第3話 異世界での暮らし
「何を作る予定?」
「オムライスだけど、卵アレルギーだったりする?」
ううんと首を横に振るミネルヴァにそっかと返す秋人。
秋人の日用品と足りない食料を購入するべく二人は近くの総合ショッピングモールへ買い物に来た。
ベッド等の重い家具類は移動魔法で転移されたので苦労して持ち帰る必要はないのだが、秋人的には「(それでいいのか?)」と、思っていた。
それは一旦横に置き、夕飯について話し合っていた二人だったが「おやぁ〜? そこにいるのはミネルヴァじゃあないかぁ?」と、少々ウザったらしい話し方をする男子生徒の後ろには男女数人のグループが形成されていた。
「『ノイン』……」
ノインと恐らくリーダー格の男子生徒の名前を口にするミネルヴァに「学校の知り合い?」と、尋ねる秋人。
「一応クラスメイト」
「ああそうだね、同じクラスメイトだけど……。俺はお前と違って超エリートだからさ? さっさとそこからどいてくれないかな?」
嘲笑いながら話すノインと後ろでクスクスと笑うグループに「いや、邪魔になってるのお前らだしそっちから話しかけてどけって何を言ってんだ?」と、頭大丈夫かと言いたげな表情で話す秋人。
秋人の言葉に「えっ」と、声を漏らすミネルヴァと唖然とするノイン一行。
「あまり口出しするのもあれだけど……、馬鹿に何言っても無駄だしさっさと会計するか」
そう言ってミネルヴァの手を引く秋人。
その場から立ち去ろうとしたが、ノインが秋人の前に立ちはだかる。
「何俺の許可なく立ち去ろうとしてんだよ?」
「見ず知らずのガキに指図される覚えもなければ従う義理もない」
表面上は冷静さを取り繕っているが、無意識に苛立っているのが見えるノインに対し、秋人は心底面倒くさそうな表情で見ている。
「――――だったら無理やりにでも従わせてやるよっ!!」
ノインの叫びと同時に彼の伸ばした右手から展開される魔法陣。
避ける素振りも見せない秋人に内心「(勝った!)」と、勝利を確信するノインだったが、発動した魔法は何も起きず、彼らの周りに静寂が流れる。
「な、何でだっ!? 魔法は確かに発動したっ」
「やっぱりちゃんと見ずに『服従魔法』を発動させたのね?」
狼狽え、動揺するノインに呆れ返った様子で話すミネルヴァ。
ミネルヴァの発言に「ど、どういう意味だっ!?」と言い返すノインだったが、彼の後ろにいた男子生徒の一人が「そ、その手首につけているやつ……」と、震える指で左手首のリングを指差す。
「へぇ、本当に効かないんだな?」
感心した様子で左手首のリングを見る秋人に「普通は避けると思うんだけど」と、返すミネルヴァに「いやだって、実際に体験してみないと分からないこともあるし……何より、ミネルヴァだったら上手く対処してくれると信じていたからね」と、話す。
「過度な期待はやめて」
「分かったよ、以後気をつける」
ノイン達を差し置いて会話する二人に我に返ったノインが声を出そうとした時、笛の音と一緒に「そこ! 店内では魔法の使用が禁止されているっ!!」と、数人の警備員が駆けつける。
帰れるのはいつになるのやら……と、思いながら秋人は警備員からの事情聴取を受けるのだった。
「ねぇ、どうやったらこんなお洒落な代物が出来るの?」
私の目の前に出された料理を一度見てから作った張本人に尋ねる。
面倒な奴に絡まれたせいで家に帰る時間が遅くなり遅めの夕食となった私達。
警備員からの事情聴取の際に嫌な顔をされたけど、秋人が私を庇った上に「そっちの事情とか偏見は知らんが、まともな判断できないなら責任者呼んでこい」と、言った時には流石の私でも肝が冷えた。
そういう対応には慣れている私だから、気にしないいつもと変わらぬ日々の一幕と思っていた出来事は変わっていた。
「数こなすしかないし、何よりそっちは成功したけどこっちは失敗したから自分もまだまだだよ」
所詮はただのある程度料理ができるだけの男だからねと、話す彼だけど……。
「それでも『ドレス・ド・オムライス』が作れるのは私からすれば凄い事だけどね」
「そう思ってくれるなら少しは頑張った甲斐があるってものさ」
そして食べ始める秋人に遅れて私も食べ始める。
秋人を自宅に招いたのは監視の目的もそうだけど、一番の理由はこの下らない世界を壊すきっかけが欲しいから。
きっかけがなかったから行動に移せていなかった私だったが、体の良い秋人が来たのは僥倖だ。
「美味しい」
「口に合って何よりだ」
少しでも不審な動きを見せれば真っ先に殺して、世界を壊す……。
その予定だけど、彼の作る料理が美味しいからもう少し予定を先延ばすつもりはない。
「(料理で何絆されかけているのよ、私……!)」
「そうだ、ミネルヴァに謝らなきゃいけないことがある」
唐突に、告白する彼に「何を謝るの?」と、問いかけつつ内心チャンスだと思っている私もいる。
「いやさっき、ミネルヴァ達の問題に首突っ込んだだろ? その事だよ」
発せられた言葉に私は思わず「えっ?」と、声を漏らす。
「あん時も言ったけど当人同士の問題に赤の他人……、第三者が関わるとろくな結果にならないのは自分でも分かっていた筈なのに」
本当に済まない。
頭を下げて謝罪の言葉を私に伝える。
理解ができない、いいや違う。
「(その行動に意味なんてないのに……)」
無意味で無価値、それなのに目の前の男は……秋人は真剣な表情で私を見ている。
「勿論、この行動に意味なんてないのは分かってる。実害を受けるのはミネルヴァだから」
だから今、君殴られても自分は怒らないし当然の罰だとも納得するさ。
秋人の発言に嘘はない、全て本心で言っているのが伝わる。
私にはそこまでする必要と理解が出来ない。
けれど、この状況をそのままにする訳にもいかず最終的に「秋人の真摯な思いは伝わったから気にしないよ」と、当たり障りのない言葉で返す事にした。
私を騙すつもりで言っている可能性も否定しきれない。
それでも、それでも私は……。
「(秋人の事だけは、信じてもいいのかな……)」
これまでの不信感をいとも容易く解きほぐしていく彼に抱く感情の名前は、まだ知らない。
「さてと」
天上の世界と呼ばれている場所に来て初めての夜な訳だが……。
「現実で眠っているのにこっちでも寝るとはこれ如何によ」
なんとも言えない微妙な気持ちになるが、あれこれ考えても仕方ないと諦めて購入したベッドに寝転がる。
理由も解らずこの世界に来た自分だが、小説の資料作成とこの世界での文化にも触れながら帰る方法を探すとしようと考えていたが、慣れない環境で精神は疲れていた様子でいつの間にか眠ってしまっていた。
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