第18話 大好きだったよ

イモンモールを出て数分、颯が口を開いた。


「そこのさ、花屋、寄ろうよ。」


花屋 Riverという看板を指さして言った。

颯から行きたいと言うなんて珍しい。


「いいけど、なんか買うの?」


颯は少し照れくさそうな顔をしている。


「いや連れて行ってもらってばっかだったし。最後は僕から誘いたいなと思ったから。」


どこでもいいがいちばん困るんだよ?って言ったからかな。そういうとこ、好き。


「分かった。じゃあ入ろう。」


そうして中へ。

色鮮やかな花々の独特な香りが充満している。


「いらっしゃいませー」


2人で会釈をしてから店を見て回る。


あ、スイートピー。目に入った。

綺麗だよね。

生きてる時も好きだった。

これがお墓に飾ってあったらなぁ。と思う。


そういや先週の日曜日、自分のお墓を見に行った。

いやまだ1ヶ月しか経ってなかったからそりゃ綺麗なんだけど、花がまだ無かったんだよなぁ。叔父さんも忙しそうだったししょうがないか。


「.........その花、好きなの?」


「まぁね。可愛くて好きだなぁ。」


なんか、姉弟じゃなくて、恋人みたいだ。

不思議な感覚になる。


「プレゼント、するよ。」


えっ⁉︎嬉しい。でも…


「大丈夫、気、遣わなくていいよ。」


弟に買ってもらうなんて、申し訳ない。


「そう?いやさっき奢って貰ったし、お礼に受け取ってよ。」


俯きながらだから顔は見えないけど颯の気持ちがひしひしと伝わってきた。

そんなことも気を使えるようになったんだ。

成長だなぁ。

結局、颯に花を買ってもらい、プレゼントしてもらった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


花屋を出た後、私たちはまっすぐつづく帰り道を歩く。


あと颯といられるのも15分ほど。



離れたくない、もっと一緒に居たい。



その気持ちが私の歩幅を狭くする。


「あのさ、桜。歩くの遅くね?」


「いいでしょ。疲れたのよ。」


ホントの事なんて言えない。

だって無垢な颯にそんな話したら.........

どうにかして少しでも長く、いられるように。

……はっ!


「そうだ!グリコしない?」


我ながら名案だと思う。


「階段でジャンケンするやつ??別にいいけど。」


これなら、結構時間が稼げる。


「そうそう!罰ゲーム付きで!」


どうせならね。その方が本気になれるし。


「罰ゲームっ?!何するの?」


「勝った方が負けた方になんでも質問する!!」


「...よし、そのゲーム引き受けてやろうじゃないか!」


「本当!?じゃあ早速!」


最初はグージャンケンポン!...


こうして私の勝手な提案で始まったグリコゲームだったのだが、期待に反して私があっさり勝ってしまった。


「ぎゃぁぁ負けたぁ」


颯が頭を抱えて悔しがっている。

負けず嫌いなんだ、と初めて知った。


「瞬殺じゃん、弱いね颯。」


「そんなことないし!もっかいするか??」


むーっとした顔で上目遣いをしてくる。

いや、たまんない。かわいすぎる。


「いや颯が勝てるまでやらされそうだからやめとくよ。」


ほんとは何回だってしたいよ。

だけど、覚悟ができたから。


「えぇぇ。分かった。で、何なんだ?質問」


あ、考えてなかった。

ただただできるだけ長いこと弟の隣にいたかったがために焦って提案したから。

どうしようかな。


「うーん...それじゃ颯にとって私ってどんな存在なの?」


知人?友人?謎人間?お節介な人?それとも...?


「...そうだな。ただの知り合いではないかな。でも、友人でもない。


どちらかと言えば...


家族?」



家族。



たった3文字なんだ。

だけど、だけどさ。

違うじゃん。




今までで1番言って欲しかった。

やっと面と向かって言って貰えた。

家族だって。



だから、嬉しいはずなのに。



何故か悔しい。



何でだろう。

そうだ、何もかもが遅すぎた。

私にはもう時間が無いのに。



視界が揺れる。

ああ涙だ。


今じゃない。今泣いちゃダメだ。

元気な桜として振る舞わなきゃ。


必死に笑顔をつくる。

上手く作れてるか分からない。

引きつった笑顔かもしれない。


「そうなんだ。意外。じゃあ私は颯のお姉ちゃ……」


「お姉ちゃんだね。とか言わないよね!?桜は妹だよ。妹!い!も!う!と!!」


妹!?歳もこんなに離れてるって言うのに。

一気に涙もひっこむわよ。


「なーにが妹よ!!私が姉でしょ?!歳も、身長...」


ああ。身長はいま遼だから低いのか。


「え!?身長は僕の方が高いよね。だから僕が兄な!」


姉、なんだけどなぁ。


「ではさらばだ!妹よ。またな!」


そうだ。

そんな会話をしているともう曲がり角へ。姉だったら、一緒に帰れるのになぁ。



またね、の言葉の重さに気づく。



いま、私はこの言葉に返せない。


また、はもう無いから。

今日で最後、これで本当に最期なんだ。



「じゃあね、元気でね。またいつか〜!」



考えた末の言葉。

また、は無理。

でも生まれ変わりがもしあるならばいつか、はあるかもしれない。


またいつか、その日が来るまでさようなら。


颯。いや世界一好きな弟!!


私はポケットに入れていた紙を握りしめ、目をつぶった。唇の端は微かに上がっていた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


作者のひとりごと。

読んで下さり、ありがとうございます!


桜退場です……。

これからは颯がどうやって真実を知り、生きていくのか。

そこが見どころです。

あと4話で完結予定です!

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