第16話 ようやく

退院の日。今日は遂に退院の日なのだ。

嬉しい。やっと元通りの生活に戻れるのだ。

入院してる間は毎日遼が会いに来てくれてたけど、やっぱり学校で会う方が絶対良いのだ。


「颯くん、今日が退院ね。」


看護師さんがにこやかに言う。


「はい。お世話になりました。」


入院中にお世話になった看護師さんやお医者さんに挨拶を済ませ、病院を出る。

一応、駿叔父さんが待ってるはずなんだけど。

どこだろう……。


しばらくきょろきょろしていると後ろから


「だ〜れだっ!」


目を塞がれた。

この声、聞いたことがある。

誰だっけ……。


「も〜わかんないの?桜だよ?」


「さ、桜か!」


そうだ、この声もテンションも高い雰囲気は桜か。


「も〜。すぐ分かってよね?」


ふてくされた顔で見つめてくる。


「ごめんごめん」


やけに今日はテンション高いな……笑


「でもなんでこんなとこに……?」


「……じゃ行こっか。」


完全に無視されたよ。聞こえなかったのかな?


「え?は、はぁ?」


僕は桜に手を引っ張られ、走り出した。


退院直後だからまともな服でもないし、いきなりすぎるし、混乱する。

ていうかおじさんは?!どこ?


五分くらい、走ったところで僕は桜の手を引っ張って止めた。


「ごめん、ちょっと待って!どこ行くの?何するの?」


彼女は、はて。みたいな顔をしてこちらを向いてから

「私とデート♡」

と言った。


「えぇ!?」

デート⁉︎

付き合ってないのに??てかそこまで桜と親しくはないんだけどなぁ。


「え?言ってなかった?私。」


「言ってないよ!だからめっちゃビックリしたんだけど。」


「それはごめんね?」


「全然いいんだけど……でも僕、叔父さんが待ってるはずだし……まずは叔父さんに連絡しないと……」


「それは大丈夫!」


「なんも大丈夫じゃないから!」


「いや、ほんとに大丈夫!叔父さんに会ったし!」


「え?」


「颯くんの友人?って聞かれたから恋人でーすって答えたらお幸せにって言って帰ってったよ?LINE見てみ?」


「ほんとだ。お幸せにってLINEきてる。」


誰が恋人でーすだよ。恋人じゃないし。

てか叔父さんも叔父さんだよ。

意外とこーゆーの真面目じゃないんだから。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


自分が消えるまであと2日。

颯と会えるのは明日だけ。


もう死んでから47日も経ったのか。早いなぁ。

朱織さんと3人で先週遊んで何か成仏のヒントを見つけられると思ったのに、まさか颯が入院するだなんて。想定外だった。


だから最後のチャンスだと思い、明日颯に桜として会いに行こうと思った。

とりあえずちょっと都会のイモンモールに行こうかな。

そこで兄弟らしいことを出来たら、成仏できたりするのかな。


流石に霊体で颯と会うのはリスキーなので、遼の身体で桜に扮して会おうと思う。

もちろん遼の家に女性ものの服は無い。

母親のものはあるけれど、サイズが合わないのだ。

ということで選んだ服はかなりボーイッシュになったが、母親のイヤリングや帽子を上手い具合に使ったから、何とか誤魔化せそうだ。

ちなみに髪はカツラ。

バレなきゃいいんだけど……


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


時間には余裕を持ち、早めに家を出て数分。

そろそろ病院が見えてきたところだ。

あれ?叔父さんが……。


「叔父さん?」


「君は?さ……、いや誰だ?」


と言われたものの、多分雰囲気で気づいている。ただ、なぜここにいるのかわからないという意味だろう。


「うーんと。桜です!」


「桜……?なんでこんなとこに。桜は死んだはずじゃ。」


「死んでます。でもまだここにいるんです。」


ここから死んだ後の話をした。

叔父さんはクールで、いつも落ち着きがあるのに、目の周りを赤くして聞いている。


「泣かないでください。私、この1ヶ月間、楽しかったんだから。」


「いや、でも……」


申し訳なさと驚きが入り交じったみたいな顔でこちらを見る。


「叔父さんとも何回も会ってるんですよ?」



「え?あぁ、そっか。遼くんか。」


「はい。あれも全部私です。」


「そうか。全然気づかなかった。」


「まぁ見た目違いますしね。」


一旦会話が途切れる。気まずい雰囲気が流れた。


「ごめん、桜ちゃんはもうすぐいなくなるのか?」


「まぁ明日にはもう……って感じですね。だから、今日、会いに来たんです。颯に。」


そう。私は成仏するために、死ぬために会いに来たんだ。


「上手く行けば今日にはもう……なのか。」


どうやらおじさんは死ぬ、という言葉を使いたくないみたいだ。

こんな風に思ってくれる人がいるだけで私は幸せだったんじゃないかなと思う。


「そうですね。でもまぁ私はその方が嬉しいです。」


「そうか。じゃあもう会えないかもしれないんだな。」


行かないでくれ、とか颯くんに本当のことを言えば?とかそんなこと言わない叔父さんが好きだ。


「はい。叔父さん、ほんとにお世話になりました。こんな最後でごめんなさい。たくさん迷惑かけたし。」


「いや、全然迷惑じゃない。こちらこそ、君のこと、助けられなかった。申し訳ない。」


辛い。もっとここにいたい。本当はこんな最後、嫌だ。この後の叔父さんや朱織さんや颯の関係を見てみたい。願うならここに居たかった。


「……」


目が潤ってきたなぁ。はぁー。

空を見上げて深呼吸をする。


「……いや、僕は君に助けられていた。ありがとう。どうか、最期が君にとって最高の時間になることを願ってる。行ってらっしゃい。」


「うん。ありがと。」


そう言って私たちは別れた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


颯、何分に来るかな。

病院のドアの前で待つ。


そもそも私の事忘れてたりしたらどうしよう。

そんなことを考えているとふと不安が襲ってきた。


明日本当に、私は死ぬのか。


自分はこの世に本当にいれなくなる。

どうなるんだろう?生きてる人に乗り移ったりしたから地獄行きかな。

いやそんなことはどうでもいい。


じゃあなんで怖いんだろう。こんなに。

理解出来ない感情に怯えているんだろう。

嗚呼、そうか。


そうだ。


死んでから、いや颯達と暮らしたこの40日くらいが幸せすぎたんだ。



本当はこんな暮らしができてたのかもとか思うと、生きてた当時にもっと何かできたんじゃないかって今になって思い残す。

もうちょっと、もうちょっとだけ生きたかったなぁ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


あ、来た。良かった。


さっきの不安と、今の安心が入り交じるみたいになって言葉につまる。

いや、今は私は桜、なのだ。いつも通り接しなきゃ。


「だ〜れだっ!?」


普通に話しかけなかったのはどんな顔で会えばいいか分からなかったから。


「もう、わかんないの?桜だよぉぉ?」

「あぁ、桜か。」

「じゃ行くよ?」


そう言って私は弟の手を繋いで走り出した。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


作者のひとりごと。

ほんとごめんなさい!高校スタートして投稿出来ませんでした。

でも学校ってやっぱりネタの集合体ですね。

あらゆるところに物語のタネが埋まっていて、超興奮しています。

所詮陰キャなんで、そんなキラキラした物語は書けそうに無いですが笑

でも新たに3個くらいものがたり出来たんで、また投稿していこうと思います!

これからもよろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る