第12話 新たな出会いとなりて

 翌日、トレーニングは休みと言われたものの秋人自身納得はしていない。

 ミネルヴァも朝早くから何処かへ出かけていたので秋人もとある場所へと向かおうとしたのだが……。

 「おい、この金額で合ってる筈だ」

 「いいや、足りないね?」

 店先で言い争う着物姿の男性と店の店主、放っておくのも後味が悪いと考え秋人は「すいません」と、両者の間に割り込む。

 「一体どうされました?」

 秋人の問いかけに店主は秋人を見て一瞬睨んだ後「何、こいつが指定の代金を持って来ずに持って来たと言い張ってんだ」と、説明するが「オメェさんが言った通りの金を持ってきてるだろ?」と、男性は反論する。

 どっちが嘘を言っているのか、何となく察した秋人は「見せてもらうことは可能ですか?」と、男性の代金と彼が買おうとしている商品を順番に見る。

 「(やっぱりと言うべきか……)」

 嘘を言っているのは店主の方だった。

 言葉の端々や態度から差別をしているのが感じ取れる。

 現実世界でも差別による問題が事件として発展することだってある。

 可能な限り穏便な結果で終わらせたいと思っている秋人だが、事はそうも簡単に進まない。

 秋人の話を受け入れない店主は声を荒げて男性と秋人を盗人、詐欺師呼ばわりし衛兵を呼ぶと叫ぶ始末。

 これには男性の怒りが爆発寸前で腰に佩刀している日本刀に手をかける一歩手前の状態。

 周りは一切我感せず、傍観を決め込んでいる。

 しかし、そこで第三者の声が店主の声を制する。

 「そこまでにしておくが良い、店主」

 左目に傷跡のある筋肉隆々な色素の抜けた金髪の男性が秋人達の傍まで歩く。

 店主は彼が誰か知っている様子で「こ、これはその……」と、言い淀んでいる。

 「そちらのお二人方も迷惑をかけて済まない」

 無関係な人物からの謝罪に反応に困る秋人と着物の男性。

 「吾は物さえ買えればそれで良い」

 眼光鋭き両の眼で店主を見れば「しょ、少々お待ち下さいっ!」と、大慌てて会計の準備を始める。

 「君達もこれは見世物ではない、早く離れなさい」

 男性の言葉で後方から人が散っていく。

 その間に着物の男性の買い物の済んだようで「お二人には世話になった、感謝する」の言葉と一緒に頭を下げる。

 「貴方が気にする必要はありません。こちらこそ、差別はしないよう神々から告げられているのにも関わらずの不始末、謝罪の言葉を口にするのは私の方だ」

 金髪の男性も頭を下げ互いに謝罪を繰り返すので「謝罪はそこまでにして場所を変えませんか?」と、秋人が提案したことで謝罪は終わり、移動する。


 「改めて私は『イカロス』と申します」

 場所を変えた先で金髪の男性から自らの名前を口にする。

 名前を聞いて「あのイカロス?」と、口にした秋人の反応を見て「うむ、あのイカロスで間違いない」と、肯定される。

 「お主は知っておるのか?」

 「ええ、知ってます。ただ、彼について話すより貴方の名前をお聞きしても?」

 秋人の問いかけにこれはあいすまぬと先に一言口にしてから「吾は『左衛門』と申す者、今はある刀工の元で手伝いをしている」と、自己紹介する。

 「刀工?」

 「うむ、吾のこの刀もかの刀工によって生み出された刀よ」

 刀工と聞いて様々な刀工の名前が思い浮かぶ秋人。気になるが、突然行くのも失礼だと考えここら辺で別れようとしたが……。

 「日本刀かっ!? もし差し支えなければ見に行ってもよいだろうか!!」

 「うむ、此度はお二人方に助けられた。刀工も説明すれば納得してくれるだろう」

 勝手に話を進められて自分も一緒に行くことになった。


 天上の世界・日本神話エリア


 この世界で初めて足を踏み入れる場は、数日しかまだ経ってないのに懐かしさを抱かせる。

 山の中腹辺りまで歩いて視界が開けた先に見えるは、一軒の庵と鍛冶場。

 鍛冶場の方から鉄を叩く音が一定のリズムで響き、秋人達の方へと聞こえてくる。

 「しばしの間この場で待たれよ」

 左衛門の言われた通りにその場で待つ秋人とイカロス。

 鍛冶場内へと入っていった左衛門を待つこと十分、鍛冶場から姿を現した左衛門と鉄色の短髪の男性が二人の下に近づく。

 「お前さんらが左衛門を助けたっていう人らかい?」

 その眼差しは日本刀の様に冷たく鋭さがある刀鍛冶師特有さがある。

 「貴方は?」

 「俺かい? 俺は『千子村正せんじむらまさ』、しがねぇ鍛冶師だ」

 初めましてと挨拶するイカロスと対象的に表情が固まっている秋人。

 そんな秋人の姿に首を傾げ「どうかされたか?」と、尋ねる左衛門に「ちょっと知っている名前の方が出てきたので反応に困っていただけです……」と、曖昧な感じで返す。

 「ほう、それは徳川に仇なす妖刀の話だろ?」

 「調べた限りでは曖昧な記述ですし、何より刀は主人を選べない以上たまたま腰に佩刀していたのが貴方が鍛刀した刀だったっていう話でしょう?」

 それを差し引いても貴方が鍛刀した刀は美しく、人を斬ったのでしょう。

 淡々と話す秋人の表情にニヒルな笑みで「お前さん、面白い性格しているな?」と、村正から言われてしまう。

 「えぇ……」

 「ふむ、もっと貴方のお話をお聞きしたかったですがこの後予定があるのでこれにて失礼しましょう」

 イカロスは三人に告げ、背中から大きな翼を広げると一気に空へと飛び上がり飛び去っていった。

 あっという間の出来事にしばし言葉が出なかった三人だったが、「さて、今度はお前さんの話を聞かせてもらおうか?」と、村正の言葉の端々に隠された圧に秋人は引きつった表情で頷くしかなかった。

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