第27話 好きな人いるけど縁談

 食卓に並べられたパンを食べ始める私に遅れてやってくるリリアナ。

 私はバターが塗ってあるパンを頬張りながらリリアナに縁談の事を伝える。


「リリアナ。昨日、縁談の返事書いたでしょ?それで今日の昼過ぎに縁談をしないといけない」

「昼過ぎですか…細かく何時ですか?」

「手紙に紅葉が落ち輝く日差しが木々を照らす時に…ってあったから二時ぐらいかな」

「…伝え方ダサすぎませんか?」

「誘い文句だよ。察してあげな」


 それに多分二時だから下手したら感が外れている可能性もある。

 この世界の誘い文句は分からん。日時の伝え方独特すぎるんだよ。おかしいだろ。


 そういう季語かと思うわ。


「分かりました。昼過ぎたら私は買い物をしてきますね。城下街に出ようと思います」

「分かった。気を付けるんだよ」


 朝食を食い部屋で着替え書類をまたもや片付ける。

 リリアナも着替えて何を買うか決めているようだった。


「セレア様、美味しいデザート店ってありますか?アルセリア家付近の城下街は来たことないので…」

「そうだなぁ…。ここを出て北に進むと料理専門の店が沢山並んでる場所がある。そこに行けばあるかも」

「北ですか。観光ついでに色々買ってきます」


 楽しそうなリリアナにほんわかしながらも書類で現実に戻される。

 なんで貯めてしまったんだろう。


 縁談での交渉で利益が出なかったらすぐに断ろう。他の貴族と協力関係を築くのもいいかもしれないけど今の時点で十分だしなぁ。


 縁談の場所は北にある有名店か…。あれ?北?やっべぇ…リリアナと被る可能性がある。

 有名店だし結構まずいんじゃないんですかねぇ。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 何事もなく昼食も済ませ、リリアナは買い物に行った。

 さて、私も着替えなくちゃいけないな。


 髪型はメリーに任せて、おしゃれ皆無な私はメイドに服装を任せた。要は全てメイドに投げやりしたのだ。

 仕方ないね。センスなんて持ち合わせてないからな。


「メリー。そろそろ私も出るよ」

「気を付けてくださいませ」


 アルセリア家の門を出て、北に進み縁談場所に歩く。

 馬車なんか使うか!まだ死亡フラグが立っててもおかしくはない!

 だから、一時に出たんだよ!歩きだから絶対間に合わないもん!


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 ちょうど二時になりかけている頃に縁談場所に着いた。

 店に入ると、待っていましたという表情の男性が一人。


 紺色の髪色をした男性。彼がペストル侯爵の息子、ルート・ペストルだ。


「すみません。遅れましたか?」

「そんなことないですよ!楽しみで早く着いてしまっただけですから」


 そんな風に遠慮気味に言っているがさっきまで凄いそわそわしてましたよねぇぇ⁉

 しかも、待っていましたと言わんばかりの表情をしていましたよね⁉

 なーに、私はいつでも待ちますよ感出してんだ!


「まさか、縁談を受けてくださるとは思っていませんでした」

「いえいえ…いつまでも縁談から逃げるわけにはいかないので。それに交渉についても気になりまして」


 後半は本当、前半は嘘だ。縁談なんかしてられっかぁ!うちには決めた子が居るんだ!

 リリアナっていう…愛らしい少女なんだがなっと寝顔の余韻が…。


「まぁまぁ…まずは世間話でも」

「…分かりました」

「私はセレアさんに対して憧れを持っていたんです。こんな実力の持ち主がこのまま死んではだめだと思いました。なので縁談を持ちこんだんです」

「後継ぎですか?それなら問題はありません。弟子をとればいいだけの話です」

「弟子⁉後継ぎも大事でしょう!家門を継ぐのは血筋の役目では…」

「我々アルセリア家は技術さえ受け継げれば良いので誰でもいいんですよ。貴族らしい家門ではないので」


 驚くルートさんを私は無視しながら話を進める。

 貴族は後継ぎ命かもしれんが私は違うからな。技術命だからな。


「ルートさんは後継ぎの為に私に縁談を申し込んだんですか?」

「そうではないです!憧れててセレアさんの実力を残そうと考えていたのは本当です!」

「なるほど…びっくりしました。てっきり後継ぎの為に使われるのかと…」


 失礼だが、そうとしか考えてなかった。すまねぇ…そういう本とか読み漁ってたから失言だった。


「コホン…!それでは話を戻しまして。セレアさんは好きなものとかあるんですか?」

「っリ…じゃなくて、甘いものとかは何気に好きですかね」

「なるほど。甘いものですか。なら奢りましょう」


 嘘だろ?こんな高級店のものを奢るんですか?いやまぁ貰えるなら貰うんですけど。流石侯爵…金持ちは違うなぁ。


 あれ…?待てよ。私今、結構しっかり縁談してません?やばくないか?このままただ飯して断るのは良心が傷つくのだが……。


「そんな大丈夫ですよ。奢ってもらうなんて…」

「いえいえ…セレアさんに惚れてもらいたいので」


 この男…見た目にしては素直だな?第一印象はクール系だと思ってたが素直だな君。

 こんなのがゲームの裏で生きていたとは…ゴウレス先生も含めて案外キャラ濃い人が居るんだな。まじかよ。


 すまないが惚れる気は無いんだ。見た目は確かに好みかもしれないが心に決めた人が居るんでな…。


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 世間話をしながら時は進み、一時間が経った頃。


「セレアさん…それでは交渉の話に移りましょう」


 来た!この交渉によっては縁談を呑み込まざる負えないかもしれない!

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