第6話 二神との会話
「ハンカチありがとうございます」
ギリシャ神話『オリュンポス十二神』が一神『アテナ』に一時的に貸していたハンカチを受け取った秋人は「い、いえ……お役に立てたなら」と、言葉を返したものの心中複雑な気持ちを抱えたまま「そもそも、どうして自分はこの場に迷い込んだのですか?」と、本題を切り出す。
「そのような堅苦しい話し方はせずに、普段通りの話し方でよい」
オーディンから指摘された秋人はヒクッと顔の筋肉が動き「こ、これでも必死に丁寧に話していたのに」と、本音が漏れ出る。
「気を使ってほしくないのじゃ。お主はわしらの世界では珍しい『世界巡り』を有しておる者じゃからな」
聞き慣れない単語に首を傾げる秋人。
「世界巡りとは夢渡と夢迷いの上位互換の能力です」
「明晰夢とはまた違うのか?」
「あれはあくまで使用者の欲望を具現化した夢じゃ。しかし、世界巡りは夢を通じて『世界の介入』を可能にする能力じゃ」
オーディンからの説明を聞いた秋人は「待った、一応情報の整理をさせてくれ」と言い、持ってきていたノートに今まで出た情報を書き出していく。
・夢渡「神々の図書館へ入館し運命の書の書き換えを目的にする人」
・夢迷い「本人の意思の有無に関わらず入館出来る、一定時間で消える」
・明晰夢「使用者が望んだ夢が見れる」
・世界巡り「夢を通じて別世界への介入が可能」
「こんな所か?」
書き出された情報を確認した後「うむ、概ねその認識で合っておる」の、一言を聞いた秋人は「つまり、夢だと思って行動していたのが実はその世界の人間の人生を変えていたって事か……」と、呟く。
此処で何か言いたそうな雰囲気のアテナ神に秋人が「何かありましたか?」と、尋ねる。
「ごめんなさい、私のせいでもありますが……」
その、まだ名前をお聞きになっていませんでした。
その一言でシンlッ……と数秒静まると「た、大変申し訳ありませんでしたっ!」と、秋人が頭を下げて謝罪をした。
「えっと、改めまして筆名ですが『榊原秋人』です」
本当に申し訳ありませんと、秋人の背中から感じる申し訳無さを察して「そこまで気にする必要はないぞ」と、あまり慰めになっていない言葉を投げかけるオーディン。
「そ、それじゃあ話を戻すけど今回秋人さんが選ばれたのには理由が幾つかあって『世界巡り』の保持者というのもありますが」
そこで言葉を区切り「『世界巡り』によって歴史の改変を行っています。勿論いい意味でも悪い意味でもです」と、告げられた。
「――――つまり、本来の歴史を捻じ曲げた責任を取れと?」
「分かりやすく言えばそうじゃな」
オーディンの言葉を聞いた秋人は「それ以外にも理由が?」と、確認のために尋ねると「お主は現世の者達の中で比較的魔力量が多いのも理由の一つじゃ」と、言われる。
「神代とかに比べれば雑魚いでしょうが」
「それでもお主には伸びしろがある」
複雑な心境で話を聞く秋人に「回りくどい事は止めましょう。榊原秋人さん、貴方には私達の罪、『神々の大罪』の対応と『テュポン』の討伐を頼みたいのです。両方の対応に適した人材が貴方しかいないのです」と、本題を告げるアテナ神。
再び聞き慣れない単語とビッグネームの登場に「そっちの事情を自分一人に押し付けないでくれ」と、答える。
「秋人さんの言葉は最もです。しかし、このまま放置すれば全ての世界が消え失せます」
アテナ神の発言で秋人は遠い目とキリキリと痛みだす胃痛に目を背けたくなった。
こちら側の不手際に今を生きる人の子、目の前の青年に全てを背負わせるのは筋違いだとアテナ神は理解している。
しかし、今のアテナ神とオーディン神はかつての力を有していない。否、全ての力を使えないのが正しいだろう。
「テュポンに関しては一旦横に置いといて『神々の大罪』について教えてほしい」
秋人からの質問に頷いてから口を開き語りだすアテナ神。
「そもそも、神々の大罪とはある計画から生まれた人類の『七つの大罪』、その神様のバージョンだと理解してもらえれば」
秋人が頷いたのを見てから「その計画とは『機械仕掛けの神々』計画、端的に説明しますと新時代の人造神を生み出す計画です」と、説明する。
「人造神を? だけどその口ぶりから察するに失敗したんだな?」
その問いかけに言葉ではなく計画書と報告書の束を呼び寄せて秋人の前に置くオーディン神。
「言葉よりもお主自身の目で見るとよいじゃろう」
一番上に置かれていた計画書を手に取り静かに読み始める秋人。
その間彼一人にしてオーディン神とアテナ神はゆっくりと席を立ちその場から離れた。
「本当に彼一人に負わせるのですか?」
図書館内に設置されている給湯室でオーディン神に再度確認するアテナ神。
「あの者が一番の適任者でありそして己を物としか考えていない性格も含めて決定されたのを忘れたとは言わせぬぞ」
神話は違えど、主神であるオーディンからの圧に一瞬気圧されるアテナだが「忘れておりません。ですが、彼に真実を隠して私達の事情に巻き込ませるのは……」と、自身の意見を言葉にする。
「決定事項だ、もう覆らぬ」
くどい、と表情に出すオーディンにアテナはそれ以上何も言えなくなった。
そろそろ頃合いじゃろうとの言葉で給湯室を後にする二神。
二神が去った後の給湯室の物陰にある人物が潜んでいた事にも気づかずに……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます