第10話:この子ありがとうって言った?。
俺は大学とバイトを終えて原チャに乗って家に帰ってきた。
「ただいま〜」
「もう〜遅いぞ幸太郎」
玄関を入ると、およよ・・・目の前に見たことない女の子?が立っていた。
いや、見たことある子だ。
しかも俺のお気に入りのトレーナーなんか着てるし・・・。
「胡桃ちゃん?」
「幸太郎、お帰り、寂しかったぞ・・・もう大学とやらへ行くのはやめろ」
「やめろって言ったってさ・・・」
言い終わらないうちに胡桃ちゃんはまた俺に抱きついてきた。
そこにはカツラじゃない胡桃ちゃんがいた。
「お帰り、幸太郎」
「あ、姉ちゃん・・・これは?、姉ちゃんの仕業?」
俺は俺にしがみついてる胡桃ちゃんを指差した。
「仕業ってね、よかれと思ってさ」
「せっかく本人、これがいいって買ったんだから気に入ってやりなよ」
「ウィグ買ったのか?」
「そ、家の中でずっと坊主じゃね、それに普段もカツラ被ってたら窮屈でしょ
ウィグだったらカツラも長持ちするしね 」
「そう思ってね」
「姉ちゃん・・・頭いいな」
「どれ、ちゃんと見せてみ?」
そう言うと俺はもう一度ちゃんと胡桃ちゃんを見た。
「そんなに見たら照れるではないか」
「うん、いいんじゃないか?いいよ胡桃ちゃん似合ってるし可愛い」
「そもそもさ、カツラだと気を使って触ることもできなくて遠慮してたんだよ」
これで少しくらい頭、ワシャワシャしたっていいんだよな」
「似合っておるか?」
「おお、似合ってる、似合ってる・・・惚れ直した」
姉ちゃんに聞くと胡桃ちゃんのウィグはリラックスセミロングたらって
言うらしい。
前髪ありで胸のあたりまで長いロング、先の方は少しウェーブがかかっている。
色はグレー茶っぽいショコラブラウンってのらしい。
値段は税込で2,980円だと。
俺は男だしウィグになんか興味なかったけど思ったより安いんだって思った。
こうなるともうまじでお姫様じゃなくて普通にいるわがまま娘だな。
まあ、特別感がないってそれも寂しい気もするけど、一緒に外に出る時は
カツラ被ればいいことだし・・・いいんじゃないか、これはこれで。
「姉ちゃん悪かったな、でもいいこと思いついてくれてありがとう」
「うん、まあね・・・弟の彼女だし・・・いずれは、まじな私の妹になるかも
しれないしね」
「え?それどういう意味?」
「胡桃ちゃんが自分の時代に永久に帰れないとしたら幸太郎が一生、この子の
面倒みることになるでしょうが・・・ならまず他の子とは恋愛はできないよね」
「で、いずれは戸籍申請して認められたら結婚だってありえるわけだから」
「戸籍取るの大変かもしれないけど・・・」
「そうか・・・戸籍か・・・やっかいな話」
「ってか、結婚ってなんだよ・・・」
「ありえなくもないでしょ」
「何言ってんだよ、そんなこと胡桃ちゃんの両親が承知するわけないだろ?」
「アホだね、あんた・・・」
「どうやってこの子の両親と連絡取るつもり?」
「うん・・・アホだな俺・・・あはは」
「だけど・・戸籍なんかいらないんじゃないか?・・・もし万が一そうなっても
婚姻届けなんて紙切れだし・・・一緒に住むことには関わりないんだし」
「あんたね、なにするにしても本人の証明いるんだよ」
「だいいち、この子の生年月日分かるの?」
「かならず生年月日聞かれるよ、天正何年ですとか、慶長何年ですとかって
ありえないよね?」
「そんなの、胡桃ちゃんが今現在17歳だったとしたら、逆算すればいいだけの
話だろ?・・・生年月日なんてそれで誤魔化せばいいんだよ」
「甘いわ、あんた夫婦や家族関係じゃないってけっこうハンデだよ」
「幸太郎・・・なんの話をしてるのじゃ?」
「あのね、とても難しい話・・・説明するのもめんどくさい話」
「わらわに聞かれたくないような都合の悪い話か?」
「そうじゃなくて・・・胡桃ちゃんに話しても難しすぎてチンプンカンプンな
話だよ・・・そんな話聞いたってつまんないだろ?」
「もっと楽しい話しようか」
「楽しい話か?・・・楽しい話ってなんじゃ?それ?」
「今度の休み、アミューズメントパークに連れてってやるよ」
「なにか?その、あみゅ?・・・あみゅ〜ずなんちゃらって?」
「行ったら分かるから、楽しみにしてな」
「姉ちゃん、あとは俺が面倒見るから帰ってくれていいよ」
「うん、じゃ〜ね・・・胡桃ちゃん、またね・・・おやすみ」
「おう、大儀であった・・・ありがとう由香里」
「え?・・・今、この子ありがとうって言った?」
「私に?・・・ありがとうって?」
「胡桃ちゃんも少しは協調性が出てきたかな?」
その夜も胡桃ちゃんは俺に抱かれて眠った。
ただその方が安心して落ち着いて眠れるからなんだろう・・・特に男と女
だって意識も意図もなく・・・人肌が恋しいだけなんだろう。
自分では気づいてないだけでホームシックにかかってるのかもしれない。
どうやら寝るときはこのパターンが定着しそうな気配だった。
愛だの恋だのを語るには、まだまだ幼すぎる胡桃姫だった。
つづく。
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