にしても、父親かぁ………。ラエルの表情を見る感じ、本気のようだ。


 それに、無理になりたい訳じゃなさそうだし、まだ会ったばかりだが……良い人そうだしきちんと考えよう。


 新しい家族が出来るなんて一回も考えたこと無かったからな。

 屋敷に戻ったら、メリー達にも相談してみよう。

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