第13話:荷奈川 新左衛門。

次の日曜日、一応俺は姉ちゃんに遊園地での事の詳細を知られておいた。


で、カツラのこともネットで検索してみたけど、なんだかまがい物みたいな

コントで使うようなカツラしか出てこない。

あるにはあるが、どこかへ飛んでったカツラにはほど遠いお粗末なやつ。


「帯に短し襷に長しってこういうことだよな」


「幸太郎、もうよい」

「わらわはウィグでよいと言っておるであろう?」

「幸太郎はこの長い髪、嫌いか?」


「そんなことないよ、胡桃ちゃんを抱きしめた時、その髪が俺の顔に

かかると俺はね、もう理性なくしちゃいそうになるんだからさ」


「では、よいではないか・・・今更カツラなど・・・」

「それに今のままだと、そのうちウィグじゃなく本物の髪が伸びるぞ」

「そのほうが、さらによかろう?」


「だってあんなに拘ってた庶民との差別化はどうすんの?」


「それももうよい」

「お?・・・なんじゃ、今、家が揺れておらぬか幸太郎」


「・・・・おお揺れてるな」

「え?地震か?・・・」

「胡桃ちゃん揺れが静まるまでそのままソファに伏せてな」


家の揺れが止まるとテレビとソファーの間、最初に胡桃ちゃんが現れた

場所に、なんと今度はピンクじゃなくブルーの丸い物体が現れはじめた。


「幸太郎・・・あれはなんじゃ?」


「胡桃ちゃんが来た時と同じ現象だよ・・・もしかして誰か?・・・」


丸い球体は部屋中に放電を放つとシューシューと音をたてた。

そして泡のようにす〜と消えると、そこに誰かがおかしこまりをして座っていた。


姫が来た時と同じだ。


その人は昔のお侍さんのようで・・・チョンマゲに羽織ハカマ

腰に刀をさしていた。

まだ若そうなお侍だった・・・なかなかのいい男。


そのお侍は周りをキョロキョロ見渡すと俺たちのほうを見ていった。


「ここは、どちらのお屋敷でござろうか?」


新左衛門しんざえもん?・・・新左衛門ではないか?」


「え?・・・どなたでござろう?」


「おろかもの、わらわじゃ・・・胡桃じゃ」


「胡桃?・・・胡桃姫?」

「そのような格好でおらせられるので姫とは気づかなかったでござる」

「あつらえたカツラはどうしたでござるか?」


「カツラは私といるのが嫌じゃと言ってひとりで旅立って行ったわ」


「姫がいると言うことは、ここで間違ってなかったのでござるな」

「よかったでござる」

「目測を誤っていたら今頃どの時代に出ていたか分からなかったでござるからな」


「胡桃ちゃん、知り合い?」


「わらわの家来の一人で名を「荷奈川 新左衛門」にながわ しんざえもんという家臣じゃ」


「新左衛門、そなた、なにしに来た?」


「もちろん姫をお迎えにです」

「私が立候補して率先してやってまいりました」

「姫がからくり箱から消えてから、お屋敷中大騒ぎで殿も奥方様も心配して

おられます」


「今度は帰る手立ては準備してきましたゆえ私と一緒に帰れますぞ」

「新しいカツラも持ってきましたゆえ、そのような幽霊のようなカツラは

外して新しいカツラをお付け下さい」

「正装して私と一緒に帰りましょうぞ」


「あの、お兄さん・・・胡桃ちゃん?あのお侍さんなに言ってんの?」


「わらわを連れ戻しにきたのであろう」

「新左衛門、ご苦労であったの?」

「じゃがな・・・悪いがひとりで帰ってくれぬか?」


「わらわはもう昔の時代には帰らぬ」

「あんなつまらん退屈な時代に誰が帰るか」

「それに帰ったところで化け物呼ばわりされるだけのことじゃ」


「なにをおっしゃられる?」

「私はてっきり姫は故郷を恋しがって寂しくしておられるものと思って

おりましたのに・・・」


「わらわはここで充分幸せじゃ」

「それにわらわには将来を誓い合った殿方がおるからの?」


「あの横から口出ししてなんだけど・・・化け物よばわりってなに?」


「このさい、そのようなことどうでもよい」


「あのさ・・・今起こってるこの状況って胡桃ちゃんの家来の新左衛門さん

なる人物が胡桃ちゃんを元の時代に取り戻そうとやって来たわけ?」


「みたいじゃのう・・・」


「げげっ・・・それ一大事じゃん」


「気づくのが遅い・・・今頃、なにを驚いているのじゃ」


つづく。


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