第15話 決意と疑い
「かぁ~、身体中痛すぎんだろ」
表情を歪ませながら自分は止めていた身体を再び動かし始める。
別に背負う必要のない世界中の生命体の命と生活を守るためという責任感を両肩に重くのしかかる。
今だったらやっぱり無理と断って逃げることも出来るし、何もかも忘れて滅亡を見届ける選択肢だってある。
でも、自分がこの場に居続ける理由は……。
「(ミネルヴァのため、なんて言えば槍を突かれそうだ)」
この世界での恩人のため、自身の自己満足のために抗う。
原動力となる理由に良し悪しなんてない。
あるとすれば自身を納得させるに能う想いだけだ。
「さて、もうひと踏ん張りだ……!」
三十分後
「こ、これ以上は流石に無理だ……」
ただでさえ筋肉痛の状態で更に身体に負担をかけさせる運動をしたのだ、刀や銃を予期せぬタイミングで落としてしまえば問題だ。
時間も頃よく、茜色の空を眺めてからゆったりとした足取りで帰路につく。
「ただいま」
まだミネルヴァは帰ってきていなかったらしく、室内から声は聞こえなかった。
「まだ帰ってなかったか……」
キッチンで手を洗ってから今晩のご飯を何にするか考えるかなんて思っていた自分だったが、横から突然引っ張られる。
脳が理解し、反応する前に床に押し倒され首元に刃物を押し付けられる。
「騒ぐな」
低音の、ハスキーボイスで告げられる言葉に静かに頷く以外の選択肢がなかった。
「それでいい、本題に入ろう。あの件、忘れていないだろな?」
あの件、恐らくパトロクロスの一件だろうと踏んで首を横に振る。
「ふっ、ならば良い。しかし、いつまでも様子見などをしている時間はないぞ?」
言われるまでもなく分かっている事だが、この一件はひとまず後回しにしておきたい事項だ。
なので、上手く誤魔化さないといけないのだが……。
「(この状況で話していいのかが、問題なんだよなぁ〜)」
下手に口を開いてナイフで首元を掻っ切られても困るので、様子見以外の選択肢はない。
「――――何故喋らぬ?」
相手からのレスポンスにどのように動いて説明すればよいか、悩んでいると。
「済まぬ、私が喋るなと言ったな? 喋っても構わぬが、先程の忠告忘れぬな?」
静かに頷いてから「……前回の話から一日二日しか経っていなのに即決するだけの判断材料はない」と、返す。
「日にちなぞ関係ない、お前か罪人に死が下されるだけの事」
貴様の事情なぞ関係ない。
ハッキリと言い放つ相手に自分は反論すべきだったのだろうが、変に機嫌を損ねて首元のナイフを押し当てられては目も当てられない。
「――そっちの事情は知らないが、少なくとも三日程待ってほしい」
「理由は?」
「奇襲を仕掛けてもこっちが返り討ちにされるからだ。油断させる時間がほしい」
尤もらしい理由で、相手の出方を伺う。
しばしの沈黙の後に「――――良いだろう。だが、三日後までに仕留めきれていなければ……理解ってるな?」と、告げられる。
「精々頑張ることだ」
言い回されている台詞を口にして姿を消した襲撃者。
完全に人の気配が消えたのを確認してから大きく息を吐き出す。
「っっっっぶねぇぇ~~」
殺されるかもしれないという恐怖と腹痛のダブルパンチ状態でやり過ごしたが……。
「何でこうも面倒事が立て続けに……」
もう何度目かも覚えていないフレーズを口にする。
床から起き上がりふとカーテンがなびいているのに疑問を抱き近づく。
「……夕飯の前にこれの処理だな」
自分の視界にあるのは窓の鍵付近を割った痕が残されていた。
魔術とかでなく物理で、しかも空き巣の常習犯ぽい犯行にますます呆れ返ってしまう。
しかし嘆いていても誰かが修理や処理してくれるわけでもないで諦めてちりとりとほうきを取りに行くのだった。
「足をローテーブルに引っ掛けて手に持っていた物の打ちどころが悪くて割れちゃったんだ?」
「本当に済まないと思ってるよ、明日にでも割れた窓の交換してくれる業者に連絡するよ」
夕食を食べ終わった後に、窓ガラスが割れた原因をミネルヴァから尋ねられた自分は彼女に対して偽りの理由で誤魔化していた。
「ふぅ~ん?」
怪しげな視線で自分を見ている彼女は、恐らく読心術に類する能力で見透かしているかもしれない。
「へぇ、私が視ているの承知で嘘をついたんだ?」
言葉の直後に首を鷲掴みにされ床に押し倒される。
上手く呼吸が出来ずに悶え苦しむ自分に「こうなるのを理解ってて言ったんだよね?」と、絶対零度の眼差しで声に出して鷲掴みにしている手の力が強まる。
「早く頷きなさい、そうすれば言い訳位は聞いてあげるから」
人造神と青年はその夢に何を見る? 榊原 秋人 @kojp24
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