第50話 石鹸作りと一つの夢

 私の屋敷の裏庭に、リリアナとセントラ夫人、ルイスが来ていた。

 私達が集まっているのは、石鹸を作る為だ。


「ルイス殿下が、セレア様の弟子になったのは分かりましたが………目の前の装置はなんですか?」

「これは電気分解する為のものだよ。食塩水を電気分解して、水酸化ナトリウムを作るんだ」

「水酸化ナトリウム……聞いたこと無いものだけど、食塩水から作れるのね」


 リリアナに装置に雷魔法を撃ち込むように言い、電気分解が始まる。

 セントラ夫人には、容器に水魔法で精製水を出してもらった。


 私は作ってもらった材料を手順通りに作っていく。


 苛性ソーダ水を作りオイルと苛性ソーダ水の温度を合わせ、温度が揃ったら、苛性ソーダ水をオイルのボウルに飛び散らないように少しづつ注ぐ。

 次は二十分かき混ぜるんだが………折角だしルイスに任せよう。


「弟子ィィ!、出番だ」

「おっ?何をすればいいんだ?」

「これを二十分かき混ぜて欲しい。マヨネーズぐらいの固さになったらこの用意した型に流し込んでほしいんだ」

「分かった」


 ルイスがひぃひぃ言いながら、かき混ぜているのを横に私は、作っていた保温箱を用意する。


 本来なら、石鹸の液を保温箱に入れて一日寝かせて約一ヶ月、風通しのいいところで乾燥させるんだが……そんな時間は無いので魔法で時間遡行をしてもらう。


 時間遡行が出来るのは王族だけに与えられた魔法だ。ルイスが居てくれて助かるぅ〜。


「ゼェゼェ…セレア先生……出来、たぞ」

「体力案外無いんだな。ありがとう」


 石鹸の液が入った型を保温箱に入れて、ルイスに時間遡行を頼もうと思ったが、疲れているので休憩を挟もうという話になった。


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 裏庭にあるベンチに座り、私は作ってきたサンドイッチを持ってくる。


「あら、美味しいわね!これはセレアちゃんが作ったのぉ?」

「あ、はい。美味しいなら何よりです」

「お母様!セレア様のサンドイッチは世界一美味しいんですよ!」


 リリアナサン!?何を言ってるんです!?

 リリアナがキラキラした表情でセントラ夫人に喋りだす。


 ルイスは少し引いた表情で私の方を向き「大変だな」と言ってくる。

 ホントだよ。この子、身内にそんな目で言うんじゃないよ。


「セレアちゃんって料理出来るのねぇ。他には何が作れるの?」

「……サンドイッチしか作れませんよ」

「「え?」」


 ルイスとセントラ夫人が、私の方を向き「嘘でしょ?」という表情をしだす。

 自炊なんて出来るとお思いですか。無理ですよ、カップラーメンしか作れないんですから、それかサンドイッチしか作れませんよ。


 そんなに驚くことなのだろうか。一応貴族ですよ?シェフ居るんですから別に料理ができなくとも問題は無いでしょう?


「サンドイッチの腕はいいんだな」

「文句があるような言い方だな……」

「いや別に…何も?」


 ルイスは目を逸らして、逃げるようにする。おい逃げるな弟子。


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 休憩も終わり、ルイスに時間遡行を頼む事にした。

 ルイスが、保温箱に時間遡行を使い保温箱の中身だけ時間が進むようにした。


 時間遡行を使っているルイスからは白い色の光が出ており、神秘的な印象を私達に与えた。


「ふぅ〜これでいいか?」

「ありがとう。じゃあ早速中を見てみよう」


 保温箱の蓋を開けて中を見ると、四角い石鹸がそこにはあった。

 私は手に石鹸を取り触ってみる。

 確かにこれは石鹸だ。いや、石鹸を作ってたんだけど……。


 容器に水を入れて、作った石鹸で手を洗ってみる。


「泡立ちましたよ!」

「これが固形シャンプーなのねぇ……」

「成功だな」

「肌に害はなさそうだし、セントラ夫人とリリアナも試してみてください」


 私につれて、セントラ夫人とリリアナは石鹸を使って私と同じように手を洗い始める。

 二人は洗った後の手がツルツルになっている事に気付いて、感動する。


 ルイスは前世で使った事があるからか遠慮したが、折角だからという事で使ってくれた。


「これって匂い付きにも出来るのかしらぁ」

「えぇ、出来ますよ」

「それなら商売としては良いわね。お肌もツルツルになるし、安価で売れば貴族界だけでなく平民界でも売れるわぁ」

「これは、カートン家で商売をするんですよね?」

「うん。あそことは、商売関連でずっと頼る事になると思うし」


 オリカさんには、事前に石鹸を作ることを伝えてある為、成功したら直ぐにカートン家に石鹸を送るようにしてある。


 セントラ夫人とリリアナ、ルイスには手伝ってくれたという事で作った石鹸を何個か渡した。

 セントラ夫人とリリアナとは、前々から無料であげるという話はしていたからな。


「匂い付きの物が出たら直ぐに買うわ。これは持っといて損は無いもの」

「やはり、セレア様は凄いですね。このような物を思いつくなんて」


 思いついたのは私じゃないけど……この世界で作ったのは私だろうな。


 私は使用人を呼び出して、石鹸をカートン家に送るように言った。もちろん、説明と値段の書かれた手紙を添えて。


 こういう世界で化学をするのは、ワクワクするな。魔法も化学も似たような感じがするが、使ってみたら違うのだと実感した。


 弟子をとって、皆とこうやって実験をするのは楽しいな。

 私の夢も一つ叶ったような感じがした。

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