第2話 迷い込んだのは今を生きる青年
「成程、つまり自分は『
さっきまで槍を向けていた少女からの説明を聞いて自分なりの言葉で要点をまとめる。
そうよ、と頷いた彼女は「夢渡人だったら自分が帰る手段は必ずある状態で此処に来るから」に「でも、自分の場合それがない訳で」で再び頷く。
「少なくとも、貴方は嘘を口にしている様子はなくて私の行動にも驚いてた」
「いやいや、誰だっていきなり槍を向けられたら驚くと思うんだが?」
自分の疑問に「夢渡人は妨害されるのを分かっているから一々驚かないわ」との返答でどんだけの人間がこの場に来ては追い返されてるんだと呆れてしまう。
「と、そういやぁまだ自己紹介をしていなかったね?」
自分の名前を名乗ろうとした瞬間待ったをかけられる。
「この世界で本名を名乗るのは自殺行為よ」
曰く、魂の構成要素である名を神の前で口にしたら最後、魂が消滅するまで奴隷として扱われ続けるらしい。
不老不死について似たような話は聞いたことあったが、名前と魂の結びつきについては新たな知見を得られて一人で内心頷きつつ「だったら偽名だったら良いのか?」に彼女は頷く。
「だったら筆名だけど『
夢半ばであるが、いつかこの名で誰かの希望になれるような作品を世に送り出したい。
そんな自分の願いがこもった名で自己紹介をした後「私は『ミネルヴァ』、改めてさっきの件について謝罪するわ」の後にごめんなさいと謝罪するミネルヴァ。
そんなの気にしなくて良いと口にした自分は続けて「だって、客観的に見てもあまりにも不審者過ぎたからな、自分……」と、遠い目で言う。
「さてと、一通り事情も分かった事だし帰れるまで適当にこの世界をブラブラ歩くとしますか」
椅子から立ち上がってまだ見ぬ別世界に心踊らせる自分にミネルヴァが提案をする。
「だったら、私の家に来ない?」
「え゙?」
それは流石にと空気を出す自分だが「此処から一人で出ても街に辿り着ける保証はあるの?」には何も反論出来ない。
しかし、推定年下の娘の自宅に招かれるのはこれ如何にと悩みに悩む自分だったが。
「それに、夢迷人専用の手続きも必要だから迷惑じゃない」
そこまで言われてしまった以上断るのは失礼だろうと判断し「では、お世話になります」と頭を下げてミネルヴァと一緒に行動することになった。
ギリシャ神話エリア・中央管理局
中央管理局と呼ばれる建物に到着したミネルヴァと自分は建物内に入り夢迷人の手続きを行う。
「ではこちらに記入をお願いします」
職員から手渡された書類にサラサラとボールペンを走らせる。
一通り書き終え書類を職員へと返す。
記入の間違いがないかの確認を終えると「はい、問題ありません」と言われてホッと一息。
「では、こちらの装着と当面の生活資金です」
その言葉と一緒に出されたのは水色のリングと小さな麻袋に入ったお金。
先にリングを手に取るとふわふわと浮遊し自分の左手首に入り込んで装着した。
「ちなみに、これって自由に外すことは可能で?」
「可能ですが、夢迷人だと知らずに攻撃される可能性があるので基本的にはつけて頂いた方が安全です」
物騒すぎるだろと内心思いながら「あ、ありがとうございます」と感謝の言葉を述べつつ麻袋の中身を確認する。
別世界の通貨は一体何なんだろうと小説家志望としてウキウキ心だったが、手のひらで見た通貨はまさかの『ドラクマ』には驚きを通り越して無になった。
「(ど、ドラクマかぁ〜〜)」
ギリシャでかつて使われていた通貨単位、価値としては六オボルス=一ドラクマらしいが……。
「(使ったことのない上に廃止されたものだからそこまで知らないんだよなぁ)」
とはいえ、暫くの間生活する以上慣れなければならない。
感謝の言葉を伝えて自分はミネルヴァと一緒に中央管理局を後にしたのだが。
建物から出る際に感じられた視線の数々、彼らの視線の理由を今は知らないが、いつか知るのであろう。
中央管理局から歩いて十五分程の距離、日当たりの悪い場所に建てられた一軒家へとミネルヴァは歩みを進める。
「ここが私の家」
その言葉と一緒に玄関の鍵を開ける彼女の後に続いてくぐる。
白を基調とした室内にワンポイントで存在する青色の装飾品。
靴を脱ぎそうになって動きを止める自分に「何をしているの?」と、言われてしまう始末。
「いや、日々の習慣がこんな形で出るんだなって……」
しみじみと実感させられた自分に二拍程の間を開けて「そういう事ね」と理解したミネルヴァ。
「っま、数日で慣れるでしょう」
楽観的に考える自分に部屋の一角を指さして「あそこの部屋を使って」と、自分が使って良い場所を教えてくれた。
「本当にありがとう……。でも、日用品が何もないから買える場所を教えてくれるとなお嬉しいんだけど」
「それはいいけど……」
何か言い淀んでいる彼女に疑問を抱きながら何かを言おうとしている様子を待っていると。
「秋人は、りょ……料理、できる?」
恥ずかしそうに尋ねる彼女に「出来るけど?」と、返す自分に何故か聞かれた立場なのに睨まれてしまった、解せぬ。
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