第48話 お揃いの熊さん

 私は先導して長い廊下を歩く。

 隣には、ユラユラと今にも動きそうな騎士が居る。


 突然動いてくるのか?それとも逆に何もしてこないとかかな?

 心霊とか信じないし、怖いのは大丈夫なタイプなんだけど……こうやって考えると確かに怖いのかもしれないな。


 私の時は、何事も無く進むことが出来た。


「リリアナー!何もなかったよー」

「ほ、ホントですか?嘘じゃないですよね!?」

「大丈夫だって…嘘はつかないよ」


 リリアナがゆっくり廊下を歩く。そして、騎士の横を通ろうとした瞬間。

 騎士は突然崩れ落ち、兜が床に落ちる。

 静かな廊下にガシャン!という大きな音が響く。


「ヒィァァァァァァ!せ、セレア様ぁぁぁ!」

「あちゃぁー、兜が落ちるのかぁ」

「何冷静に考察してるんですか!」


 涙目のリリアナを慰めながら、更に歩き進める。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 その後も、何個かのビックリ要素に出会った。

 私は驚くことは無く、リリアナを慰める係をしていた。


「や、やっと……ご、ゴール……です、か?」

「もうすぐで終わるよ」


 リリアナがゴール目前だと分かった瞬間、恐怖から来た表情を切り替え、ピシッとしだす。

 さっきまで涙目だったのに…切り替えが、早くない?

 リリアナの泣き顔見れたし、いいか。


「ん?セレア様、向こうから女性がこちらに来ていませんか?」

「……ホントだ、誰だろう」


 向こうから、平均身長の女性が歩いてくる。

 マスクをつけ、顔が分からないようになっていた。


 そして、私達の前でその女性は止まり告げた。


『私………綺麗?』

「……綺麗だと思います」

『これでも………?』


 リリアナが答えると、女性はマスクを外し、裂けた口を見せる。


 完全に忘れてた!ここでオリカさんが来るのか……!

 忘れてたから少しビックリしてしまった……。


「綺麗だと思いますよ」

『…………』

「……………」


 私の発言で、口裂け女及びオリカさんとリリアナは黙ってしまった。

 え?何故?私何かやらかした…………?


 口裂け女はマスクをつけ直し、私の手の上にゴールへの鍵を置いて、消え去った。


 リリアナは表情が暗く、私の服をギュッと強く握っていた。


「…………セレア様」

「ハイ…」

「誰に………綺麗と言いましたか?」

「え?いや、えーと…」


 これは、私の発言で反応が変わるタイプですかね?

 本当の事なら口裂け女に言ったと返すのだが、リリアナの場合は違う。

 ヤンデレの場合は、ヤンデレに対して言ってると言わないと危ういのだ…!


「それは勿論!リリアナに言ったんだよ…!」

「そ、そうですよね!えへへ♡勘違いしてました。セレア様があの女性に対して綺麗って言ったのかと………」


 パァァ!と暗い表情から反転して明るくなる。

 難は逃れられた。いやぁ、良かった良かった。鍵も入手したし、早くゴールしよう。


「そういや、セレア様、何で早く答えなかったんですか?最初から私の事ならそう言えば良かったのでは?」

「リリアナが突然、当たり前の事を言い出すからびっくりしちゃって!」

「なるほど♡すみません。当然の事でしたよねえへへ♡」


 リリアナが上機嫌に戻り、私は内心焦りながら、ゴールへの扉の鍵を開けてお化け屋敷を完走する。


「おめでとうございまーす!って!会長ー!?」

「セレア様、お化け屋敷は行かないと言ってませんでしたっけ…?」

「リリアナに誘われたから……折角だしと思って」


 扉を開けると、生徒会のエルトンさんじゃない方の会計が私が参加していることに驚いていた。


 メリーは私がお化け屋敷に行かないと言っていた事を聞いていた為、疑問に思ったよう様だが、リリアナと言うと直ぐに納得をした。


「それでは!完走したお二人には此方のグッズをどうぞー!」

「ありがとう」

「…可愛いですね。熊さんのちっちゃいぬいぐるみです」


 私とリリアナはお揃いの小さい、手のひらサイズの熊のぬいぐるみを貰う。

 私の知らない商品だ……屋敷の皆が考えたのだろうか。


 景品かぁ…確かに可愛いし、これなら頑張って完走しようと思えるな。

 リリアナの熊のぬいぐるみは水色のリボンが付いていた。反対に私のは、黒いリボンが付いていた。


 もしかして、私とリリアナの髪色を…?

 そう思い、庭師長のナーセルの方を向くとグッと親指を立てた。


 やっぱり、ナーセルか。

 ナーセルは庭師という事もあり、手先が器用だ。故郷では近所の子供たちに人形を作ってあげていたらしい。

 これは、良いサプライズだな。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 リリアナがウキウキで貰ったぬいぐるみの首元に付いていたリボンを外し、腕に結ぶ。


「何してるの?」

「えへへ。家に帰ったらこの熊さんをセレア様風にするんです♡」

「どんな風にするの?」

「白いコート着せたり、魔道具アーティファクト風の物を持たせたりします!」

「随分気に入ったみたいだね」

「はい!」


 リリアナは嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめる。

 可愛い。ぬいぐるみを抱きしめるリリアナを見ていると、まだ幼い部分があるんだなと思ったりした。


 笑顔が可愛い。仕草が可愛い。声可愛い。全てが備わってるリリアナは何なんだ。

 天使か?妖精か?女神か?


 そんな事を思いながらも、文明祭一日目は終わった。

 とても良い時を過ごした…。

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