第54話 人の苦手なものは知り過ぎ注意

 セントラ家にて、珍しくポニーテールの私とシャツと長ズボン一枚の軽装なリオンはリリアナにダンスを教えてもらおうとしていた。


「セレア様!注文通りポニーテールにしてくれたんですね!」

「これでいいの?私には違和感がありすぎて動きづらいんだけど」

「動きやすさの為には軽めな格好が大事ですから!それに初心者なら尚更ですよ」

「リリアナが昨夜、セレアのポニーっ…いや、何でも無い」


 リリアナがリオンを睨み、言葉を止めさせた。

 何を言いかけたんだ?リリアナが昨夜何を……?


 私は普段一つ結びをしており、髪を耳より上で縛るポニーテールは首が涼しくて落ち着かない。


「ではダンスレッスンを始めましょう。セレア様は基本的な事は知っているんでしたね。それならステップの練習をしましょう」

「足を踏まれても文句は言わないでね……」

「大丈夫ですよ。ダンスで足を踏まれた事が一度もないなんてありえませんので」


 自分がダンスが下手だということを自覚しているからこそ、私は不安なのだ。

 雇った先生がこれは無理だという表情をしていたのを覚えている。


 しかも相手がリリアナだ。もしリリアナの足を踏むなんて事があれば私は何処を切り落とせば……。


 リリアナの言う通りに私はステップを踏む。

 流石は伯爵令嬢と言う所なのか、私が困っている所は実践で教えてくれたり、下手な私でも分かるように教えてくれた。


 先生向いてるな…リリアナ先生、良い響きだ。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 リオンも私もリリアナ先生の授業で疲労していた。


「少しずつ上達してきましたね。最初はどうなるかと思いましたけど…」

「ごめんね……本当にダンスは苦手なの」

「お兄様も上達しましたし、そろそろ休憩にしましょう」

「ヘトヘトだ…妹がこんなに鬼畜だとは思ってなかった」


 一旦休憩を挟もうという事になり、手軽に食べられるパンをセントラ家のシェフが作ってくれた為、三人で食べることにした。


 やはり、一流シェフが作る物は美味しいな。


「学園舞踏会のパートナーは決めてるんですか?」

「特に決めてないけど……」

「それなら是非私にしませんか!?あそこは王子の婚約者という立場も関係ないので!」


 学園舞踏会では婚約者のいる者であっても気軽に誰とでも踊れる場になる。

 リリアナが望んでるならまぁ…良いだろう。


 一応、今までも学園舞踏会というものはあったのだが私は参加しなかった。


 この学園舞踏会は任意だ。その為、私は参加していなかったのだが……ゲームのスチル見たさに今回は参加することを決めた。


「俺もパートナーはどうしようかな……」

「オリカさんはどうかな。生真面目同士、いいんじゃない?」

「頼んでみるか……」


 オリカさんが無理ならエルトンさんになるが…エルトンさんは美形すぎる為、様々な男性からパートナーとして誘いを受けていると思うから難しいだろう。


 エルトンさんは王城編のメイン悪役令嬢だからな。王城編では大人気キャラだった。うちのリリアナも負けてませんけどね。


「セレア様はドレスなんですか?ドレスでも似合いそうですけど…」

「もう令嬢とは言えない気がするし…ドレスは歩きづらくて苦手だし、男性っぽい衣装になるかなぁ」

「何処に仕立てに行くのか決まってるのか?」

「全く?」


 私の返しにリオンはマジかと言わんばかりの表情をする。


 衣装なんて殆どメイドに任せている、私が選びに行こうとしたらメイドと執事の皆が代わりに選びますと言って聞いてくれなかったのだ。


 あれ以来、衣類に関しては全て全任せだ。選ばせてくれないからどうしようもない。


「でしたらオススメの仕立て屋の情報をアルセリア家に送っておきますね。そこから選んで衣装を仕立ててください」

「ありがとう。おしゃれに関して私は皆無だから有り難いよ」

「楽しみにしてますね♡」

「本当にセレアは令嬢らしさの欠片も無いんだな」

「失礼極まりないぞリオン。事実だけどさぁ」


 いつから私は、令嬢を辞めたんだろうか。


 昔はワンピースとか着ていた記憶があるんだが…いつから私はスカートじゃなくてズボンに足を通すようになったんだ?

 考えると長くなりそうだからやめておこう。


「セレア様って苦手なものとか無さそうなイメージだったんですが、ダンスとか苦手なんですね」

「私にも得意不得意、苦手なものくらいあるよ。例えば…あっ、いや何でも無い」

「確か、虫も苦手だったよな。幼い頃、俺がセレアに取ってきた芋虫を見せたら泣きながら乳母に抱き着いていたな」

「その話は止めて…」


 リリアナが興味津々にリオンに詰め寄る。ほら!リリアナが食い付いてきそうだったから話すのを止めたのに!


「私が苦手なものって言っても、沢山あるよ?普通の人間だもん。苦いのは苦手というより無理だし、首がスースーするのも苦手だし…」

「後はゴボウ苦手だったよな。他には、油が苦手って言ってたな」

「お兄様知りすぎてませんか?何でそんなに知ってるんですか?ズルいです」


 ズルいって何?人に弱みを沢山握られているの普通に怖いんですけど…?


 止めて?好きな子に苦手なものを把握されるの地味に辛いから。格好良い所より格好悪い所の方が多いのは嫌だよ。


 そんな事を思いながら休憩は過ぎ、ダンスレッスンを続ける…似たような日々がこの土日続いた。

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