第53話 苦手なものは踊り
私は今、アルベルトの腕を掴んでいる。皆は私が突然出てきた事に驚いているようだ。
ずっと庭園にいましたよ、隠れていただけで…。
私はそっと、アルベルトの腕を離す。
「セレア会長、話を聞いてくれこれには理由があるんだ」
「理由?勝手に脳内を改変してリリアナとアルベルト殿下の婚約がリリアナの意志で行われたものだとしていた事ですか?」
「あれは、本当にリリアナが望んだことだ!」
「…………リリアナはどうなの?」
「私は全く望んでません。伯爵令嬢である以上、王子の婚約者候補に出なければいけないので出ただけで…」
リリアナは心底嫌そうに、アルベルトを見つめる。
ゲームではリリアナは王子を盲信しており自分以外の人間が王子に少しでも関わろうとするなら権力を使うほどだった。
そんな子が今やアルベルトを睨んでいるのだ。やはり私が生きている影響なのだろうか。
「その、セレア会長はリリアナさんの肩を持つんですか?」
イエラが何故?と言わんばかりの表情で私に問う。
私が君の肩を持つわけ無いだろ。一般的に見て常識的な事をしていれば持っていたのかもしれないが………それでも私はリリアナの肩を持つよ。
「あぁ。普通に考えて婚約者の居る男性をこのように誘い、ましてやスキンシップも激しい……一般的に見ればリリアナの方が被害者だろう?」
「セレア………セレアもイエラを蔑むつもりなのか?」
「何も蔑むつもりはないよ。ただ、イエラさんのしている事は不貞行為と言われても仕方がない事じゃないかな」
巷ではリリアナがイエラに嫌がらせをしているという噂だけでなく、逆のイエラがアルベルトをリリアナから奪おうとしているという噂もある。
後者のほうが今じゃ有力らしい。そりゃそうだろう。
学園でリリアナがイエラに嫌がらせをしている場面なんて一度も起こってないんだから。
私に対してもリオンは軽蔑の目を向けた。これか……親友にこの目を向けられるのは心が痛むな。
私は攻略対象の反応を見て手に負えないと分かり、リリアナを連れて移動した。
「リリアナ、移動しよう」
「え、え!?」
戸惑いながら私にしっかりついてくるリリアナ。リリアナの友達は隙を見て既に逃げていたようだ。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
私は生徒会室で珈琲を嗜む。
「セレア様はいつあそこに居たんですか?」
「結構序盤から居たよ」
「全く気付きませんでした」
不覚…!と言った表情をするリリアナに、私はクスッとしてしまう。
さっきの緊張感あふれる場所とは裏腹にここは癒やされる場所だ。
リリアナと数分、話をしていると生徒会室の扉が開き入ってきたのはさっきまで言い争いをしていたリオンだった。
とても気まずい雰囲気になってしまった。
何とか話題を出そうとするが何一つ思いつかない。
「…リリアナ、セレア、申し訳なかった」
「どうして謝るのさ。リオンは本当にイエラの事が正しいと思ったんでしょ?」
「いや、そういう訳ではないんだ。何故かは分からないがイエラの側に居るとイエラの事が一番大切で、イエラの言う事が正しいと思ってしまうんだ」
やはり魅了か。さっきまでのリオンとは真逆で私の良く知っている優男のリオンだ。
これは………リリアナとリオンにもイエラの魅了魔法の可能性について話しても良いかもしれないな。
「リオン、リリアナ。大事な話があるんだけどいいかな」
真剣な顔で私はそう言った。
二人も真面目な話だと理解したのか、真剣に聞く姿勢を取った。
「実は……イエラが魅了魔法を使ってるかもしれないんだ」
「確かに光魔法ですが…呪文を知っているとは思えません」
「もしかして、ウキオン君か?彼なら知っていてもおかしくない」
「それに、リオンの思考の改変にも説明がつくでしょ?平民嫌いの有名男爵もイエラを称賛するほど盲信している、魅了を使っているとしか考えられない」
私の説明に二人は納得した。信じてくれるとは思ってなかったが…まさか本当に信じてくれるとは、有力な情報なんて一個も出してないのに。
随分信頼されているようだ。
「俺はやはりイエラに関わるべきじゃないみたいだな」
「距離を置くべきだね」
「リリアナだけでなく、セレアにまであんな事を言うなんて………すまない」
「そんなに謝らないで、別に私は大丈夫だから」
まぁ、傷付きはしたけど致命的じゃないからな。リリアナに言われたら死んでたかもしれないけど。
想像したら心が……………。
「にしてもどうやって距離を置けば……突然距離を置くのは変だろう?」
「それは問題ないよ。生徒会の仕事がこれから忙しくなるからね」
「てことは、私はセレア様と居る時間が減るという事ですか!?」
「まぁ…そういう事だね」
何で生徒会が忙しくなるのかと言うと、ゲームでもあった学園舞踏会が開かれるからだ。
学園内の者だけで開かれる舞踏会で、先生にもダンスのお誘いができる。
「学園舞踏会が近いからか、ダンスの練習はさっぱりなんだが…」
「お兄様…セレア様から教えてもらえればいいじゃないですか」
リリアナの発言に私はギクッとする。
冷汗をかいているとリリアナがそれに気付く。
「もしかして、セレア様……ダンスが出来ないんですか?」
「え?あぁー。いや、別に出来なくは無いけど………」
必死に私は言い訳を並べる。私はダンスが出来ないわけではない、ただ下手すぎるのだ。
引き籠もって徹夜大好きな私にとっては令嬢のような可憐さを持っている訳もなく。
何度かダンスの先生を雇ったが、何一つ上達しなかった。見てるだけだと簡単そうに見えるけど実際にやってみると無理だった。
私とリオンは土日に、リリアナにダンスを教えてもらう事となった。
情けない……。
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