第二章 世界事情と鍛錬

第11話 交錯する感情と縁

「お、終わった……」

 地面に伏している秋人を見下ろすオーディンとミネルヴァ、マートリカー生徒会長の三人。

 「少々詰め込みすぎたかの?」

 「途中からペース配分が崩れていたので致し方ないかと……」

 そう、最初は秋人の体力に合わせてトレーニングが行われていたのだが、久しぶりに教える行為をしたオーディンの気持ちが抑えきれず段々と過酷な量へと変わっていき……。

 「か、帰ってもいいか?」

 絞り出した声で尋ねる秋人に「今日はここまでじゃ、済まんかった秋人」と、オーディンは返す。

 「立てる? ほら、立つの手伝うから」

 手を差し伸べるミネルヴァだったが「い、いや……大丈夫」と、生まれたての子鹿を彷彿させる程に両腕はプルプル震えていた。

 両足も震えており「じ、じゃあまた明日だな」と、見開いた目でオーディンを見る秋人に「明日はゆっくり休むのじゃ」と、心配された様子で言われる始末。

 気持ちだけがから回ってしまっている秋人は無理にでもと反論する前に「休むのも大事な事だよ」と、ミネルヴァに腕を引っ張られながら指摘されその場を後にする。

 ミネルヴァに反論する秋人とミネルヴァの後ろ姿を見ていたマートリカーはキッとミネルヴァを睨んでいる。

 「あの者が気に入らぬか?」

 「いえ、少々思うところがあるだけです」

 「お主は優秀じゃからあの者の様になるでないぞ」

 その言葉を別れの挨拶代わりにして姿を消すオーディン。

 第四運動場に一人残ったマートリカーは「――――羨ましい」と、呟く。

 「羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましいウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイッ!!!!!!」

 血走った目、嫉妬と憎悪に塗れた表情、怒りに身を焦がすマートリカーは魔力を暴走させ第四運動場の地面を抉った。

 「どうしてっ、どうしてよっ!!!」

 あぁ、彼だけは……秋人と名乗った彼だけが

 「その隣に貴女が居るのよ……、ミネルヴァ」

 その出来事は第四運動場へと向かっている最中での一幕だ。


 『えっとマートリカー生徒会長さんの髪色、元から地毛ですか?』

 失礼を承知でお聞きしますがと、念頭に置いた上で質問をした秋人。

 この時マートリカーは『ええ、元から私の髪色はこの『ワインレッド』ですが?』と、自身の髪の毛を撫でながら答える。

 『そうでしたか……』

 含みある答え方をした秋人の様子にマートリカーは心眼を使用した。

 ほんの出来心で使ったのだが、秋人が声にせずに心の内で留めていた言葉に驚く。

 『(合ってなくもないけど……が本当だったら合ってると思うんだよなぁ?)』

 驚きのあまり声を出さなかった自分を褒めたいマートリカー。

 『(あぁ、この人は……)』

 本当の私を見てくれる唯一の存在だ。


 「まだ、まだ間に合う」

 ――――そう、まだ間に合う。

 真っ向勝負ではこちらの方が分がある。

 「待ってて下さい、秋人さん」

 妖しく笑うマートリカー、その結末は……。


 「んっ、何だか急に寒気が?」

 一方、帰路に着いていた秋人とミネルヴァの二人はタクシー代わりの馬車の中で揺られていた。

 「へぇ、まだ気付いていないんだ?」

 ジト目で秋人を見ているミネルヴァに「おいおい、一体何の事を言ってるんだよ?」と、尋ねる。

 「あの生徒会長、秋人に好意を抱いてるよ」

 「マートリカー生徒会長が? 何で????」

 大いに困惑している秋人に対して呆れた表情で「秋人って的確に的を射ている事言うよね?」と、言ったものの理由が分からないままの秋人。

 「分からないならいいけど、秋人ってああいうタイプが好みなの?」

 「うーん、見た目という点なら好みよりだけど……中身が分かってないから判断しかねるな?」

 秋人の回答を聞いて内心ホッとするミネルヴァだったが「ああでも、ミネルヴァがもう少し歳を重ねていたら自分の好みだったかもな?」で、不意打ちを食らう。

 「本当にそういうところだよ、秋人」

 ミネルヴァの声と表情で怒っていると勘違いした秋人は「冗談だから許して下さい」と、謝罪の言葉を口にする。

 「別に冗談じゃなくてもいいのに……」

 「えっ? 何か言った?」

 「何でもない」

 そんなやり取りをしていれば、ミネルヴァの自宅近くまで馬車は移動していた。

 代金を払い二人一緒に並んで歩くが、物陰から二人をジッと監視している存在がいたことも、記しておこう。

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