運命

鈴乱

第1話


「あなたが、私の運命か?」


 思わず問うと、微笑みをたたえて振り返る彼と目が合った。


「いかにも」


「ならば、これを運命と証明してみせてほしい」


 彼は困ったように笑う。


「証明は、できないのだよ」


「なぜ?」


「君は僕の運命に違いないが、僕を君の運命にするのは……君の仕事だからさ」


 私は、あからさまに落胆する。


「それなら、あなたも運命ではないということではありませんか」


「……君がそう言うならば」


「なぞかけをしているほど、私は暇ではありませんが」


「なぞかけ、というほど謎でもないさ。ことはもっと単純だからね」


「どういう意味ですか?」


「うーん、つまりだね。君が僕を運命と定めるならば、すれ違うだけの縁が運命と変わっていく。君が僕を運命としないのならば、僕は君の前を通り過ぎて、新しい誰かを運命とする。それだけのことさ」


「……」


「そう固く考えることもないだろう? 未来は分からない。僕にも君にも誰にも。分からないのだから、今の君が『運命』と思いたいものを『運命』とすればいい」


「私、次第だと?」


「そう。半分は」


「もう半分は?」


「僕次第だね」


「……」


「僕は君のことが好きだよ。相も変わらず好いている。僕の『運命』に君を選びたいと思ってる。……でも、それは僕の都合。君が僕を選ばないのなら、僕の『運命』はそのままに、君の『運命』が切り替わる」


「『運命』が、切り替わる……」


「まぁ、慌てることもないよ。焦って出した答えは往々にして未来で間違いだったと後悔しやすい。じっくり考えて、君の納得する『運命』を決めたらいいさ。僕はかなり気長な方だから、ゆっくりお茶でも飲みながら君の答えを待ってることにする。あぁ、でも、僕が生きている間に返事が欲しいとは、思うけどね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

運命 鈴乱 @sorazome

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る