第36話 後世に伝える写真
母は、私が来ることを予測していたのだろうか。
そういや、封筒に入っていた手紙は何が書いてあるんだろうか。
この筆記は…母のものだ。
『私達のセレアちゃんへ。
この手紙を読んでるって事はセレアちゃんは大事な人が出来たのね。
手紙で伝える事になったけどおめでとう。お母さんは応援しているわ。
もう、私はこの世には居ないのでしょう。
お母さんね、セレアちゃんを置いて逝ってしまう事をとても悔やんでいたの。セレアちゃんは頑張り屋さんだから沢山悩むことがあると思うわ。
まだ幼いのに、親が居ないなんて子供には酷な事よ。私が弱くなければ、成長した貴女をその場で見れたのに……ごめんね。
お母さんは空から貴女の成長を見てみるわ。
愛しているわ、貴女のお母さんヴィータより』
所々、手紙の字が滲んでいたり力が抜けたのかガタガタだったり紙が水で濡れたのか形が変形していた。
泣きながら書いたのだろう。病気で力を入れることすらままならない筈なのに…読めるその字は母の努力が見れた。
「お手紙…どうでしたか?」
「母は最後まで私の事を思ってくれたんだな」
「セレア様のお母様はこの手紙をメリーさんに渡していたそうです。いつかここに来る日が来た時に渡すようにと……」
「それで、リリアナがこの絵と手紙を持っていたんだね」
母の字は優しくて、母をそのまま象徴したような字だ。
そんな母を私は忘れていた。父は母が不治の病にかかったと知った時、いつも無口なのに、誰よりも喋っていた。
そして、母の為に働く量を増やし医者だって転々とした。
でも私は、母が不治の病にかかった時、泣くことしか出来なかった。
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ベッドに横たわり咳き込み、いつも温かい手は冷たくなっている母親。
「お母様ぁぁ…。やだよぉ…ぅ…ひぐっ…」
「大丈夫よ。きっと、きっと、治るから。セレアちゃんが祈ってくれたら神様がその願いを叶えてくれるわ」
「沢山祈るよ!だから…お母様は…ぅ……良くな…ぅる?」
「えぇ、きっとね」
普段は信じない神様を、この日だけは…神様を信じた。
お母様は、何もしていないのに。どうしてこんな不幸な目に合わないといけないの?
「ヴィータ!きちんと寝ていなさい…」
「あら、レディオ。私はまだ未来のある貴方と私の大事な子を見ていたいの………」
「その言い方はまるで、自分にはもう未来がないみたいな言い方じゃないか。やめるんだヴィータ。君はまだ生きるべきだ」
お互いの名前を呼び合う両親。
私に、何かできる事は無いのだろうか。
必死に探した、必死に、自分でもこんな小娘でも出来ることを…結局は何も無かった。
そして数ヶ月たち、お母様は亡くなった。
お母様が亡くなった日、冷たくなる手を私は握っていた。
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葬式の日、雷雨も鳴り響く。私も、周りの大人も黒い服装をしていた。
泣く人も居たり、言葉が出ないのか無で立ってる人だって居た。
お父様は、私を抱っこして泣いていた。
「…お母様は、帰ってこないの?」
「……………そうだ。ヴィータはもう…」
こんなお父様の姿を私は初めて見た。何故か、私はお母様が死んだ時、何も感情が出なかった。
泣くことも出来なかったのだ。
「レディオ様。奥様の事、心中お察しします」
「申し訳ありません…」
「貴方様が謝ることではありません。お子様も大変おつらい経験になってしまったでしょう」
葬式に来ていた母の知り合いのおばさんがお父様に語りかける。
深くは分からないがお母様の事を言っているのだろう。
お母様は沢山の人に愛されていたんだな。
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母が死んだっていう感覚が当時は無かったのだろう。父が自殺をした時も乳母に何度も慰められたが泣いたことは無かった。
だが、私は今泣いている。この写真や両親との思い出を振り返ったら、両親が居ないことが身近にやっと感じれて、涙が止まらなくなる。
そして、私に親の、思い出の大切さを思い出させてくれたリリアナには感謝しなくてな。
「…リリアナ。ありがとうここに連れてきてくれて」
「いえいえ。セレア様の奥様になるんですから。夫の事くらい考えなくてはいけません。過去の事も辛い事も全部山分けですよ」
リリアナは泣いている私の涙を拭き、私に抱擁をし、夜風が吹く中、暖かさを私に教えてくれた。
リリアナの体温と笑顔に私は辛さも悩みも吹き飛んだような感じがして、リリアナに抱擁を返す。
「セレア様。私、この景色とても好きです。セレア様の御両親がここで告白をされていたと聞きました。そんな場所にセレア様と来れた事を私は嬉しく思います」
「私も、リリアナと来れて嬉しいよ。私にとって今日はとても良い日だ。忘れたくない、そんな日になったよ」
「それなら、セレア様の家族絵のように私達も写真を撮りませんか?」
そう言われた時、リリアナはカメラを取り出した。そのカメラ…私がリオンにあげたものだ。
準備周到だな。撮ることさえも踏んでいたのか。
「セレア様!じゃあいきますよ!」
リリアナがカメラを片手に私とひっつきながらカメラのシャッターを押す。
カシャッと音がなり、カメラ内に私とリリアナが写っていた。
後世にこの写真を紡いでいこう。
父と母のように。
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