第13話 各々の思惑と過程

 「これまた難儀な事に巻き込まれてしまったのだな、お主は」

 村正の庵で根掘り葉掘り彼らが納得するまで説明した秋人はぐったりした様子で「そ、そうですね……」と、力ない声で返事をする。

 「話を聞いた限りじゃあお前さん、刀を握って戦った事があるんだろう?」

 「記憶は一切ないんですがね」

 何故そんな事を聞くのだろうと不思議がる秋人に「ちっと待ってろ」の、言葉通りに待つ秋人。

 「お主は運が良いな」

 意味深な言葉に微妙な顔をする秋人を見て呵々と笑う左衛門。

 「待たせたな」

 そう言って右手に打刀を握って戻ってきた村正は「受け取れ」と、打刀を差し出される。

 「い、いやいや! 受け取れませんよっ!?」

 名だたる名工村正の行動に驚き、困惑する秋人。

 そんな秋人に村正は「難しく考えなくていいから受け取れ」と、言って秋人に握らせる。

 「『八咫烏村正やたがらすむらまさ』、俺の作品にしては扱いやすい方な刀だ。大事に使えよ? もし欠けたりしても直してやる」

 そこまでする理由に覚えがない秋人は理由の追求をしようとするが「さっ、そろそろ帰んな? こう見えて俺も忙しいんだ」と、一方的に言われて庵から追い出された。

 「これ、どうするんだよ……」

 もう一度行っても追い返される未来しか見えない、秋人は諦めて山から下山する。


 「村正殿、どういった風の吹き回しで?」

 秋人が帰った後の庵で左衛門に問いかけられる村正。

 村正は「理由なんかねぇさ。ただ、戦いを知らない若者を巻き込ませたのが気に食わねえだけさ」と、答える。

 「それにしては、初めて会ったあの者を信頼するとは何か」

 「それ以上の詮索は止めときな?」

 鋭い目つきと背筋をゾクッとさせる寒気さを感じて「済まぬ」と、謝罪する左衛門。

 「それじゃ、俺は作業に戻るぞ」

 庵から出て鍛冶場へ移動しながら村正の頭の中では……。

 「(何も知らねえのは当然だが、余計なお節介だったか?)」

 頭をガシガシ掻きながら、らしくない己の行動に自笑する。

 「さあて、納得のいくまで打ち続けるだけよっ!」

 鍛冶場から一定のリズムで聞こえる鉄を叩く音は左衛門と周辺で暮らしている動物達にしか聞こえていない。


 同時刻・日本神話エリア・国産みの間


 「して、我には一切話を通さずにそのような行為を行っておるという事だな?」

 静かな声で臣下へと再確認するある人物。

 「そ、その通りです……。しかし、一部の神は此度の一件について容認及び『伊邪那岐』様同様、事前通達がなかったとの情報も得ています」

 ふむ……と、深い声色で唸る伊邪那岐の様子に戦々恐々の臣下。

 伊邪那岐、この名を半数の日本人は知っていることだろう。

 天地開闢において神世七代の最後、伊邪那美と共に生まれた国産み及び神産みの祖であり日本神話の祖でもある。

 「報告感謝する……。しかし、『世界巡り』所有者ともなれば話は大きく変わってくる」

 伊邪那岐の言葉に「と、言いますと?」と、尋ねる臣下。

 「世界巡りは現時点で希少な能力でありその全容も我らでも把握しきれていない。故に、万が一その能力を悪用する者や保持者が悪用すればこの世界は滅びる」

 伊邪那岐の発言に言葉を失う臣下。続けて「良いか、一時もその者の監視を怠るな。少しでも不審な動きを見せれば報告せよ」と、指示を出す。

 「御意!」

 威勢のよい返事をした後、間から出た臣下の姿を確認してから深々と息を吐く伊邪那岐。

 「こうも問題ばかりが起こっては流石に構わぬわ……」

 様々な問題が重なっている状況下で、爆弾級の『世界巡り』保有者が現れた。

 「ゼウスは恐らく処分するためにこの世界に招き入れた。オーディンの腹の底は認知不可、アステカとメソポタミアの考えは理解出来ぬ……」

 他の神話については現時点で情報が乏しく判断ができない伊邪那岐。

 「世界巡り……」

 一つ一つ散らばった欠片を手にとって取捨選択していき、一つの結論を導き出す。

 「ちと面倒ではあるが……始めるとしようか」

 ――――古き時代を終わらせ、新たな新時代を築き上げるとしよう。

 伊邪那岐の『国産み』と『世界巡り』の能力を使って


 インド神話エリア・アマーラヴァティー・インドラの宮殿


 「報告ご苦労であった」

 「はっ! ――それと、『例の娘』についてですが」

 「何かあったのか?」

 バラモン教、ヒンドゥー教の神、サンスクリットである『インドラ』は部下からの報告に眉尻を下げて報告の続きを促す。

 「いえ、インドラ様がお気になされる程の大事は起きておりません。ただ……先程報告しました『世界巡り』所持者に対して異様な執着心を見せております」

 「執着心……」

 何が琴線に触れたのかは定かだが、その感情が大きな問題にはならないように「引き続き監視を継続するように」と、告げる。

 「はっ!」

 足早に離れていく部下を見送るインドラは扉が閉まるのを確認してから深々と息を吐いて「ふむ、やはり厳かな雰囲気は似合わぬな」と、先程までの自身の評価する。

 既に隠居したインドラだが、現在はインド神話主神『シヴァ』の代理としてインド神話エリアの執政を行っている。

 「あの娘が心から許せる存在が現れたのは良いが……」

 インドラが娘同然に想っているあの娘が思いを寄せている相手は宇宙創造すらをも可能とする『世界巡り』の所有者にして推定『神々の大罪』の一人と思われている少女と共にいる。

 「じゃが、相手とタイミングが悪すぎる……」

 彼ないし彼女らが一度戦闘を始めれば周囲は灰燼と果て、世界にどのような影響を与えるか皆目検討もつかないのだ。

 だが、このまま傍観に徹するインドラではない。

 今からでも何かしらの対策を練っておくことに越したことはない。

 「それまでにシヴァの方もどうにかなっておれば良いのじゃが……」

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