第28話 ある意味修羅場

 手紙では好条件を出してくれると言っていた。

 良すぎると断りづらいから、微妙で頼む!


「私と婚約してくだされば、セレアさんが魔道具アーティファクトを作るときに使う材料や人件費など全てこちら侯爵家で負担します。そして侯爵家が学園でのお金も支払いセレアさんに返しましょう」


 金の負担か…高いからありがたいなぁ…いやぁでもぉ…、お金で釣られたくないからなぁ。

 よしっ。相手が承諾する断り文句を考えよう。


「どうでしょうか?セレアさんにとっていい条件ではありませんか?婚約すれば我が侯爵家の後ろ盾もありますし…」

「…とても良い条件ですがお断りさせてもらいます」

「それはどうしてですか⁉」

「お金はとても嬉しいのですが、やはり自分で作るものは自分で買った方が生産者としては良いので…素晴らしい条件ですが、この縁談お断りさせていただきます」


 私は深々頭を下げて断るがどうやらルートさんは気に入らないようで、私の手を突然強く握り叫ぶ。

 ちょ…ここ室内!


「何故です!あなたにとっていい条件なのは間違いないはずです!後ろ盾は必要でしょう!」

「いや…だから、理由は…」


 駄目だ…何度説得しても聞いてくれそうにない。


 困っていた私の隣に突然知っている黒髪の少女が現れる。

 ん?なんでこんなところにリリアナが…。


「君は…リリアナ様⁉」

「すみませんがルート侯爵、セレア様はこれからご予定があるので返していただきます」

「あっ…ちょ、セレアさん!」


 リリアナに無理やり連れられて外に出る。リリアナは私の腕に抱き着きまるで最初からそうだったというようになっていた。

 何、平然としているんですか?


「何をそんな不思議そうな顔をしているんですか?何もおかしくないでしょう?」

「いや…なんでも何も、どうして場所を知ってるの?私なにも言ってない気がするんだけど」

「匂いで分かりますよ…私の愛を侮らないでください♡」


 にお…匂い?私匂いますか?ていうか怖…リリアナの愛ってこんな風でしたっけ。

 とてもじゃないですが受け止められないほどの愛が降り注いでるような感じがする。いや、降りかかってるというより私にのしかかってる感じか。


「まぁ。嘘で…いや嘘じゃないですね。失礼しました」

「…え?」

「匂いで判断したのは座ってる場所で、お店は手紙をこっそり読ませていただきました」

「いつの間に⁉」


 あれ…?着替えってリリアナが先にして、その場に私も居たよな?見る時間なんて無いと思ってたんだけど…。

 リリアナって透視能力とか持ってないですよね?


「セレア様と朝食を食べ終わって準備をして、外に出ようと思っていたらメリーさんがある手紙の模写ですと言って渡されたんです」

「その手紙の模写と言うのが…ルートさんの手紙だという事か」


 そんな事があったんだ。見送ってたけど、私が玄関に行く前に渡されていたのかな。

 まぁまぁ分かった。だが匂いでわかるって本当に何なんだ?好きな人の匂いってわかるもんなんです?

 ヤンデレってそういう特殊能力あるんですか。


「そうだセレア様。何ですぐ断らなかったんですか?断るのは決まっていましたよね?」

「え…?いや…その」

「浮気ですか?もしかして、好条件だったから悩んだとかじゃないですよね?立派な浮気ですよ?私の事好きじゃないんですか?結婚しないんですか?」

「え⁉何で…好きだし結婚はしたいよ?浮気じゃ…」

「十分浮気ですよ。何でそんな躊躇するんですか」

「まさかだけど、リリアナは私のリリアナ愛を疑っているのかな?」


 私のまさかの発言にリリアナは顔を火照る。

 ヤンデレにはヤンデレを…これは常識です。しっかり覚えておきましょう。テストに出てくるぞ。


 私はここでリリアナ愛を語ってもいいぞ!私は最推しの為ならいつだって早口で話してあげよう!

 前世で唯一の友達にリリアナの話をしたらキモいって言われて友達ゼロになったんだなそういや…あれ?もしかしてリリアナに嫌われる可能性が………。


 うっ、やばいかもしれない…自分で心を抉っている気がする。


「セレア様って突然突拍子もない言葉を言いますよね?」

「そうかな?気のせいじゃない?」


 揶揄う様にいうとリリアナはむすっとした顔をする。

 すると、聞き取れなかったが何かを言っていた。


「これだから…セレア様は、皆に好かれるんですよ……。やっぱり、閉じ込める必要が…」

「何か言った?」

「いえ、何にも♡」


 気になるけど、リリアナの拗ねた表情が可愛いからもう何でもいいや!

 そういや、何でルートさんは私を引き留めたんだ?何も私をあそこまで引き留める理由なんて無いだろう。


 もしかして、私の魔道具アーティファクトが欲しかったのか?それともアルセリア家を取り込もうとしたとか…。

 それか本当に良心でお金を出そうとしていたのかな…そうだとしたら案外痛むが…。


「セレア様、他の人について考えてます?」

「いいや、そんなことは無いよ?」


 お泊りしてからリリアナのヤンデレ度が上がっていっている気がするんですけど気のせいかな。

 いや、そんなことないよな。気のせいか。


 リリアナの圧には勝てないしがないオタクは静かに言われるがままにしとこう。

 それが穏便だ。それかリリアナの事だけ考えればいいか。

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