第49話 魔術師は弟子をとる

 文明祭の二日目は、私が多忙だっただけで何も無かった。

 いやぁ……まさかお化け役の人が一人休んで、代わりに私が魔術師の亡霊として出る事になるなんて思いもしなかった。


 回復薬を求めて永遠に彷徨う魔術師……っていう設定で廃墟に残され、来る人を驚かせ続けた。


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 文明祭が終わった後、長期休みが在校生に与えられた。

 そして、私の屋敷には第二王子であるルイスが来ている。おいおい…第二王子がたかが伯爵の家に来るんですか。


「殿下、用とは何でしょうか」

「殿下は止めてくれ…ここの会話は外部には漏れないようになってるんだろ?」

「…確かにそうだけど。分かったよ、敬語は無しね」


 魔道具アーティファクトで室内の会話が外部に漏れないようにしてあるため、私がルイスにため口なのは秘密になる。


「俺に魔術を教えてくれると言っただろう?」

「確かに言ったね」

「それで何だが、俺を弟子にしてくれないか」

「………はぁぁ!?」


 第二王子を弟子って、伯爵にそんな事出来るとお思いで!?

 私は本気かこいつという目をルイスに向ける。


「頼む!お願いだ!ヴィルアに良い所を見せたいんだ!」

「そもそも、私が師匠で良いの?名を馳せるかも分からないんだよ?」

「セレアは既に他国にも名を馳せているぞ。隣国からしたらはセレアと交渉できないかと言われている」

「そ、そうなのか……。知らなかった。自分の名前が他国に出ているなんて」

「セレアの魔術は優れている。セレアが師匠になってくれるのなら、どんな王宮魔術師より良い技術が渡ってくるはずだ」


 厚い信頼だな。私ってそんなに凄腕なのか?

 まぁでも、陛下から王宮魔術師の所長にならないかと言われるくらいだもんな。

 自分では分からないけど、他人からしたら凄いことをしているのかもしれない。


「陛下は許しているのか?」

「勿論、許可は取ってきているさ。父上もセレアが師匠なら問題ないと言っていた」

「陛下が許してるなら…まぁ。いいか」

「そういえば、王宮魔術師が言っていたが、魔術師になるには魔力が沢山無いとなれないのだろう?俺はどうなんだ?」

「うーん。正しくは魔力が安定していないと魔術師になれない、だね。ルイスは四歳だけど魔力は安定しているし、才能があると思うよ」


 正直、ルイスの魔力の安定さに私は驚いていた。

 揺らぐことのない、安定した魔力、そして量も申し分ない。


 流石は続編の攻略対象と言うところか。ヒロインが魔術好きなら、攻略対象も魔術に関連するものを持ってると思ったが……これほどまでとは。


 ルイスが弟子になるのなら、育てやすいし私の将来も安泰かな。

 第二王子を弟子にした魔術師……ふむ、強そうだ。


「セレアは俺を弟子にしてもいいのか?」

「ルイスみたいな才能の持ち主が弟子になるなら、私は嬉しい限りだよ」

「ほんとか!なら、早速俺を弟子にしてくれ!」


 ルイスはキラキラした目で私に訴えた。


 この世界で、弟子をとるにはある契約をしなくてはいけない。

 ある契約とは、『絆の契約』。


 お互いの魔力を、専用のペンダントに宿す。お互いの魔力が混ざり合い、ペンダントにお互いの名前が刻まれれば『絆の契約』は結ばれる。


 専用のペンダントは大体、魔術師や職人、魔法使い、騎士等に与えられる。

 普通の家系にもあるが、殆どの家系は使わないだろう。


 私はペンダントを自室から持ってくる。

 師匠になる者が先に魔力を流し込み、後から弟子になる者が魔力を流し込む。


 魔力を流し終わると、ペンダントにお互いの名前が刻まれる。


「セレア・アルセリアとルイス・ルーベンって書いてあるな」

「こんな風になるんだね…。実際に見るのは初めてだ」

「セレアの父親は弟子をとっていなかったか?」

「居たけど、私は会った事なかったから。大抵、母についていくか研究室に籠もるしかしてなかったし」

「後者は子供がする行動とは思えんがな」


 なんだよ。ルイスだってそうだろ、四歳の子供が政治の天才って普通は呼ばれないんだよ。

 私が言われる筋合いはない。


「『絆の契約』は出来たし、師弟関係は築けた訳だ」

「外では俺はセレアの事を、師匠を呼べば良いのか?」

「師匠よりは先生の方が良いな。師匠と呼ばれるのは何かムズムズする」


 私がまだ未熟だと思っているからなのか、師匠と呼ばれるのはどうしてか体が痒くなる。

 まさか私が弟子をとるなんてなぁ。


 そんなの思いもしなかった。前世では、後輩という存在は居たけど、後輩というよりお互いを支え合う仲間!って感じがしたし。


「セレアは、最近何か作ろうとは思わないのか?」

「石鹸を作ろうとは思ってるよ」

「石鹸?石鹸って自作できるのか?」

「作れるよ。色々、面倒くさい手順をふまないといけないけどね」

「なら、俺もその石鹸作りに参加して良いか?」

「リリアナとセントラ夫人も居るけど…いいの?」

「問題ない」


 早速弟子として、魔術と全く関係ないけど働くことになるのか。

 人手が増えるってなかなかいいものだな。


 普段は私一人で行ってた訳だし……沢山人がいるって便利ー。


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 その後、ルイスは王城に帰り明後日に石鹸作りをする事になった。

 リリアナとセントラ夫人も明後日で問題ないとの事なので、私は明後日までに容器の準備をする事になった。

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