第4話:苦しゅうない、良きに計らえ。

「あのさ・・・」


「なんじゃ・・・うるさい」


「まあ着物はいいとして、その髪型・・・そのうち崩す時が来るでしょ・・・

洗わなくちゃいけないしさ、でまた結い直すんだよね」

「誰がその髪型結うの?」


「おろかもの・・・そのようなこと考えもせず未来にやってきたと思って

おるのか?」


「え?どういうこと・・・?」


そう言うと胡桃ちゃんは、両手で自分の髪を持ち上げた。

するとなんと髪がすっぽり頭から外れた・・・・。


まじでか?


「向こうにいる時は地毛じゃったが、未来へ行くとなると、なにかと

不便と思って髪を剃ってカツラにしたのじゃ、幸太郎・・・頭がよかろう」


カツラが取れた頭には布が巻かれていて、地肌はどうやら尼さんみたいに

坊主だった。

一休さんみたいだ・・・ちっこい頭がゆで卵みたいで、それはそれで可愛いかった。


「あ〜そうなんだ・・・カツラ・・・ああ、なるほどね」

「それなら定期的に頭をバリカンで刈ったらいいわけか?」

「心配して損した」


「じゃ〜さ、わざわざカツラなんか被らず髪を下ろして後ろで束ねときゃいいのに」

「平安時代のお姫様みたいに・・・」


「おろかもの・・・この髪はわらわの正装で、わらわである証なのじゃ」


「はいはい・・・庶民と差別化したいんだろ?」

「もうびっくりさせられるわ・・・俺はまた日本髪とか結える美容室

探さなきゃいけないかなって思ってたんだよ・・・真剣に」


「まあカツラなら心配ないか・・・」


「あ、コーヒー入れるの忘れてた・・・」

「ちょっと待ってよ、すぐコーヒー入れてあげるから・・・」


まさかのまさか、カツラだとは思わなかった。

ってことで、がんばって胡桃ちゃんに本物のコーヒーを入れてやった。


「はい、コーヒー飲んでみ?」


胡桃ちゃんは俺が出したコーヒーカップを恐る恐る覗いた。


「なんじゃ、この茶色くて汚いものは?」


「コーヒーってのはそういう色なの・・・琥珀こはく色って言うんだ」

「いいから飲んでみ?」


胡桃ちゃんはまたまた恐る恐るコーヒーを口にした。


「おえ〜・・・苦いではないか・・・なんじゃこれは?」


「え?・・・・あ、そうか、ごめん砂糖入れるの忘れた」


「俺はいつもブラックだから・・・」


「このような不味いものを、そちは毎日飲んでおるのか?」

「毒でも入っておるのではないか?」

「コーヒーなどと体に悪そうなものを飲んでいたら、いずれ死ぬぞ」


「コーヒーは体にいいんだよ」

「コーヒーに含まれる成分のうちカフェインとポリフェノールが体にいいんだ」


「カ、カフェノール?じゃと?・・・え〜い西洋の言葉なぞ使いおって」

「鎖国じゃ、鎖国」


「え〜それ言うなら、コーヒーの時に気づけよ」


「ってか胡桃ちゃん、そうか・・・徳川家光さんの時代か・・・胡桃ちゃんは

その時代から来たんだ」

「そうかのう?・・・わらわは箱入りゆえ、世情には疎くての・・・」


そういう意味じゃ、胡桃ちゃんは俺の時代に来てよかったのかも。

幕末の動乱に巻き込まれなくて済んだんだから・・・。


「ま、向こうに帰る手立てがない以上幸太郎、これからは、そちの世話に

なるが、よろしくの」


「じゃ〜俺は胡桃ちゃんの家来ってんじゃなくて、胡桃ちゃんが俺の彼女に

なってくれたら、その条件飲んでもいいけど・・・」


(こんなのが彼女ってのもどうかと思うけど・・・なんてったって可愛いし)

(性格うんぬんよりまずはそこだろ?)


「かのじょ?・・・かのじょとはなんじゃ?」


「胡桃ちゃんの時代で言うなら思人おもいびと?・・・あとは許嫁とか・・・」

「愛を誓い合った人「女性」のこと?」


「ほう、なるほど・・・愛など誓い合っておらぬが幸太郎がブ男ではないゆえ、

まあそれもよかろう?・・・苦しゅうない・・良きに計らえ」


ラッキー・・・お姫様が俺の彼女だってよ・・・こんな珍しい体験、俺だけ。

めっちゃレアじゃん。


質問攻めには閉口だけど、姫の時代の話もいろいろ聞けそうだし・・・。


って調子こいた幸太郎だったが、彼は完璧に胡桃姫を舐めていた。


つづく。

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