第47話 お化け屋敷はご褒美

 私はリリアナと文明祭を楽しんでいた。

 食べ物はもちろん、色んなものを体験した。

 そして今、私達はお化け屋敷に来ている。


「ねぇリリアナ。リリアナって怖いの駄目じゃなかったっけ」

「うぅ……そうですけど。セレア様が作ったお化け屋敷…体感したいじゃないですか」

「怖かったらリタイアも出来るから、きちんと言うんだよ?」


 リリアナが震えながらお化け屋敷のワープ鏡をくぐる。私もそれに続いてワープ鏡に入る。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 ワープ鏡から抜けると廃墟の外に出る。

 そういや、まだエルトンさんとオリカさんとリオンはここに居るのか。


 文明祭は二日に渡って行われる。

 一日目はルーベン国の者だけが参加できる。

 二日目は他の国の者も参加できるようになる。その為、二日目の方が仕事が多かったりする。


 生徒会ではリオン達は一日目に仕事をし、二日目は任意で行う。私はその逆だ。


 にしても、実際に体験することになるとは思ってなかった。

 リリアナは強がってしまったみたいだし……多分本人は進んでいるつもりなのかもしれないが、三歩しか進んでいない。


「リリアナ、手繋ごうか?怖いんでしょ?」

「うぐぅ…すみません。手を借ります」


 気弱になっているな。

 私は誰が出るのか何となく把握しているが、いつ、こんな風で来るというのは全て皆に任せているし……実際に見ると怖いのかもしれないな。


 廃墟への道のりを歩くと、横にある墓から音がした。あの墓は徹夜で作ったものだ。

 夜中にタンクトップのおっちゃん達と作ったからな…暗い中で作業したのは馬鹿だった。


「せ、セレア様っ!あそこから音がしましたよ!?」

「風の音じゃない…?」

「墓から風の音がするわけないじゃないですかぁ!!」


 リリアナをこうやってイジる日が来るとは…お化け屋敷に感謝せねば。

 それに怖がって抱きついてくれるからな。ご褒美が沢山だ。


「セレア様…何か寒気がしませんか?」


 これは魔道具アーティファクトの影響だろうけど、無理やり寒気を引き起こすために氷魔法を出しているから下手したら風邪をひきかねない。


 私は自分の羽織っていた上着をリリアナに被せる。

 もうすぐで冬に入る事から、私はカイロを常に持っていた。


「ありがとうございます…。ってひゃぁぁぁ!」


 リリアナが悲鳴を上げた、視線の先には身長の高い、赤い帽子を被っており白いワンピースを着た女性が居た。

 普通は怖いだろう。なんせ身長は八尺、役二百四十センチもあるのだから。


 八尺様、エルトンさんが演じている。

 二百四十センチの身長にするのに、歩きづらい格好をしてもらっている。


「リリアナ、あの人に話しかけたら駄目だよ」

「それは何故ですか?」

「うーん。連れ去られるかな」

「わ、わかりました」


 まぁ、この八尺様は本物じゃないし連れ去られる事は無いし、話しかけたり指を指しても特に何もおこらないけどね。


 帽子を被っているからか顔は分からないし、身長は人とは思えないほど高い、しかも話す言葉は全て「ぽぽぽ」で声色だって変えられる。

 そんな事から不気味さが引き出される。


 私とリリアナはエルトンさん及び八尺様の前を通るが八尺様を見ず、話しかける事もせず指も指さなかった。


 多分、何事も無く廃墟に入る事に成功した。

 おかしいな…オリカさんが来るはずなのに………やはりパターンを変えているんだな。


 知らない場所から来たら、流石にビビるかもしれないな。


「廃墟…実物なんですよね。今すぐ倒れそうな感じがします…………」

『…………アソ………ボ………?』

「誰ですかっ!?」


 痛い痛い!リリアナさん、強く抱き締めすぎ!

 リリアナが怖がった声は人形が発した言葉だ。

 進行方向には絶対に声の主である人形がある。今は知らないフリをしておこう。


「だ、誰かが遊ぼって……」

「ここの霊とかかな?」

「小さい女の子の声でした。迷い込んでしまったのでしょうか」

「どうだろうか。ひとまずは進もう。何か分かるかもしれない」

「セレア様…何か知ってそうな雰囲気がするんですが……………」

「さぁ…分からないな。何せいつ、どんなものが出るのか私は知らないからね。予想している場所から出ないのが普通だから」


 そのせいで何気に自分もビクビクしないといけないなんて…お化け屋敷に来るつもりなんて無かったのに。

 推しからのお誘いは断れないし……。


「うわぁぁぁ!せ、せれ、セレア様!あそこに人影が…!」

「人影…?ん?ねぇリリアナ、あそこに誰か居ない?甲冑を着た」

「え?た、確かに居ますね」


 動く騎士に、人影……こりゃあてんこ盛りだな。

 あの騎士はリオンか。様になってるなぁ。多分怖いからなんだろうけど、足が少し震えているから、余計人らしさが無くなっているな。


「セレア様…あそこって絶対に進まないと行けない場所ですか?」

「あー。そうだね。行かないととここからは進まないよ」

「う、うぅ〜。進みたくないんですけど……」

「なら、私が先導するよ。リリアナは後ろから付いて来て。そうしたら何か起こっても被害を食らうのは私だけだし」

「…分かりました。先導をお願いします」


 リオンが居る場所は進行通路……リリアナが凄い怖がっているし、流石に可愛そうだから先導しよう。

 既に良いものは沢山見れたし。

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