第14話 デートに贈り物は付き物

 手持ちソーセージを食べているリリアナを眺めながら他の屋台を見ると『ワタアメ』と書かれた屋台を見つける。

 ここにもわたあめあるのか…デザートとしてはいいかもしれんな。


「リリアナ、デザートはいる?」

「いいんですか?」

「いいよ。奢ってあげる」


 キラキラした目でこちらを見つめるリリアナ。そんなに嬉しいのか…わたあめ買いに行こう。


 屋台の近くに行くと甘い匂いがする。この匂いは…レンズルか。

 レンズルとは前世でいう苺だの事だ。見た目はまんま苺だが向こうよりこっちの方が甘い。すっぱいものは少なく逆に貴重だ。

 同じ名前の物や違う名前の物があってごちゃ混ぜになるな。


「すみません。レンズル味とグレープ味を一つずつ」

「あいよー。銀貨一枚ね」


 私は財布から銀貨二枚を取り出す。この世界じゃ円ではなく銅貨、銀貨、金貨、白銀貨だ。銀貨一枚を円換算すると二百円だ。


 ふわふわしたわたあめを両手に持ちながらリリアナの座るベンチに向かう。リリアナはソーセージを食べ終わったのかゆらゆらと体を左右に動かしながら待っていた。


「わたあめ買ってきたよ」

「ふわふわしてますね…どうやって食べるんですか?」

「こうやって……かぶりつく」


 リリアナは私の真似をするようにわたあめにかぶりつく。美味しかったのか食べる速度が上がっていく。


 私たちが居る城下街は王都から少し離れているため、貴族とはほとんど無縁だ。そのせいか食べ歩きが普通だったりする為、リリアナにはあまり向いていないのかもしれない。


「周りのみなさん。食べながら歩いていますわ。どうやっているのでしょう…」

「王都から離れているからね。貴族とは無縁の城下街。ここを統治している辺境伯も平民寄りだからね」

「でもなんだか、居心地はいいです。貴族と言う世界しか知らなかったのもありますが嘘もない心から笑っている、そんな所もあるのですね」

「偽る理由が無いからね」


 楽しそうに走る子供たち、聞こえる鼻歌、商売の声。王都じゃここまで楽しそうな雰囲気はないだろう。王都には平民もいるがほとんどが貴族。豪華な姿を見せびらかす貴族しか居ない。


 店もアクセサリーが多いからなぁ。鉄の工房とか無いから…王都不便だな。


「セレア様はよくここに来るんですか?」

「そうだね。材料を買いにきたり息抜きとか。あ、そうだ。お勧めのお店があるんだった。一緒に行く?」

「気になります。セレア様がそこまで言うのなら」


 私はリリアナの手を握りある店に向かう。


 リリアナの手を咄嗟に握っちゃったけど、大丈夫かな…あ、大丈夫そう。凄い上機嫌だ。ていうか手繋いだり一緒に買い物したりもうこれはデートでは?デートだよ。


 推しとのデートが実現しちゃった。そんな事よりリリアナの手が小さくて可愛い。なんだこれは、こんな手に拘束されるとか最高かよ。

 ……………私はⅯじゃない。危ない別の世界に行くところだった。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 歩いていくとお勧めの店に着く。ここは一見、ただのアクセサリーを売っている店に見えるが実は魔道具アーティファクトを売っている所なのだ。


 私はここで魔道具アーティファクトを買っており、よく技術をパクッ…参考にしている。


「お久しぶりですなぁ。セレアさん」

「久しぶり。商品を見に来たんだ」

「ご遠慮なく、それより隣のお綺麗な嬢さんは」

「リリアナ・セントラと申します」

「ほっほっほっ。店主のリントと申します」


 流石リリアナ。この店主が貴族だと見抜いたのか。

 ワンピースの裾をつまみ一礼するリリアナ。驚きながらも一礼をする店主のリント。

 リントは商家の出で、侯爵の人間だ。ここで姓を名乗らないのは貴族と言う身分でこの店を運営していないという意思の表れらしい。


「どんな商品を?」

「リリアナに合う物を。出来れば護衛系のがいいな」

「私ですか⁉そんな…」

「贈りたいんだよ。いつもの感謝ってことで…ね?」


 うぅ…と唸るリリアナにクスっと笑いながらも商品を選ぶ。


 リリアナに合うのは赤とかかな…いや瞳に合わせて黄色か?それとも水色…?いやそれは攻めすぎか。流石に自分の髪色も物を贈るのは、躊躇いがあるな。


「これとかどうじゃ?護衛用の魔道具アーティファクトじゃ。何か衝撃があった時、持っている者にシールドを張ることが出来る」

「確かに良いけど…この色わざとですよね?」

「私はこの色好きですよ?個人的にはこれで満足です」


 にやつくリントを私は睨む。水色って…わざとじゃんか。さっき攻めすぎかなぁとか思ってた人に渡すものじゃないよ。


 それを横目に満足げなリリアナ。駄目だ、私はこれを買う羽目になるみたいだ。

 二人の押しに負けて私は水色のペンダント及び護衛用の魔道具アーティファクトを買うことになった。

 それをリリアナに贈ると嬉しそうにすぐ身に着ける。自分の色があるのは恥ずかしいが似合っているんだよなぁ。いやリリアナは何でも合うか。


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 帰りの馬車を呼びリリアナと一緒に乗る。


「リリアナは上機嫌だね」

「当然です。何せ好きな人とのデート…そして贈り物まで…上機嫌にならない方が不思議です」


 ルンルンなリリアナを私はひたすら眺める。可愛いの塊か…推しと両思いって最高だな。

 何してても可愛いのがずるいよな。好きなった弱みですか?いいやリリアナと言う存在が罪なのか…。


 リリアナを眺めている間にいつの間にかセントラ伯爵邸に着いていたためリリアナを送り、自宅へと帰宅する。

 楽しい一日デートだった。

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