第74話

(というか、今更だけどなんで言葉が通じてるんだろうな?)


 大助が当然の疑問に気が付く。


(相手が日本語を話してないってのは分かるんだよ。言語が変換されてるようなこの感覚。これもアプリの力ってことか?)


 大助自身に異国の言語を変換するような能力はない。考えられる可能性は2つだ。


 ・アプリが能動的に言語を変換している。


 ・妖精が言語に関する魔法を使っている。


(…まあ特段気にする事でもないか。話が通じてれば原理なんてどうでもいいしな)


 大助は早々に言語に関する思考を打ち切った。


(それに、今はやらないといけない事がある)

 

「回りくどい話は好きじゃないから本題を言うぞ。おまえ、こっち側に来ないか?」


「……ごめん。意味が分からないんだけど?」


「お前をスカウトしたいんだよ。もちろん給金は出すぞ」


「…ちょっと話を整理させてもらっていい?」


「どうぞ?」


 深刻な表情で言葉の真意を考える妖精。そして何を悩む必要があるのかと呆れる大助。


「私たち、さっきまでガチの殺し合いをしてたよね?」


「そうだな」


「それで今度は私を焼きフェアリーにして美味しく食べるとか言ってたよね?」


「そうだな?」


「そして今度は私をスカウトしたいと…」


「その通りだが?」


 常識が通用しない異常者を見ながら妖精は頭を抱えていた。


「…汚い言葉で悪いけど、あなた頭おかしいわよ。完全にイカレてる」


「失礼なヤツだな!?」


 大助が怒ったような表情を作り顔に浮かべる。それもまた演技なのだが、相手の本音を引き出すには必要な工程だ。


「まあいいや。話を戻そう。ぶっちゃけた話、おまえ給料いくら貰ってるんだ?」


「うっ…」


(ん?この反応は…攻めるならこの辺りか)


「ラスボス前の階層を守ってるんだし、そこそこ良い額を貰ってるんだろ?参考までに教えてくれ」


 大助がニッコリとした顔で圧を掛ける。


「……6万よ」


「……マジで?」


「……」


 そのブラック企業も真っ青な金額に素で驚く大助。


「レートは…コインだよな?」


「…そうよ」


「…1日の労働時間は?」


「そんなの24時間に決まってるじゃない」

 

「……えぇっと…」


 今度は大助が妖精の常識を疑い始める。「こいつ正気か?」という思いと共に。


「…仕方がないじゃない。私みたいなはぐれの妖精種にまともな職場はないのよ。……それに借金もあるし」


「ほぅ…?」


(金額次第で引き抜けそうだな。…先行投資とでも考えるか)


「これはまあ、例えばの話なんだが……」


「…?」


「基本給は月50万コイン。活躍や能力に応じて適宜昇給あり。ボーナスは年2回支給。さらに借金が全額チャラになって休憩中に美味しいデザートが食べ放題。愉快な仲間と共に切磋琢磨できる。そんな職場があったら……」


「転職させてください…!!」


 ガバッ!とノータイムで妖精の頭が下げられる。彼女の人生で最大最後のビッグチャンス。この機会を逃すわけにはいかないのだ。


「…いいだろう。来るか?こっち側に!!」


「もちろんよ!こんなクソみたいな職場辞めてやるわ!!」


「採用だ…!」


 ガッチリと大助と妖精が握手を交わす。


(金の力ってやっぱ凄ぇなあああ!?)


「俺は金本大助だ。よろしくな!」 


「私は…ミルフィー」


「ミルフィー・ユピスよ。よろしく」

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