第18話 推しに勝負を挑む

 木の上で眺めている私は足が痺れてきていた。

 やばい…変な体制で見てたから…動きたいけど動いたらバレる…!


 それに気づいたのかリオンが石を取り、腕が見えない様に遠くに投げる。

 すると、遠くの草にあたりガサッと音がする。


「人か?場所を移動した方がいいかもな」

「な、なら早めに行こうよ!暗くなってくるかも!」

「夜になると魔物も狂暴化する。イエラの言う通り日没も近い、荷物を持って移動しよう」


 そう言いイエラ達は荷物をまとめて去っていった。


 私とリオンは周りを確認しながら草木や木の上から出てくる。


「まさかイエラ達だったとは…」

「あそこは戦力が固まっている、正面から戦っても勝てないし生存すればいいから隠れるしか無かった」

「なるほど。だから隠れてたんですね」

「へぁっ⁉」


 後ろから聞きなれた声が聞こえてくる。振り返ればそこにはリリアナが居た。

 変な声で出ちゃったじゃん。びっくりした…気配が無かった。


「リリアナ。イエラ達にここに俺たちが居ることを黙ってくれるか?」

「あらお兄様。まさか何の対価も無しに…という事はありませんよね?」

「何が欲しい」

「セレア様の写真…あるいは今日の夜にセレア様の寝顔の写真を撮って来てください」


 もしかして私がこの前あげたカメラを今日持ってきてるんですか?ていうか撮られてたの初耳なんですけど。


 リオンが許してくれと言わんばかりにこちらを見てくる。こっち見んな。やめろ。


「じゃ、じゃあリリアナ。勝負をしない?」

「勝負ですか?」

「そう。内容は簡単。あそこにいる魔物の二体を一人ずつに分けて先に倒した方の勝ち」

「なるほど…」

「罰ゲームみたいなもんで、負けた方が勝った方の言う事を聞くというのはどうかな?この勝負で黙ってくれると嬉しい…なぁ…?って」

「分かりました。その勝負乗りました」


 私とリリアナは魔物の前で準備をしてリオンが木の棒を投げたら開始の合図になる。


 麻酔じゃ向かう時間がある。そうなればリリアナの闇魔法の方が早くて負けてしまう。

 なら隠し持ってた実弾を使うしかない。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 準備が終わりリオンが木の棒を投げる。


 私は銃を構えて撃つとリリアナは闇魔法を唱えて発動する。

 ほぼ同時に魔物は倒れ私とリリアナはリオンの方を向く。


「ギリ、リリアナだな」


 その一言に私は絶望を感じながら膝をつく。

 反対にリリアナは大喜びする。


「それなら…セレア様の屋敷でお泊りしたいです」

「そんぐらいなら…分かった準備しとくね」

「寝る部屋は同じでお願いしますね」

「え?」


 この少女は一体何を言っているんだ?同じ部屋?私とリリアナが同じ部屋で寝るの?無理だよ。

 私、尊死してしまうんだが?


「いう事を聞くんですよね?それに一つとは言われてないですし」

「痛いところをついてくるねリリアナ…」

「お前のミスだろ。認めろ」

「うぐぐ」


 仕方ない…素直に従うしかなさそうだ。リリアナが楽しそうだし、推しが楽しいなら私は清く受け入れよう。


 私の理性が持つことを願おう…頼んだぞ理性。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 リリアナがイエラチームに帰り私とリオンはひたすら魔物狩りをしていた。

 この授業の最終目標は生き残って魔物をたくさん狩る事。襲ってくる生徒に気を付けながらも日没まで動き続けた。


「暗くなってきたね…集合場所のテントに行こう」

「森の西方面だったよな。太陽が沈んだ方に行けばあるはずだ」


 東から出て西に沈むという太陽の性質を利用して進む。

 夜の森って案外怖いんですね…お化け屋敷とか得意な方だったりしたんだけど…実際の森ってなると恐ろしさがおかしい。


「リオンってお化けとか信じる派?」

「なんだよ突然。暗いのが苦手な奴に話す事じゃないだろ…信じてるけど……」

「こういう暗い森とか歩いていると何か出てきそうだよね。生首とか」

「やめろ!怖がらせるな!」


 リオンは結構なビビりだ。お化けを信じて怖がってしまう。見た目に反してのビビりのせいでギャップがある!っていうのも人気があった理由だ。


 この世界にも娯楽小説がある。ギャグのようなもの、ミステリーなもの、ホラーなもの、様々な作品があるが一番人気があるのは恋愛ものだ。

 妥当と言えば妥当だが…書店に売ってる量が目に見えて違う。


「お前のせいで寒気がしてきたじゃないか…」

「えー?リオンが苦手なのが悪い」

「仕方ないだろ。実際に起こったとか、そういう話も聞くし」

「あんなんただの嘘だよ」


 私は揶揄う様に話すが、実際。私も信じている。幽霊とかは居るのではと思うためあまりリオンを刺激できない。


 リオンと話しながら進み続けると黄色い三角のテントが見える。


「ついたな…結構遠かった」

「そりゃぁ、隅っこだし」


 テントに荷物を置いて火をつける。夜になると寒くなってくる…暖はとっていかないと凍え死ぬからな。


「狩ってきた魔物を解体しといてよかったな。肉が食える」

「味がないけどね…焼いただけの肉かぁ…」


 贅沢は言えないけど、胡椒とか塩とかがあればおいしくなるんだろうな。魔物の肉は紫色でお世辞でも美味しそうとは言えない。

 オリカさんやエルトンさんが来るまで待っておこう。

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