第7話 機械仕掛けの神々計画
秋人の元に戻った二神はゆっくりと視線を動かした秋人の表情を見て彼が何を言わんとしているのかを察する。
「――先に言わせてもらっても?」
無言の肯定、確認してから「計画が立案された理由や内容に関しては一定の理解と納得はしよう。――――だけどなぁ、『無実』の者達に冤罪を着せて実験を行った行為についてはどう説明してくれるんだ?」と、怒りを孕ませた声で問いかける。
オーディンが説明する前にアテネが先に「その理由が、今回秋人さんに頼む直接的な要因の一つでもあるのです」と、答えた。
アテナの視線に秋人は続きを促し、話を続ける。
「前提として今の私達には神話で語り継がれている力はありません。理由はこの『天上の世界』が原因不明の制御不能状態に陥っているからです」
制御不能、その言葉を聞いて「貴方ら自ら管理している世界が制御できないって……」と、若干の呆れの声が入り交じる声で呟く秋人。
「言いたいことは分かります。しかし、何度調査を行い過私達の権能を行使しても不明なのです。その為、現実の方でも異常気象等で歪みが出ているのです」
異常気象、思い当たる節がある秋人は「だから、『次世代の神々』を……『機械仕掛けの神々』を生み出すきっかけになったと」で、頷くアテナ。
「しかし、実験は思い通りに事は進まず焦った研究者達は賄賂や脅迫を行い冤罪を着せ被験者を増やした」
胸糞悪いと吐き捨てる秋人の後に「殆どが廃棄処分となったが……『神々の大罪』と書かれたリストは見つかったが……その者達が廃棄処理されたという証拠はない。恐らく記録を改ざんし逃げ出したであろうとわしらは推測している」と、話す。
「んで、誰一人として見つかっていない状況下で……ミネルヴァがその神々の大罪の一人である可能性が出てきたと?」
しかも、アテナ神の権能を有した状態で……。
視線をオーディンからアテナに動かして確認を取る秋人。
「現時点では可能性として考えられています。しかし、情報漏洩によって彼女は私から権能を盗んだ重罪人として……」
そこから先はと、視線を投げかけるアテナに「なので、此処に来る前にパトロクロスからアダマントの鎌で裁けと脅されたんですよ」と言って持っていたナイフを二神に見せる。
「それは真か?」
「嘘を言ってどうすんだよ……」
アテナはナイフを手にとって本物かじっくりと見て確認する。
「――――本物ですね」
信じられないと表情に出しながら目を見開くアテナ。
本来ならばこの場にあってはならない代物が何故パトロクロスの手元にあったのか。
本来の頼みと同時に想定外の調査も出てきてしまった。
「はぁ、この依頼を引き受けない限り現実へ帰れないんだろう?」
秋人の問いかけに頷く二神、渋々といった様子で「分かりました、引き受けますよ」と、承諾する。
「お主にはこれを授ける」
手渡されたのはシンプルなデザインの指輪、通信機能が備わっている指輪だと説明を受けた秋人は右手の指輪に着ける。
「明後日、神々育成校にてお主の能力確認とトレーニングを行う」
では、これで失礼すると言いルーン文字を使用し姿が消えたオーディン。
対してアテナは、その場に立ったままでこのまま立ち去ってもよいか困り果てる秋人だったが……。
「少しだけ、私の昔話に付き合ってくれませんか?」
その時のアテナの表情は酷く、悲しげだと秋人は感じた。
神々の図書館・禁書エリア『機械仕掛けの神々計画』関連書類保管エリア
「あの娘……『ミネルヴァ』の母親は、私の配下の一人である『熾天使』でした」
アテナの案内で連れて来られた場所はごく僅かな者しか立ち入れないエリア、しかも先程話に上がっていた『機械仕掛けの神々』に関するエリアだ。
そこでアテナからの告白に秋人は驚く。
「どうしてそれを自分に話すのですか?」
神々の真意が読み取れないでいる秋人の問いかけにアテナはゆっくりと振り返る。
先程までの様子はただ付き従う女性の雰囲気だったが、今は知恵、芸術、工芸、戦略を司る女神の風格が出ている。
「貴方に何も語らずに都合よく事を頼むのは失礼だと判断し、こちら側の目的を話しましょう」
「それは構いませんが……、良いんですか? もしこの事がバレれば貴女の立場も危ぶまれますよ?」
「今の私はただのお飾りです。あの時連行される彼女を……、『エレナ』の手を掴んでいれば……」
ギュッと手を握る両手から深く爪が食い込み血が流れ出る。
アテナ神は今回の一件に関して余程思い入れがある様子であるのと、エレナという人物の名前は恐らくミネルヴァの実母なのだろうと前提に話を進める。
「お話を聞く前にまずはその両手の止血をしましょうか」
自分には荷が重すぎる案件だなと心の内で愚痴りながらアテナ神の手に触れる。
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