第80話 管理者のギャップ

 ラエルが止まり、私は反動で転びかける。

 あっっぶな!急ブレーキは止めてよ!


 私は周りを見渡すと魔塔に着いていた。

 おぉー。ここが魔塔。色んな魔法陣が書かれた紙が宙に浮いている……。

 凄い解読したい!気になるなぁ。


「ようこそ!魔塔へ!我ら魔術師は翡翠の魔術師を歓迎します!」


 大きく腕を広げながら言うラエルに私は固まる。

 ……追いついていけない。


「ラエル様。セレア様が固まっておられます」

「おっとすまない。急だったね。実はセレア殿には定期的に魔塔に来て、魔道具アーティファクトを持ってきてもらいたいんだ。それに、セレア殿に魔塔で働いてもらいたいって言うのもある」

「後半が本音だなさては」

「正解」

「それなら、私に戦闘魔術を教えてくれませんか?」

「知らないのかい?」

「基礎はあるんですが、使った事はなくて…」

「いいよ!私が教えてあげよう!」


 ラエルはグッドと言うように親指を立てながら言う。

 あんた元気だな。追いついていけないよ。


「教えるのは昼からでも良いかい?私にも仕事があってね。君が早く所長になって一緒に仕事ができる日を楽しみにしているよ!」


 ルンルンというような音を立てながら帰っていくラエルの背中を見ながら、ため息を吐く。

 そんな私にラエルの部下であろう魔術師が話しかけてくる。


「すみません。いつもはあんなふうじゃないんですけど…どうやらセレア様のファンのようでして」

「ファン…?」

「実はそうなんですよ。普段はセレア様を聞いた事があるクールで無口というまぁ、モテそうな雰囲気なんですが……どうも好きなものを目の前にするとあぁなるんですよ」


 何だ、ただのオタクか。

 ていうか部下は真面目なんだな。良かったな、上司が上司なら部下も似たような者かと思っていたが、そんなことはなかったみたいだ。


「あっ、名前を申し遅れました。私の名前はラーヴァルと申します。ラエルの妹です」

「妹さんでしたか」

「敬語は無しでいいですよ。兄がすみません」


 深々とお辞儀をするラーヴァル。兄と違って礼儀正しい人だな。


 魔塔を見て回ってから、術棟に戻る事にしよう。

 私は魔塔をラーヴァルと歩き回るとラエルが他の魔術師と話しているのを見かける。


「その…!ラエル様!ここが分からないんですけど」

「すまないが、後にしてくれないか。私じゃなくても他の魔術師に聞けばいいことだろう?」


 何だ何だ。さっきのラエルと真反対なんだが…?

 私は戸惑いながらラーヴァルにあれが、さっきのラエル?と聞くとラーヴァルは困ったようにそうですと答える。


「びっくりしますよね。兄は好きなもの以外興味がなくて無関心なんですよ」

「人ってあんなに変わるんだなぁ」


 そういやラエルに話しかけている女性、ラエルへの下心が丸見えなんだが……ああいう人も魔術師になれるのか。


「あの人ですか?あの人は、キャルナさんと言い兄に好かれたいが為に、魔術師になった人ですよ。魔術師としてはクビにされてもおかしくないんですが、キャルナさんの家が魔塔に物資を送ってくれている家門なので無理に追い出せないんです」

「なるほどねぇ。にしても、ラエルには婚約者とか居ないの?居るなら居るって言えば寄ってこないと思うんだけど」

「あー…。居ないんですよ。兄は結婚には無縁で。そもそも人を好きにならないというのもあると思います」


 そうかぁ。じゃあずっと付き纏われるのか。確かに顔はいいもんな。

 人に好かれるのも納得がいく。


「そろそろ私は戻ろうかな。案内ありがとうラーヴァル」

「いえ。何時でも来てください」


 私はラーヴァルに手を振りながら術棟に戻る。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 術棟に戻ると、私の上司であるタリンさんがやつれた表情で魔道具アーティファクトを作っている。

 変わったほうがいいかな。


「タリンさん。変わりましょうか?」

「あぁ。良いんですか?」

「はい。休んでください。体調が悪そうですよ?」

「すまないね。席を外すよ」


 私はタリンさんに変わって魔道具アーティファクトを作る。

 いやぁ…やっぱり王宮魔術師でも魔道具アーティファクト作りって大変なんだな。


 普通は魔力切れがよく起こるんだけど……、私には関係ないな。

 ずっと作ってきたからか、魔力調整が上手くなったんだよな。


 私は魔道具アーティファクトを作っていると周りからの視線が気になってしまう。

 そんなに見る?


 周りの意見をよく聞くと、私の魔力調整は凄いものらしい。そうなんだ、知らなかったよ。

 魔術師が私に話しかけてくる。


「どうやって魔力を調節しているんだい?」

「え?普通に…あ、いや……自分の魔力を一箇所にまとめる感じをイメージして、それをブツブツと切る感じかな」


 言葉にすると難しいな。

 他の魔術師はなるほど…と言ったような表情を浮かべる。

 やはり王宮魔術師、感覚をつかめれば習得ができるのだろうか。


 魔術師が自分の机に向かって作業をする。

 魔術師はおぉー!と言ったような歓声を上げる。


「素晴らしい!セレア殿に言われたようにしたら出来るようになったぞ!」

「それは良かったです」


 案外皆、明るいんだな。何となく仕事大好きな人感が漂ってくる。

 社畜、じゃないよな?


 私は魔道具アーティファクト作りに専念していると、時は経ちあっという間に昼になっていた。

 王城の食堂は使って良いんだっけ。

 見に行くとするか。

 

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