第72話 職人の腕は素晴らしい

 東に進むと、大きな木の板の看板にベンチュと書かれた店を見つける。

 ここがベンチュか。


 中に入ると、お馴染みのタンクトップのおっちゃんが居た。

 あれ?貴方、ここで働いてないよね…?


「おっ!久しぶりだなぁ、セレア!ここになんか用があんのか?」

「そう…なんだけど、おっちゃんこそ、ここで何してるのさ」

「あぁ…実はここ俺の親父の店でな!様子を見に来たんだ」


 マジかよ!親父って、親子揃って職人なんだな。


 おっちゃんと話をしていると、奥の扉から筋肉質な老いた人が出てくる。

 うわぁお。筋肉がすごぉい。


「おやおや。セレア殿では御座いませんか。随分と成長して…」

「…貴方もですか。えーと…」

「ほほ!儂を知らないのも無理はありませぬ。セレア殿が二歳の頃に会ったのでのぉ!それに、タメ語でよろしいぞぉ」

「何だよ、親父。セレアの事知ってんのか」

「勿論!それで、何用ですかな?」

「親友の結婚式に送るペアリングを作って欲しい」

「なるほど、そちらの赤髪のお嬢さんのものですかな?」

「いえ…私の兄が結婚するので……」

「なるほどなるほど!それなら儂!凄いのを作っちゃるわい!」


 何とパワフルなお爺さんだな。親子揃ってパワフル、元気あり有り余ってるな。

 きっとこの人も母の知り合いなんだろうな。


「じゃあどんな物が良いとか、希望はあるかの?」

「そうですね。兄の髪色は赤ですし、ウルトさんは薄緑…」

「それなら、お互いの色が入ってる宝石を使えば良いんじゃよ!ウルト嬢にはルビー、お嬢さんのお兄さんにはエメラルド…お互いの色が入ってて良いんじゃないのかね?」

「お互いの色が入ったもの…良いね。オリカさん、それにしたら?」

「そうですね。そうします」


 親父さんは、イリヤさんの様に紙を持ってきてデザインを描き始める。

 デザインも出来るのかこの爺さん…流石職人だ。


「二人が共通して好きなものとかはあるかい?」

「うーん。蝶が好きなはずです」

「なら、ここに蝶を彫って…」


 親父さんがオリカさんに説明しながら、デザインを書き上げていく。

 最終的に出てきたものが、蝶が彫ってあり蝶の身体部分が宝石になっているものだった。


 親父さんは今すぐ、作ってくる!と言い部屋を飛び出した。

 行動力の化身か?あの人。


「すまねぇ。親父はやるって決めたら止まらなくてな」

「おっちゃんに良く似てると思うよ」

「ハハハハ!良く言われるさ!」

「そういえば、おっちゃんは私の母とは会った事無いの?」

「ヴィータさんか?会ったことは勿論あるさ。何てったって、ヴィータさんとレディオさんの結婚式の結婚指輪を作ったのは俺だからな!」


 そうだったのか…!いや、分かるはずがないよ。

 初めておっちゃんと会った時、おっちゃんもあんた誰だ?って私に向かって言ってたしな。


「多分、一回ぐらいはセレアに会ったことがあると思うんだが……忘れてたんだろうな」


 おっちゃんがそう言う。

 そう考えると、あの爺さん記憶力バケモン!?


 年老いているとは思えないほど、元気だし記憶力良いし……異世界には医療技術がなくてもこんな化け物が存在してるんだな。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 オリカさんも交えて、おっちゃんと長く会話をしていると、爺さんが出来たぞ!と扉を強く開ける。

 仕事速すぎないか。それ、金属っすよね?


 完成品をオリカさんに渡し、オリカさんは渡された完成品をマジマジと見る。

 やはり、商家だからなのかこういう物には真剣になるみたいだ。


「凄いですね…手抜きも無い。なのにこの完成速度………やはり職人」

「お嬢さん、見る目があるようじゃのう。商家の人間じゃな?」

「はい。カートン家の娘です」

「あの有名なカートン家じゃったか!今後も贔屓にしてくれよ?」

「はい!このカートン家、恩は必ず返します。そういえば、これの代金なんですが……」

「代金は取らんよ。これからもカートン家が我がベンチュを贔屓にしてくれるだけでいい。有名なカートン家が関わっているというだけで、儂の店には良い利益が生まれるからのぉ」


 オリカさんは申し訳無さそうにしていたが、爺さんに何を言っても下がらなかった為、諦めて代金を払わないことになった。


 無料でってこんなにも凄い物が貰えるとはな。

 母強しってやつか?これに関しては違う気もするが。


 ベンチュの人達にお礼を言い、ペアリングの入った箱を持って店を出る。

 外は既に夕暮れ、私達は急いで帰る事にした。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 屋敷に帰ってくると、リリアナがお出迎えをしてくれる。


「セレア様!良いものは見つかりましたか?」

「うん。それに母の旧友にも会ったよ」

「ヴィータ様の?ヴィータ様の交友関係が広かったというのはメリーさんから聞いてはいましたが」

「大収穫だったよ。それと、リリアナにお土産」


 私は手に持っていた和菓子をリリアナに渡す。

 リリアナは分からないのかキョトンとしていた。


「和菓子って言ってね。ニーシャ国の伝統的なお菓子だよ。オリカさんと菓子折りを買ってた時に見つけてね」

「私に!?良いんですか!?」

「いいよ。いつか、本場の和菓子も食べに行こうか」

「はい!楽しみにしてますね!」


 リリアナはルンルンと音がなっている様に歩いていく。

 リリアナが嬉しいなら良かった。


 私とリリアナは和菓子を分け合いっこしながら食べた。

 元日本人だが、凄い食べたことのあるような味がする。美味い、美味いぞこれ。

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