第4話 英雄と罪人
意識の覚醒と共に小鳥のさえずりが耳に入る。
「も、もう朝……?」
眠たい目は半目で眼鏡を手探りで見つけてベッドから這い出る。
「何時だぁ?」
ガシガシと頭をかきながらリビングの時計に目を向ける。
時刻は四時半過ぎ、もう一度寝ようにも起きるのは遅めになるし今日は行きたい場所もある。
「朝食でも作るか」
だがその前に洗面所で寝癖と顔を洗ってからだ。
「ふわぁ〜」
あくびをしながら階段を降りてきたミネルヴァに「おはよう、朝食できてるから早く食べなね」と、声をかける。
「う、うん……」
困惑しながら洗面所に向かったミネルヴァの背を見送って自分は洗い物の続きをする。
「それは何?」
朝食を食べているミネルヴァが見ている視線の先にあるのはこの家にあったタッパーだが。
「ミネルヴァのお弁当、要らないなら自分が食べるけど」
自分がそう言えば「食べる」と、即答する彼女に「そっか」と返す。
美味しそうに食べるミネルヴァだったが、時計を見て「もうこんな時間っ!?」と、驚いて急いで出かける準備を済ませて「行ってきま〜す!」と、バタバタして家から出た。
「あ、慌ただしいな……」
慌ただしくも自分の作ったお弁当はしっかりと持って行ってたので余程楽しみなのだろうと考え、自分も出かける準備をする。
中央管理局
昨日訪れた中央管理局に再び訪れた自分は空いている受付へ向かい「すいません」と、一言声をかける。
「はい、御用は何でしょうか?」
「神々の図書館について聞きたいことがありまして」
自分の発言に周囲の声は一瞬で消えて自分を見ている視線が痛々しく突き刺さる。
「――具体的には?」
「料理本を閲覧したいんですが、持ち出し可能なのかを聞きたかったんですが」
真剣な面持ちで質問をした職員も痛々しい視線を向けていた一般人も皆一同に「えっ?」の一言と目が点になっていた。
疑うのは解らなくもないが、温度差でグッピーが死ぬ勢いだぞ。
「持ち出しは原則不可ですが、料理本でしたら別紙に書き写して個人使用でしたら問題ありません」
自分と受付の職員の会話に割り込んできた男性職員の姿を見て「課長」と、口にする職員。
「後は私が対応しますので貴女は別の業務をお願いします」
分かりましたと言って対応していた職員はその場を後にして課長と呼ばれた男性が自分に「先程は失礼な対応をしました事を謝罪します」の言葉と一緒に頭を下げる。
「いやいや、貴方が謝る必要はないでしょ!? 勘違いさせるような言い方をした自分にも非がありますしっ!」
慌てる自分に対して彼は「いいえ、それだけではないんです」と、口にする。
それだけではない、他に理由があるのかと考えていると「貴方と一緒にいた女の子についてです」と、言われる。
何故、ミネルヴァが関係しているのかと疑問に思っている自分だったが。
「実は――――」
ギリシャ神話エリア・商店街
中央管理局で聞かされた話は自分にとって不快極まりない内容、顔に出さないように努力しているが、顔に出ている様子で人が左右に散っていく。
だが、彼らも同罪であることには変わりない。
この怒りがただの独りよがりなのも彼女にとって不快でしかないのは分かっている。
そんな自分に「おいっ!?」と、誰かが呼び止める声は聞こえたが無視していると肩を掴まれる。
「お前だよっ!」
振り返れば肩を掴んでいるのはノインと呼ばれていたあの男子生徒だ。
「――お前、学校じゃないのか?」
何してんの? と、表情に全面に出している自分の心情を察せない目の前の少年は「俺様は弱者と違って優秀なんだよ!」と、声高々に自慢しているが……。
「(周りの視線は痛々しい上に侮蔑の感情も混ざっている)」
遠巻きで見てないでどうにかしてくれと思ってもないものねだり。
時間も惜しいので「さっさと本題を話してくれないか?」で、舌打ちをしてから本題を切り出した。
「昨日はよくも恥をかかせてくれたなっ!」
「ちゃんと確認しないで自爆したのに何言ってんだ?」
流石に自分のせいにされても困る。
そんな自分の思いとは裏腹にあーだこーだ文句を言っている。
ノインの対応をどうするか悩んでいると「またお前達かっ!」と、男性の声が後ろから聞こえるとノイン達はやべっと小さな声を漏らすと一目散に逃げ出していった。
結局何がしたいのかよく分からないままでいる自分に「君っ! 大丈夫か?」と、中世の衛兵姿の男性が数名駆け寄る。
「怪我はないかね?」
「いえ、ただ絡まれただけなので」
そのように伝えるとリングを見た衛兵が「君は夢迷人か」と、呟く。
「ええ、そうです。後、彼らとは昨日ショッピングモールで絡まれましてその件で一方的に色々と言われていただけなので」
正直な話、さっさとこの場から離れたかったので簡潔に説明して立ち去ろうとしたが「そう言ってもこちらも仕事なのでね。詰め所で詳しく話を聞かせてくれ」と、言われて自分は渋々彼らと一緒に詰め所とへ向かうことになった。
ギリシャエリア・第一詰め所
「ふむ、君の証言とショッピングモールの警備員との証言に差異はない」
協力を感謝すると告げられた自分は「なら、もう良いですね?」で、立ち上がると部屋の出口へと歩き出す。
扉を開けると入口を塞ぐように自分より屈強な男二人が立っており「まだ終わっておりません」と、告げる。
「事情聴取はどう考えても終わりだと思いますが?」
「君に頼みたい事があるんだよ」
振り返れば含みある笑みで自分を見る衛兵は「ここまで自己紹介をしていなかったね? 私は『パトロクロス』、このギリシャエリアの衛兵長だ」と、含みある笑みからニヤリとした表情へと変える。
誰がどう見ても良からぬ事を企んでいるに違いないと、判断する顔に胃が痛む思いだ。
「――頼み事ってのは何だ?」
仕方なく座っていた椅子に座り直す自分を見て乗り気だと判断したのだろう、嬉しさを隠しきれてない声で「よくぞ聞いたっ!」と、声高々にその内容を語る。
「君に罪人を捌いてもらいたいのだ」
そう言って手渡されたのは一枚の写真、写っている人物を見て自分は目を見開く。
「罪人の名はミネルヴァ……、我らオリュンポス十二神が一神『アテナ』の力を強奪した極悪人だ」
パトロクロスの表情は歪み、『正義』を大義名分に権力を振りかざす人間そのものだ。
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