第78話 利用出来る組織

 外が騒がしい。私は壁に耳を当てて外からの音を聞く。

 西側の壁が通路側だという事がこれで分かった。


 外からの音は聞きづらい為、途切れ途切れだが内容は聞き取れる。


 内容は侵入者が出て、中を荒らしているらしい。

 侵入者って……警備がゆるいのか?いや、そんなことはないか。


 警備がゆるいならこんな所に私は居ないし…。

 うーん。侵入者は誰なんだろう。ひとまず、ここで大きな音を立てて侵入者に助けてもらえると良いんだがなぁ。


 壁に穴を開けてくれればいいんだけど…………。


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 私は無意識に、闇魔法で全てを破壊し尽くそうとしていた。

 この時だけ、自分の知らない力が溢れてくる。


 目の前の男性が、セレア様を監禁した人間だと判明してから私は力を制御するのを諦めたのだ。


「リリアナ嬢!その力を抑えてください!」

「良い力だ。是非とも取り入れたい戦力だな」


 私は闇魔法で相手を拘束し、水魔法で攻撃する。


 セバスチャンさんは、他の人間を爆裂魔法を使って気絶させる。

 爆裂魔法で気絶、やはり調節が上手いのだろう。


 男性は私の方を見て、微笑みながら言う。


「…実力は素晴らしいですが、まだ未熟ですね。まだ関わるには早すぎましたか」


 男性は姿を消す。

 闇魔法で拘束していたのに……。


 男性が去るのを見た周りの部下であろう人達が慄えて逃げていく。

 あの男性は相当な立ち位置の人間のようだ。


「早くセレア様を探しましょう。セレア様の気配は感じませんが…」

「多分ですが、この組織にとってセレア様は大事な存在でしょう。だとすれば、警備が多いはずです」

「人が逃げた方向に行ってみましょう」


 走って行くと、警備が多い場所を見つける。

 ただの壁しか無いが………、何を守っているんでしょうか?


 てことはここに居るって事なんでしょうか。

 私とセバスチャンは魔法の準備をして、攻撃態勢に入って警備に攻撃を仕掛ける。


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 …………壁の向こうから渋い声が聞こえる。

 人が苦しんでる声というか…それに加えて知っている声も聞くな。


 この声は…リリアナとセバスチャンか?

 侵入者って二人のことだったのか。待て、何でこの場所がわかったんだ?


 私は壁に体を当てて音を出すが、戦闘中なせいか、それともここの防音が凄いのが相手には聞こえていないようだった。


 向こうの音がシーンと静かになった時、私はまた壁に体当たりをする。

 体が痛い…さっきから体当たりを続けているせいか、節々が痛む。


「セバスチャンさん!ここから音が聞こえますよ!」


 おっ!リリアナには届いたようだ。


 外から爆発のような音がし、壁がミシミシといい崩れていく。

 壁が崩れた先には、擦り傷が何個かあるリリアナとセバスチャンが居た。


 擦り傷だけで済むんだな…流石、闇魔法使いと爆裂魔法使いだ。


「セレア様!」

「リリアナ、」

「こんなに身体に痣ができてるじゃないですか!やはり殲滅………」

「大丈夫…じゃないけど、しなくても良いと思うよ」

「ですが!」

「この組織は利用したほうが良い。今後役に立つと思うからね」


 私はリリアナとセバスチャンにこの組織が反王国派の組織だと伝えた。

 二人は何となく想像はついていたのか、あまり驚きはしていなかった。


 反王国派の組織は残しておけば、イエラがリリアナを断罪する日に逆にイエラを断罪する。

 例えイエラが聖女だろうと、反王国派と関わっていると分かれば、イエラは国外追放じゃ済まされない。


 反王国派とイエラが関わっているのは確定だ。

 今はカートン家が証拠を集めている。その証拠は既にイエラを断罪するには十分すぎるほど集まっている。


 イエラは、反王国派に関わって回帰の力を手に入れた。しかも魅了魔法を使って人を惑わしている。


 魅了魔法はこの世界では犯罪に近い。

 ここの法律は厳しかったし、厳しくなかったり……面倒くさいのだ。


 もう慣れたが、元日本人としては結構面倒くさい。

 矛盾が所々ある。駄目だろ。


「ひとまずここから出ましょう。立てますか?」

「そんな負傷してないよ。早く出よう」

「壁に穴を開けておきました。ワープ鏡も用意しておきましたよ」

「流石執事長…用意周到だな」


 外に出て、ワープ鏡をくぐり屋敷戻る。

 馬車は………いいか。


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 屋敷に戻ると、メイド達が救急箱を持ってきて私達を治療する。

 メリーが近づいてくる。

 おっと、メリーさん?顔が怖いですよ。


「セレア様、あれほど言いましたよね?匿名の手紙に反応をしないでと」

「い、いや!あれは王城からだったから…しかも王家の紋章の判子だったから……」

「ルイス殿下…というように名前は書いてないならそれは匿名です!何をしてるんですか!」

「うっ。ご、ごめんなさい……」


 私は正座をして謝る。

 すみません。本当に……危機感なかったです。


「はぁ〜。無事なら良かったですが、次からは気をつけて下さいね」

「ハイ」

「体の痣が消えるには、二週間ほどかかると思われます。どうやら魔法の影響で治るのに時間がかかるようになっているようです」

「に、二週間……結構、水にしみるんだよ?」

「治療魔法は使えませんので我慢してください」


 風呂に入る時は、我慢するしか無いか。

 無事なだけマシか。

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