第35話 両親との思い出

 会話が弾み、時間を忘れてしまう。


「そういえば。セレアさんにリリアナさん…今日かい………いえ、やっぱり何でもありません」

「どうしたのオリカさん」

「気にしないでください。日付を間違えました」


 オリカさんが間違えるなんて珍しいな。

 さっき、リリアナがオリカさんに何か目線を向けていたみたいだったが…気のせいかな。


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 時間が立ち、私とリリアナはオリカさん達の居た情報屋から立ち去る。


 店から出て、リリアナは急ぎ足で歩く。


「早くしないと間に合いません!」

「そんなに遠いの?リリアナの行きたい場所」

「遠い訳ではありませんが、もうすぐで夜です。あそこは夜に行くべき場所ですから」


 夜…そうか、もうすでに夕暮れ時。場所が何処なのか分からないがその時間帯でしか見られないものとかがあるからな。

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 更に時間が立ち、藍色の空に変わり始めた時。

 私はリリアナに目を閉じるよう言われた。


「…前が何も見えないんだけど」

「今、目の前に私がセレア様と来たかった場所があります」


 目を閉じてるせいでリリアナの表情は見えないが、そう言うリリアナは嬉しい声色をしており、少し震えた声だった。


 リリアナに目を開けてと言われた。


「………ッ!」

「綺麗でしょう?ずっとこの景色を見せたかったんです」


 感激なのか、景色を見た瞬間、私の言葉は詰まった。

 私が見た景色には、碧色あおいろの花が一面に咲いていた。

 そして、そんな花を輝かせる藍色の空に浮かぶ星々。


 こんな綺麗な景色があったのか…。


 何故だか、この景色を覚えている気がした。一度見たことのあるような雰囲気がした。

 思い出せないが大事な思い出だったような。


「セレア様。実はセレア様は一度ここに来たことがあるんですよ。何か思い出しませんか?」

「………既視感があるんだ。でも、誰と来たのか。いつ来たのか…」


 リリアナは私の言葉を聞いて、私の手に封筒を置く。

 この封筒は?中を開けると、手紙と絵が入っていた。


「これ……どうして……………」

「セレア様は思い出をあまり残してません。カメラというものを作るのに、セレア様には思い出を残す気が無さそうに見えるのです」

「思い出の…大切さを知らなかった。いいや忘れていたからなんだろう」


 絵には、幼く淡い青色である水色の髪色をした笑っている少女。

 そんな少女を愛しそうに眺める、翠色の髪色をした母親の姿。

 そんな二人を抱きしめる水色の髪色の父親の姿が写っていた。


 その絵の景色は今、私が見ている景色に激似していた。

 絵の少女は、私だ。成長するごとに忘れていく親との思い出を、親の表情を思い出していく。


「私は、親とこんな風に接していたんだな。本当に楽しそうだ」

「…メリーさんから聞きました。セレア様とセレア様のご両親はとても仲が良かったと……悲しい事も嬉しい事も全て分け合う。そんな御家族だと」


 確かに、そうだったのかもしれない。


 私はこの家族絵を見てある思い出をリリアナに語る。思い出した思い出を。


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 私が三歳の時に両親と初めて、旅行をした時の話だ。

 旅行先は両親が大好きな星が見える花畑だという。


「セレアちゃん。今から行く場所はね、レディオが私に告白をしてくれた場所なのよ」

「ヴィータ…君はいつもその話をするな。セレアも何度も聞かなくても良いんだぞ?」

「あら、何よレディオ。私は貴方に告白されたのが嬉しかったのよ。きちんと後世に残しておかないとね」


 母は、父の話をするのが好きだった。

 口を開けば惚気話ばかりで幼い私にはあまり分からなかった。


 でも普段はあまり話さない父がこういうときだけよく喋るため、母の話を聞くのは楽しかった。

 仕事人で生真面目な父を動かした母を私は尊敬していた。


「もうすぐよ、セレアちゃん」


 母の言葉に、私は外を出る。

 そこには、夜空に照らされる碧色の花々があった。


「どう?綺麗でしょう?ここはね、レディオが私に告白する時に連れてきてくれた場所なの。私はねここが一番好きなの」

「キレイ。こんなにキレイな場所があるんだね」

「他にも沢山、綺麗な場所はあるさ。セレアがこの景色に心を打たれたのなら旅をするのもいいだろう。俺たちみたいに」


 私の頭を撫でながら父はそう言った。

 父は王宮魔術師で、母はただの酒屋の娘だった。


 父が疲れている時に酒屋に行くといつも、母が明るい笑顔で癒やしてくれたと語ってくれた。


 父と母は結婚後、沢山旅をしたと聞いた。

 理由は幼い私に分からなかった。


「…まじゅつしなのに、旅をたくさんしたの?」

「魔術師だから沢山するんだよ。魔術師はね沢山の想像力が必要なんだ。だから、こういう所でインスピレーションを得るんだよ」

「まだ、私には分からないよ…私だってお父様みたいな凄いまじゅつしになってみたいのに」

「旅をする事が必要とは限らない。成長したらセレアにとって必要な事が分かるようになるさ」


 当時の私は何故、自分が魔術師を目指したのかすら、分からなかった。

 幼い自分の中では父のような偉大な魔術師になってみたいと思っていた。だが、きっと本当は違うのだろう。


 本当の魔術師を目指した理由は成長した自分ですらまだ分からないのだから、幼い頃の理由は口実にしか過ぎないのだろう。


「セレアちゃん。いつかね自分にとって大事な人が出来た時、ここに一緒に来るといいわよ。もし、私達を忘れてしまった時、ここに来れば、私達だけでなく大事な事を思い出せると思うの」


 その場の私は母のその言葉の意味が分からなかった。でも、今の私なら分かる。

 私は本当に両親を忘れた。そして大事な人とここに来た。


 そうしたら、両親だけでなく思い出の大切さや旅をする楽しさ、大事な人といる時間の尊さ。

 ………こういう意味だったんだね。実感したよ。

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