第15話:見知らぬ侍小の月。
新左衛門さんは手ぶらで自分たちの時代に帰るわけにはいかないと、
姫が帰る気になるまで自分も俺の時代に止まると言って居ついてしまった。
なわけで、俺はメシも喉を通らない。
胡桃ちゃんも俺と同じで食欲がないって言って晩メシを食わなかった。
新左衛門さんは、ちゃんと自分のぶんだけ、おにぎりを持参してきていて
美味そうにむしゃむしゃ食っていた。
飯を食うと眠くなったのか図々しいくもソファーで寝てしまった。
俺はとりあえず胡桃ちゃんを連れて一緒に風呂に入った。
「幸太郎・・・わらわのことが嫌いになったか?」
「いや〜嫌いにはならないけど、これから胡桃ちゃんにどうやって接したら
いいのか・・・正直戸惑ってるのは事実、かな」
「なんか、恐れ多くて・・・」
「最初に胡桃ちゃんが俺の前に現れてから最近までの胡桃ちゃんを見てたら
とても新左衛門さんが話してくれた胡桃ちゃんの武勇伝とどうしても結び
つかなないんだ・・・」
「百人切ったなんて話、誰かが歌舞伎のために書き下ろした作品みたいだ」
「さもあろう・・・あのような話を聞かされたらのう・・・」
「じゃが、あの時はわらわも必死じゃったのじゃ」
「みすみす討たれるであろうことが分かっておる従兄弟夫婦を放っておけぬし」
「わらわは敵も斬りとうはなかった・・・じゃが切らねばこちらがやられる・・・
相手を一人でも残せば遺恨が残る・・・全員生きて返す訳にはいかなんだ・・・」
「敵討ちとは言え、今から思えばいらぬ殺生をした」
「幸太郎、わらわはどうすればよかったのじゃ」・・・そう言って姫は
俺の胸にすがって泣いた。
「胡桃ちゃんは正しかったと思うよ」
「君のおかげで従兄弟夫婦を救えたんだから・・・」
「それに最初っから卑怯だったのは向こうなんだから気に病むことなんか
ないんだよ」
「でも辛かったんだよな・・・大丈夫だよ・・・俺がついてるから」
「泣きたきゃ好きたいだけ泣いていいんだ」
「どんな過去があたってそれはもう過ぎた事、大事なのは今だろ?」
「幸太郎・・・」
「忘れることはできないかもしれないけど・・・いくら思い返したって
過ぎた過去はやり直せないんだからさ・・・なるべく考えるな」
「うん・・・わらわを抱きしめて寝てくれる?幸太郎」
「もちろんだよ」
そんなことを言ったものの結局、俺だって吉田の馬場での胡桃姫の
百人斬りにまだ戸惑いを残してるんだ・・・。
だけど何事もないように、風呂から出ると俺はいつものように彼女を
抱いて寝た・・・。
今回はアホなコントも笑いもなくてゴメンだけど・・・、
胡桃ちゃんも俺もお互いこの事実を払拭するには時間がかかりそうだった。
「こんな可愛いお姫様が?・・・」
俺は眠れなくて夜中じゅう姫の寝顔を見つめたまま朝を迎えた。
月曜日、夜が明けてなにも知らない姉ちゃんが大きな声でやってきた。
「お〜い幸太郎・・・来たぞ〜、起きてるか?」
ってふとソファーを見た姉ちゃん。
そこに知らない男が寝ていた。
しかも?よく見ると侍の格好なんかしてる。
「コスプレ大会?・・・今日、ハロウィンだっけ?」
「なんで幸太郎の家に、お侍がいる訳?・・・もしかして間抜けな泥棒?」
姉ちゃんはお侍にそ〜と近ずいて彼を越さないようゆっくり覗き込んだ。
(へ〜意外と可愛い寝顔・・・しかもなかなかのイケメンね〜)
すると侍は人の気配を察知したのか即座に飛び起きると条件反射って
やつで腰の刀の柄に手をかけた。
「わっ、起こしちゃった?」
姉ちゃんは少し後ずさりした。
つづく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます