第6話 推しの初恋
嬉しそうに話すアルベルトとイエラを見て無表情のリリアナ。
本当にリリアナはアルベルトに興味がないのか…?私が生きている以上、何かしら変化はあってもおかしくないけど、こうも関心を持たないのは何なんだ。
「すみません。急用を思い出したので失礼します」
「分かった」
「お気をつけて」
リリアナはスカートをつまみ一礼しこちらに向かってくる。
なんだ⁉ばれたのか?とにかく隠れないと…
そんな事を考えてる隙に誰かに腕の裾を掴まれる。
振り返るとそこには少し拗ねた表情のリリアナが居た。
あぁぁぁ!可愛いぃぃぃぃ………ってはやっ!走ったの?でも足音なんてしなかったような。
「そんな逃げられるとさすがに傷つきます」
「ご、ごめん。まさか見つかるとは思ってなくて」
「驚きました?」
リリアナは白い歯をニッと出し悪戯顔をする。
やめてぇ。その顔は反則だぁ。
私は悶えるのを堪え、驚いたと答えた。するとリリアナは私に抱き着く。
こんな積極的でしたっけ⁉嬉しいけど…良い匂いするぅぅぅぅ!
「にしても、なんでこんなところに居たんですか?もしかして私に会いに来たんですか⁉」
「え?あースチ、じゃなかったイエラが少し気になったっていうか」
「…気になった?何で…ですか」
リリアナの顔が曇ったな。リリアナのこんな顔は本来、王子に向けるやつなんだけど…こりゃ私に執着してるのか?
そんな事を思った私はリリアナの頭を撫でながらリリアナの好む言葉を返した。
「気になったって言っても婚約者の居る人にこんなに親しく話しかけるのはどうかなと思ったからだよ。でも、リリアナに会えたのは良かったかな」
「そ、そうですか…あ。そういえばセレア様は花言葉を知っていますか?」
「うん。知ってるよ」
私はそう返すとリリアナは嬉しそうに私の腕を掴んで歩き出す。
この方向は生徒会室?
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どうしてこうなった。
私は今、リリアナに押し倒されている。
推しに押し倒されるのは嬉しいんですが…これは一体…?
私はこの表情のリリアナを知っている。光が無く相手の事しか考えていないこの瞳に赤らめた顔を。
「両思いだなんて…嬉しいです。セレア様♡」
これは、ゲームで見たシーンと一緒だ。
リリアナがアルベルトを押し倒し自分の想いを一方的にぶつけるシーンだ。確か、監禁されていたはずだけど…まぁ生徒会室の鍵閉められているしほぼ監禁…?
「何で、何も言ってくれないんですか?どうして…」
泣きそうなリリアナの頬に私はそっと手を当てる。
多分原因は四本のカーネーションを渡したことだろう。花言葉は『一生あなたを愛し続けます』まさかリリアナが意味を知っていたとは誤算だった。
リリアナと恋人関係になれるのなら私は喜んで受け入れるが、私はまだリリアナのこの想いは受け取れない。
イエラが居る限りいつリリアナが変わるか分からない。イエラも関係なくなった時、まだ想いが変わらないなら受け入れよう。
「リリアナ。確かに私たちは両思いかもしれない。でもね今の君はアルベルトの婚約者だ。私は君とそういう関係になればここから消えるかもしれない」
「それなら、私も一緒に消えます」
「それは駄目だ!」
私はリリアナに大きな声で否定する。リリアナが死ぬなんて駄目だ。
リリアナにはまだ家族が居る、支えてくれる優しい家族が居るんだ。
「…ならどうしろと言うのですか。初恋を今、終わらせろというのですか」
「ううん。もし、何事もなく君が大人になった時まだ私を好きならばその時はどんな手を使ってでもリリアナを迎えに行こう」
そういうとリリアナは不満げだが納得したように頷き私の上に乗り抱き着く。
こう見るとただ初心な少女だ。にしても私が初恋とはたまげたな。
ゲームでリリアナが重すぎるヤンデレだったのは初恋の人が死に妃教育で甘えることが難しくなり愛し方が狂ってしまったんだろう。
リリアナの泣きかけの顔を見るとここはゲームではないことを実感する。記憶が蘇ってきたところで私はこの世界の住民だ。ただ、未来を少し知っているだけの。
リリアナには幸せでいてほしい。私にとって推しであり大事な人だから。
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数分、リリアナに抱き着かれたままだったが満足したのかリリアナは離れて生徒会室の部屋の鍵を開ける。
上機嫌だな…。あの監禁シーンがまさか私に降りかかるとは思っていなかったが好都合!リリアナが私を好きと言うのが分かった以上、遠慮はいらない。
リリアナ断罪回避作戦は順調に進みそうだな。
「リリアナ。少し聞いてほしいことがあるんだ」
「なんですか?」
「何があっても権力や暴力を使わないでね」
「分かりました」
これはただの保険だ。イエラにヒロインというバフがかかっているならリリアナには悪役令嬢のバフがかかっている可能性がある。
そうなればリリアナが権力を使う可能性だってある。ましてや心境の変化でゲームみたいにイエラを襲う可能性だってあるんだ。
そうなれば庇うことは難しいだろう。ならば、最初から保険をかければいい。
きっと今のリリアナなら出来るだろう。
「生徒会室に来ることって許してくれますか?会いたいので…」
「いいよ。ただリオンもいるけど」
「お兄様なら問題ありませんわ」
リリアナは笑みを残して生徒会室を後にした。
推しの笑みが尊すぎるんだが…可愛いよぉ。
ていうか押し倒された時から心臓バックバクなんですが⁉
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