第62話 推しはお泊りがしたい

 私は学園が終わったと同時に、ルイスに屋敷に来てもらうよう頼んだ。


 本来、伯爵である私が第二王子であるルイスを呼び出すのは不可能なのだが……師匠だという事で、見逃してもらえた。

 師匠って便利。


「それで、突然何だ?大事な報告でも?」

「イエラのことだよ」

「イエラ…?あぁ、1のヒロインか」

「興味無さそうにするな。私にとっては大事な事なんだぞ」

「ハイハイ。何が分かったんだ?」

「イエラが回帰者だって分かった」

「回帰……俺達とは違って同じ周を繰り返しているのか」

「それで、イエラが魅了魔法を使ってることも分かったよ。後はイエラは既に五回、回帰している。今回で六回目みたいだ」


 転生者と回帰者、似たようなものだが違うと言えば違うのだろう。

 イエラは何回も回帰が出来るのだろうか。


「イエラが回帰しているタイミングは1のストーリーが終わった後だろうね」

「イエラの回帰が俺達にも関係するのかという所だ」

「なってみないと分からないし……それにまだ回帰が出来るかもしれない」


 私達にも影響するなら、結構面倒くさいが……そうじゃないといいなぁ。


「そういえば、セレアが気にしていたリリアナ嬢と兄上の婚約破棄の件なんだけど、イエラのせいか兄上がリリアナ嬢と早く婚約破棄したそうにしているんだ。ゲーム本編より展開が早い」

「やっぱり?他のイベントも早めに来ていたから予想はしていたけど…」


 イエラの行動が圧倒的に周回者なんだよな。皆の攻略も早いし…手慣れているなぁ。


 リリアナとアルベルトの婚約破棄の件、イエラはどうするつもりなんだろうか。

 今回リリアナはイエラに嫌がらせなんてしてないし、ゲーム本編より頭が良いのもあって、婚約破棄をするのが難しいはずだ。


 魅了で何とか言いくるめるのか?それなら対策できない。魅了を解除させる方法なんて知らないからな。


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 ルイスと婚約破棄について、論争を繰り広げた。

 ルイスは帰宅して私はゆっくり疲れを癒やしていた。


「面倒くさくなってきたぞ。リリアナの為とは言えど、イエラの魅了のせいでどうしようもない」


 下手に動こうとしても勘付かれるだけだろうし…ふーむ。

 私が悩んでいるとメリーが扉を開けてくる。


「リリアナ様がお見えです」

「今!?」

「今です。どうもお泊りしたいようで」

「分かった。すぐ向かう」


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 玄関に行くと、リリアナが服を詰め込んでいるのであろうアタッシュケースがあった。

 一日じゃないの…?


「リリアナ、もしかしてだけど何日も泊まるつもり?」

「そのつもりですが…駄目でしょうか」

「いや、問題は無いんだけど。セントラ夫人やセントラ伯爵には伝えたの?」

「もちろん!許可は貰いましたよ」

「何日泊まる予定なの?」

「私の気が済むまでです!」


 絶対長いな。こりゃまた晩餐が豪華になるよ。

 食費大丈夫かな。


 リリアナを自室まで案内しようとするが、私は思い立ち固まる。

 いつも私の部屋で泊まってたけど、よくよく考えれば客室あるじゃんか。


 何で気が付かなかったんだ?そうじゃないか、別に一緒に部屋で寝る必要は無いじゃないか。


 別の部屋で寝たら、私が毎回毎回リリアナの寝顔見て理性が崩れかけるという事態もなくなるのでは?


「セレア様、セレア様の部屋は逆方向じゃありませんか?」

「そうだけど、リリアナには客室で寝てもらおうと思ってね」

「セレア様と一緒に寝れないんですか?」

「えーと……今回は別の部屋でね」


 リリアナは不満そうだが、アルセリア家の当主である私の決定に逆らえ無いため重い足取りで客室に入っていく。

 郷に入ったら郷に従えみたいなものだな。


「晩餐の時はメリーが呼びに来てくれると思うから、それまでゆっくりしててね」

「セレア様は何するんですか?」

「残ってるアルセリア家の仕事を終わらせないといけないから」

「それなら私が居ても問題ないじゃないですか。セレア様を眺めているだけで済ませるので」


 本当か?それで済むのか?

 私は疑問に思ったが声に出さないようにした。


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 私は執務机で書類仕事をする。

 判子を押すだけのものだったり、返事を書いたりした。


「また縁談か。縁談の話が一、二、三………」

「セレア様?」

「はい」

「全て断ってくださいね♡」

「ハイ」


 圧が怖い…隣に居るだけなのに怖いよ!

 これからリリアナの前で縁談の話をするのは止めておこう。


「オリカさんから聞きましたが、新しい娯楽商品を作るんですね。チェスって言いましたっけ」

「うん。完成したらやってみようか」

「一対一で行うゲームでしたよね。楽しそうです。戦略を考えるものと聞いたので、頭を柔らかくするのにも使えそうです」


 この世界じゃ戦略ゲームは珍しい。チェスは娯楽商品にしようと思っているけど、もしかしたら王家で扱われるかもしれないな。


 いつか麻雀とかも作りたいな。チェスより麻雀の方が経験あるから、将棋は面白そうだけどルールがいまいち分かっていない。


「セレア様が考える商品は興味深いですから、出来る日が早く来ないかと待ち遠しいです」

「オリカさんが職人と話をしているらしいから、それが終わったら試作品が出来ると思うよ」


 リリアナが楽しみといった表情で見つめてくる。可愛い。

 リリアナは覚えるのが早いからな、麻雀のルールとか覚えたら早く上達しそうだ。

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