第74話 不安より愛が勝つ

 結婚式から帰ってきて、リリアナは目が腫れていた為、メイド達に連れて行かれる。

 それを見たセバスチャンが、私に聞きに来る。


「向こうで何があったのですか?未来の奥様を泣かせるなど、夫としてあるまじき行為かと…」

「私は泣かしてない。誤解だ。そんな目で見るな!」

「嘘は宜しくないですよ?」

「だーかーらー!誤解だって!」


 セバスチャンに何度も理由を説明してやっと誤解が消える。

 私が疑われるのは何でなんだ。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 私は自室で服を着替えて、イリヤさんのところで買ったお菓子を食べる。

 そういや、教会にイリヤさん達が居たな。


 イリヤさんは、女性が見れて嬉しいのかずっとウキウキしていたな……。

 職人の爺さんに関しては、泣きじゃくっていた。


「卒業まで、後三週間…うーん。実感がないな」


 三週間か。まだまだ学園でやりたい事もあるし、卒業が近くなってからやりたい事が沢山出てくるなんてなぁ。


 私がボーッとしていると、部屋の扉が開きリリアナが入ってくる。


「セレア様…何をしているんですか?」

「ん?あー、卒業が近いから、学園でやりたい事を考えていたんだよ。そしたら想像以上に沢山あってね」

「……………卒業」

「そうだよ。卒業」

「離れ離れになるのは嫌です」

「いつでも会えるから、そんな顔しないの」


 リリアナは寂しいというような表情を私に向ける。

 残業はしないよう心がけるから直ぐ戻ってこれると思うんだけどなぁ。


 リリアナが椅子に座っている私の傍まで近寄り、私の袖を掴む。

 かわっ…じゃない、どうしたんだろう?


「何?」

「セレア様、本当に成人したら何があっても私と結婚してくれるんですよね………?」

「勿論。心配なの?」

「…もし、もしですよ?セレア様がイエラさんの魅了にかかったら……いつか、お兄様みたいに私を…、蔑むのかと、思ったら」


 泣きそうなリリアナを見て、私はリリアナの頭を撫でる。

 そんなに心配しなくていいのに…いや、それが普通なんだろうな。


「私は魅了にかからないよ」

「理由は、何ですか?」

「リリアナとアルベルト殿下が言い合っていた時、リオンは魅了魔法にかかっていたでしょ?あの時イエラが使っていたのは広範囲魅了魔法だった」

「…確かにあの時、セレア様はかかっていなかった………」

「ね?それに、私は何度もイエラと関わってるけど、魅了にかかったことは無いよ」


 理由は未だに分かっていないが…多分愛が強いからなんだろうな。

 推しへの愛は負けませんよ。


 リリアナが魅了魔法にかからないのは、自分で言うのも何だが、リリアナが私の事が好きだからだろう。

 愛の強さも関係している。魅了を防ぐのは愛かぁ。


「どう?気は晴れた?」

「少しだけ、ですけど…」

「大丈夫だよ。約束したでしょ?何があってもリリアナを迎えに行くってね。まぁ、リリアナが成人しても私を好いていてくれればの話だけど」

「私がセレア様を忘れて他の誰かを好むわけがありません!」

「分からないよ?ほら、人生って何があるか分からないって言うじゃないか」

「それなら、セレア様だってそうじゃないですか!私を嫌うかも……しれない、じゃないですか」

「私は絶対に!リリアナを嫌うことはない!」


 私がリリアナを嫌う?んな理由あるか!

 私が推しを嫌って得などないし、自分の思いに背くことはしない。


 ルイスと会ったときだって、お互いの推し、いや好きな人について語ったんだ。


「本当に、私の事を嫌いになったりしないんですか?」

「本当の本当だよ。私がリリアナを嫌う理由が無いでしょう?」

「もしかしたら、私がセレア様との約束を破ってイエラさんを虐めたりするかもしれないじゃないですか」


 ゲームで、そんな姿のリリアナを見たんだよなぁ。そもそもその姿を見てたから、リリアナに対する好き度が上がったと言っても過言ではない。


 好きな人に一途な乙女…良い!


「その時は、きちんと叱るよ。好きな人が誤った道を進んだ場合、正しい道に戻さないといけないでしょ?」

「どんな私でも愛すというのですか?」

「そうだけど、変?」


 私の質問にリリアナは俯く。

 やっぱり重い!?そうだよな!重いよな!気持ち悪いよね!


 うわぁぁぁ!どうしよう。リリアナに嫌われた?重すぎて嫌われるって……あっ…あ、……。


 私が頭を抱えていると、リリアナが何かを言い出す。


「う、うへへへ♡うへっ、うへへ♡せ、セレア様はどんな私でも好き……えへ」


 ど、ど、どうしたんだ?

 リリアナが顔を赤らめながら、頬に手を当てながら奇妙な声を出す。


 私はそんなリリアナの姿に驚きと恐怖を感じてしまった。

 流石に怖いよ…突然、どうしちゃったんだよ。


「り、リリアナ?」

「はい♡何ですか?セレア様♡」

「あ…いや。別に何でもない………」

「何ですか?私の名前を呼びたくなったんですか?」

「……………」


 スゥ~。はて、どうしたもんか。

 何を言っても、プラスの言葉に変換されるリリアナに、私は言葉が詰まる。


 私は良い解決策が思い浮かばなかった為、リリアナが落ち着くまで何も言わずに放置をしていた。


 まぁ、放置している時もリリアナに撫でくりまわされたというか…愛の言葉を永遠と聞かせられた。

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