第5話 小満仲様の幸せ!
桔梗は確か、一族の中でも取分け"気の強い
そう思うと、桔梗の"無作法な態度"が、何だか妙にかわいらしく見えてくるから不思議である。
幼い頃、桔梗は多田に住んでいたことがある。そしてその頃は、他の男兄弟に負けず外で遊ぶ子であった。
邸の周りの川で水遊びをしたり、子供達の面倒を見ていた
ある日のことだ。
邸の裏にある高い木に登りたいと、熊爺に無理矢理持ち上げてもらったことがあった。
熊爺とは、もとは腕っ節の強さを買われて東国からやって来た"
だが、小萩が多田にいた頃には、もう年を経て"熊爺"という
大きな体に似合わず、子供が好きで優しい男だったので、いつの間にか子供達の守役になってしまったのである。
その日も、熊爺は桔梗を肩車してやると、高木の比較的低い幹に座らせていた。
いつもなら暫く遠くの景色を眺め、満足して下りたがるのだが、その日は何故か、自ら木に登り始めたのである。
そして、あっという間に、熊爺の手が届かない上の方に登ってしまった。
当然、大騒ぎである。
ここ多田には、血の気が多い若い男達が沢山いるので、本来、木に登って下りられなくなった子の対応などは、それ程問題にならないはずなのだが、如何せん、桔梗は女の子だ。そのせいで騒ぎが大きくなってしまった。
もちろん、木に登って桔梗を誘導する者と、落ちてきた時に受け止める者らの連携によって、桔梗は無事に下ろされたが、それでも、満仲様から大目玉を食らったのである。
「そちは、もう一度、母の腹に戻って
今となっては、あの時の満仲様が
『真に、……
小萩は、
こんな桔梗の気の強さを称して、付いた二つ名は、"小満仲様"であった。
「もう、……何が可笑しいのですか? 」
桔梗が涙目になって怒っている。
「いや、いや、・・・・・何だか桔梗様が愛らしいので」
「もう! ……私は、父と年が
「……それは、真にお気の毒で 」
「いや、いや、いや、……ならば、叔母様は
酒のせいで酔いが回ったのだろうか、桔梗は赤い顔で本音をぶちまけた。
「私は、…… 」
小萩が何かを言い淀んだ。
「……本当は、この家の
その言葉に、今度は桔梗が沈黙する。
「この家の方々は、よく御存知かもしれませんが、私は養女にして頂いた身ですから、もし、義兄上様が望まれるなら、私が替わることもあるでしょう。しかし、私の身の上では、その方の格を下げるのではないかと心配です 」
小萩は、そう淡々と語った。
「……ただ、幸せなことに、私は
そう言うと、寂しそうに笑い。小萩にとっては一生忘れられなくなった、別れた夫である藤原
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