第73話

「ゲホゲホ…!…物凄い威力だな」


 自爆転移草の作動を確認した大助がその絶大な威力に満足する。これもまた大助とクラリアが共同で作成したトラップだ。原理は単純明快。自爆草と転移草2つを十手に仕込みリンク状態にする。すると転移の際に発生する魔力の余波で自爆草が確実に爆発するというものだ。

 

(情報を引き出す前にやっちまった。これじゃミンチ確定……)


「…マジか!?」


 大助が珍しい表情を顔に浮かべつつ、粉塵の中に全力で突入する。


(気が変わった。こいつは面白い)


「___‘フレイムヒール<中級>‘」


 妖精が回復魔法で自身の傷を再生させる。


 彼女が纏っていた鎧には特殊な能力が備わっている。それは24時間に1度だけダメージを半減化できるというものだ。発動には莫大な魔力が必要だが「今」「この瞬間」に使うべきだと彼女は即座に判断していた。故に、大ダメージを受けた程度で済んだのだ。


「ふう…危なかっ…!?」


 視界の先には狂気の表情で拳を振りかぶる男の姿。


「第二ラウンドの時間だぜぇえええええ!!」

 

「___‘レッド・シールド!!‘」


「うっは…♡」


 魔力の盾が大助の拳を一瞬だけ受け止める。だがそれも1度だけだ。2発3発と続く拳の連撃にシールドは即座に破壊される。


「ぐぅ…!?___‘フレイム・エッジ!!‘」


「しっ…!!」


 魔力を集中させた右フックで炎を纏った剣を弾く大助。


「さあさあさあ!?もっと見せてくれよ!!お前の命の輝きを…!!」


「…っ!?」


 両足のステップと組み合わせながら「スイッチ」と呼ばれる技術で右足と左足の位置を数回入れ替える大助。フェイントの2回目に釣られた妖精がそのタイミングで剣を振ってしまう。


「しまっ…!?」


「ふっ…!!」 

 

 強烈な右ハイキックが妖精の頭部に炸裂。その意識を一瞬で刈り取った。



「……ん」


 気ダルい体を起こし、妖精が数度瞬きを繰り返す。その体のサイズは元の掌サイズに戻っていた。


「あれ…?私死んだんじゃ……」


 体を吹き飛ばした轟音、そしてあのふざけた男の顔。


 その事に思い至った瞬間、妖精は目の前にある巨大な瞳がジッとこちらを見ている事を始めて認識した。


「ひっ…!?」

 

「ちゃろ~目は覚めたかな?」


「に、人間っ…!」


 濁った大助の瞳は、ただただジッと妖精の反応を観察していた。


「くっ!今すぐぶっ殺して……あれ?動けない?な、なんで…?」


「お前が天国に行ってる間に拘束させて貰ったよ」


 大助の言葉通り、妖精の手足はズク草で拘束されていた。


「こんなもの引きちぎってやる!…ぐぐぐぐぐっ!?」


 妖精が硬化したズク草を引きちぎろうとする。だがビクともしない。その様子を満足そうに眺める大助。


「そんな馬鹿な…ズク草がこんなに硬くなるわけがないのに……」

 

 脱出を諦めた妖精と大助の視線がぶつかり合う。


「…何が目的?」


「さて、話をしようか」

 

 大助が無手の状態で妖精の目の前に腰を下ろす。


「話す事なんかない。…とっとと殺しなさいよ」


 その言葉を受けて大助が妖精の耳元に口を近づける。


「おまえ、ひょっとして死んだら終わりとか甘い事を考えてないか?」


「……脅しには屈しないわよ」


「脅し…?違う違う。これはこの後に確実に起きる現実の話だよ」


「…?」


 大助の無感情な瞳が妖精の心をゆっくりと鷲掴みにしていく。


「説明しよう。お前がこれからどうなるのかを」


 大助が妖精の返事も聞かずスマートフォンからキャンプ用の「調理器具」を取り出す。


「___これから、お前をフライパンで調理しようと思う」


「…っ!?」


 大助が考案した悪魔のクッキング。その概要を聞かされた妖精の顔が青ざめていく。


「焼死ってのは恐ろしい死に方の1つだ」


「だが、実際は焼死する前の前段階で亡くなる人の方が多い。何故だか分かるか?」


「窒息死だよ。体中の水分と酸素を失い、お前は地獄の苦しみを味わう事になる」


「…でだ。ここからが本題なんだが……」


 再び妖精の耳元に口を近づける大助。


「エリクシールを生物の肉片に使った場合、どうなると思う?」


「……は、…はぁ?」


「再生するんだよ。元通りにな。…俺が言いたいこと分かるか?」


「…ハァ…ハァ…」


 その先を合えて口にはしない大助。結果的にそれが余計に恐怖を増長させる。


「な~んちゃって!冗談だよ冗談!まあ「今」のところはだけど」


 ケタケタと明るい笑い声を発声する大助。だが、その顔と目は一切笑っていなかった。

 

「……」


 相手にわずかな思考の時間を与え、ゆっくりとスマートフォンにフライパンを収納する大助。

 

「さて、話をしようか」


「ここから先は一言一句、しっかりと言葉を選んだ方がいい。違うか?」


「……」


 コクコクと無言で妖精が頷く。大助は冗談など言っていない。不義理な態度を取り続ければ、間違いなく大助は「行動」を起こすだろうと彼女は理解してしまった。そう、この男は敵に回すと恐ろしいのだ。

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