第16話:姉上殿?

「わっ、起こしちゃった?」


姉ちゃんは少し後ずさりした。


「あのようなバカデカい声で叫べば起きぬバカなどおらんでござろう」


「ま〜たしかにですね・・・で?・・・あなた何者?」


「・・・そのほうこそ何者じゃ?」


「私? 私は幸太郎の姉で、ここへは平日だけ胡桃ちゃんの面倒見に来てる

んですけどぉ〜」


「でもあなた分かってる?あなたは私のテリトリーの中にいるのよ・・・もし

へんなことしようとしたらスマホをちょっと押すだけで警察って人たちが

こぞってやってくるよ」


「姉?・・・しからば、そこもとは幸太郎殿の姉上殿と言うことか?」


「しからばなくても幸太郎の姉上なの」


「こ、これは失礼仕った、それがし名を荷奈川 新左衛門にながわ しんざえもんと申す」

「実は姫を我が時代に連れ帰ろうと遠い過去からからくり箱なる代物よりこの

時代にやって来た姫の家臣のひとりでござる」

「一応、このくらいの話で理解いただけたであろうか? 」


「うん、理解したけど・・・新左衛門さんって言うんだ」

「胡桃ちゃんを迎えにきたって?」


「ふ〜ん・・・でもそれ無理だったでしょ」

「だから、新左衛門さんも帰れずにここにいるんだよね・・・もし手ぶらで

帰ったら切腹?」


「おお〜察しのよい方でござるな・・・その通りでござる、すばらしいでござる」


「まあでもよかったわ、見た時は侍の格好した間抜けな泥棒かと思っちゃった」

「来たら、いきなりお侍さんがソファで寝てるんだもん」


「これは驚かせてしまって申し訳ござらん」

「ところで姉上殿・・・さっき申しておられた警察とは?」


「ん〜なんつったらいいの?、岡っ引きとか同心とか?またまた北町奉行所?

とか南町奉行所とか鬼平犯科帳?」

「ちょっと違うか・・・」


「岡っ引き? 奉行所?」


「うう〜ん、とにかく日夜、悪い人を捕まえてる人たちのことよ」


「そうでござったか・・・安心めされ」

「それがしは怪しくもなければなにも致さぬ・・・ましてや姫がお世話になってる

幸太郎殿の姉上殿とあっては、ただただ敬服つかまつるのみでござる」


「あのさ、新左衛門さん・・・硬い」


「え?何が硬いですと?たしかにそれがし石頭なことは唯一の自慢でござるが」


「そんなことが自慢?・・・いやいやそうじゃなくて」

「もうちょっとさ、そんなにかしこまらないでリラックスしたら?」


「はて?るらっくす?とは?」


「リラックス・・・あ〜もういいわ」

「あんたも胡桃ちゃんと同じだ・・・言ってもしゃ〜ない」


「姫と同じとは?」


「もういいって言ってるでしょ」


「御意・・・承知つかまつった」

「おっそうだ、姉上殿よければ姉上殿も姫に帰るようを説得していただけないで

ござろうか? 」


「あ〜まず無理だね・・・諦めて・・・あのふたりまだエッチはしてないと

思うけど、そうとうラブラブだからね 」

「私が説得したって無理っしょ」


「ちなみに・・・えっち?・・・とは?」


「え?えっち?・・・あ〜なんつったらいいの・・・え〜と交尾?・・・あ、営み」

「交わり?・・・とにかく新婚初夜にする夫婦の儀式」


「え?幸太郎殿と姫はすでにそのような関係なのでござるか?」


「まあ、そこまでは行ってないと思うけど、いいところまではいってるかもよ」

「もしかしたら時間の問題かもね」


「そうでござるか・・・それでは姉上殿にお願いしても無理でござるな・・・

困ったでござる〜」

「分かり申した、姫が帰らぬと言っている以上それがしも当分この家で

暮らそうと思っておったでござるが・・・」


「ところで姉上殿は? この家に日々お住まいでござろうか?」


「さっき、ここには胡桃ちゃんの面倒見に来てるって言ったでしょ」

「私は週末以外、胡桃ちゃんの面倒を見るためここに通って来てるの」


「ってことで改めまして私の名前は真田 由香里さなだ ゆかり

「以後よろしく」


「ゆかり?・・・さなだ ゆかり殿・・・改めてよろしくでござる」


新左衛門はおかしこまりして由香里に挨拶した。

と、姉ちゃんはすぐにメモに自分の名前を書いて新左衛門さんに渡した。


「はい〜、それが私のな・ま・え・・・よろしくね、新ちゃん」


「は? し、新ちゃん?」


「そ、今日から君は新ちゃん・・・そう呼ばれるのイヤ?」


「めっそうもない・・・いかようにも・・・」


惚れっぽい新左衛門はたちまち、べっぴんさんの由香里に惚れてしまった。


新左衛門は基本的に自分を尻に敷くらいの強気な女性がタイプなのだ。

今の彼のまなこには由香里しか映っておらず、瞳はハートマークに

なっていた。


新左衛門にも恋のツボミが芽吹き始めたか・・・今のところ片想いでは

あるがこれで姫に関係なく自分の時代には帰らぬとのはっきりした口実と

明確な事実、理由ができた訳だ。


つづく。

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