第8話:無免許運転。
土曜日の朝のことだった。
「幸太郎は毎朝、この小さい馬で大学とやらに通っておるが・・・」
「楽しいか?」
「おう、楽しいよ・・・こいつは俺の日頃の足」
「大学へ通ってる時も買い物に行く時も乗ってくバイクだよ、馬じゃなくて」
「原動機付自転車って言うんだ」
「雨の日はバスで通ってるんだけどお天気の日はね、こいつで通ってるんだよ」
「そうなのか?・・・楽しいのか・・・」
「これ跨っていいか?」
「いいけど、跨るだけね」
「わらわも走ってみたいが?」
「ダメダメ・・・胡桃ちゃんは免許ないだろ」
「めんきょ?・・めんきょってなんじゃ?」
「バイクに乗るための資格・・・こういう証明書がいるんだよ」
俺はそう言って胡桃ちゃんに免許証を見せた。
「ふ〜ん・・・ではこれは?、なにか?」
胡桃ちゃんはミラーに被せてあったヘルメットを見て言った。
「ヘルメット・・・これ被ってなきゃ怒られるんだ」
「幸太郎、これ持ってて・・・」
すると胡桃ちゃんはカツラを脱いで俺に渡すとミラーの上のヘルメトを取って
さっさと被った。
「ちょっとぶかいな・・・」
「で?、この原動機なんちゃらってどうやったら動くのじゃ」
「左のブレーキレバー握りながら右のセルスターター押したらエンジン
かかるんだよ」
「こうか?」
そしたら原チャのエンジンがかかった。
「はい、そこまで・・・」
そしたら胡桃ちゃんは、いきなり原チャを前に押してスタンドを外すとエンジン
がかかった原チャで走り出した。
「ひゃっほ〜」
「おい、おいおい・・・なにやってんだよ」
俺が止める間もなく胡桃ちゃんは、ブヒブヒーって俺を残して原チャに乗って
勝手に行ってしまった。
「なんて無茶する子なんだよ・・・原チャ運転したこと一度もないだろ?」
普通そんな無謀なことしないって思うだろ?
まあ毎朝、俺が原チャで通学する時、彼女が見送ってくれてたからな
こうしたら原チャが前に進むって知ってたんだ・・・けど、それにしたって
乗っていくか?
走って追いかけてもな、遅いとは言っても原チャには追いつかないし。
どうしたもんかと考えあぐねていたら、しばらくして警察から俺のスマホに
連絡が入った。
あ〜あ、おまわりに捕まったか・・・。
たぶん原チャの契約書から俺の連絡先を割り出したんだろう。
結局、胡桃ちゃんはおまわりに止められて、無免許で違反切符切られた。
そりゃもう大変・・・年端もいかない女子を原付に乗せたってんで 責任者
としての監督不行き届きで俺まで怒られた。
胡桃ちゃんを連れて警察からの帰る時、おまわりに言われた。
「変わった子だね・・・わらわ、わらわっていつの時代の子なんだか?」
「こっちが質問してるのに、あれはなんじゃ、これはなんじゃって聞いて
来るから話にならないし・・・」
「おまけに悪いことしたって思ってないし、反省ないし・・・あんな子と
一緒に住んでるの? 君」
「そうですけど・・・」
「大変だね」
そう言われた。
しかたないんだよ、俺の時代の子じゃないんだから・・・。
で、罰金とられて警察で事情聴取受けたうえに、後日胡桃ちゃんを連れて
家庭裁判所まで行って初犯ってことで始末書かかされてようやく解放された。
まったくやってくれるよ・・・怖くなかったのかよ。
捕まるのはいいとしても、よく事故らなかったもんだって胸をなでおろした。
だけど、おまわりの言ったとおり本人はいたって反省の色なし。
それどころかこのさい免許を取りに行くんだと張り切っている。
だけどさ、胡桃ちゃんは戸籍がないんだよ・・・免許どころかなにをするに
しても、難しんだな・・・どこの誰かも分からないんだから。
俺の時代で胡桃ちゃんが生きていくには俺がついてないとダメなんだ。
そういった社会的なことも分からせていかないと・・・。
幼稚園児を相手にしてるようなもんだよな。
「今回のこともあったし、一応言い聞かせた・・・自分のやりたいことがあっても
勝手にしないこと」
「やりたいことや興味があるようなことはまず俺に相談すること」
「じゃないと時と場合によっては取り返しがつかなくなるんだからね」
って。
「わらわは姫じゃ・・・わらわのすること言うことが一番正しいのじゃ」
「そりゃまあ、胡桃ちゃんはお姫様だし自分の時代じゃやりたい放題だった
かもしれないけど俺の時代じゃもう少し分別持ってくれないと俺が困るの」
「ここで暮らしていくなら俺の言うことをちゃんと聞くこと・・・分かった?」
「分からん・・・え〜い、分からん、分からん」
「黙れ!!俺の言うこと聞けよ!! わがままばかり言ってると俺んちから
追い出すぞ!!」
胡桃ちゃんはハトが豆鉄砲くらったような顔で俺を見ていた。
親や家来からも怒られたことなんか一度もなかったんだろう?
甘い言葉ばかりかけてちゃ、箱入り娘はつけあがるだけだからダメなんだよ。
言う時はビシッと言わなきゃ。
我に返った胡桃ちゃんは、おいおい泣き出した。
優しくするとつけあがるは、怒ると泣くわ。
自分の欲しいものを買ってもらえなかったガキみたいにほぼ号泣。
それか?・・・そんな武器くりだすのは卑怯だろ・・・勘弁しろよな。
つづく。
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