第5話

相変わらず窓枠からめげずに入り込む、か細い光に起こされた。

そして相変わらずひどい匂いだ。

砂漠のように乾いた喉を潤すために、リビングへ行き、一杯の水を飲む。

そうだ、食事


パンを求めて戸棚を広げたら、あったはずのパンはなかった。

その代わり、


生首が押し込まれていた。


「っはぁっ...............」


無声音の悲鳴。

なんだ?作品…、いや、こんな作品は作っていない。

だとしたら、いや、なぜ、


血の気のない、まるでゴムのような肌をまとったそれはもうただの肉片だ。

そして、そこから湧き出す、すえた激臭。

無数のハエとウジのむしろ。


只々突っ立ち、目を逸らすのも恐ろしい、ドロンとした瞳とひたすら見つめ合う。


ドン、ドン、ドン!

「速やかに開けろ、

 お前に殺人の容疑がかかっている。今すぐ開けたまえ!」


俺を現実世界に引き戻したのは外からがなりたてられる怒号だった。

半ば状況が理解できず、返事をせずにいると、扉が乱暴に開かれる。


「貴様かぁ?! 

 うわ、なんだこの匂い、っ、

 待て、、首だ!

 はや、捕らえろ!」


呆けたまま、気がついたら床にねじ伏せられていた。

複数人に上から圧迫され、背中の骨が軋む。

地面から顔を逸らしたとき、目の前に黒い繊維が飛び込んできた。

ベッドの下に詰め込まれた大量の繊維、いや、髪の毛。

そこから伸びる折り畳まれた胴体。

なぜお前はそこにいる?

いつもアトリエにいたとはいえ...

もしかして、昨日の、


俺を怒鳴った警官が部屋を調べ始める。

「通報通り、部屋に被害者の生首、いや、被害者全員の死体を部屋に隠した男を発見

 絵の具?ああ、絵の具、ありました、被害者の血液を使用したと思われる絵の具と   

 絵画を複数枚発見。容疑者は確保いたしました…」


まだ目の前のことに理解が追いつかない俺に、隣の警官が吐き捨てた


「最近、いやな絵ばっかり窓際へ飾る変態がいると思ったら、実際に人の血を使っ   

 て、モデルまで用意して描いてたなんてなあ。ここまでして自分の作品を見てもら

 いたかったのか?」


「い、いや、違う、あれは、依頼で、そうだ、依頼されたんだ!首吊り女の絵を描け   

 って、手紙...」


「どうやら精神異常者かもしれねえ、まだおとなしいうちに連れて行こう」


強制的に立たされ、自動車へ押し込まれた。

車窓から、自分のアトリエへ通じる窓が見える。

無惨に死体が部屋中のあちらこちらに隠されている絵画が。



 


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オーダーメイドの絵画達 三日月 青 @mikazuki-say

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