第4話

______________________________________

ありがとうございます。

昨日ので最後でした。

今日の昼までに、今まで私が送った手紙をメール箱に入れてください。

その後最終確認のため、なるべく早くヌーヴの橋の下へ来てください。


明後日頃、絵画を受け取りに伺うでしょう。

あなたを必要としたものより

______________________________________


終わったんだ。

右手に持つ手紙と、左手に乗せた最後の札束。

全体がドス黒い色で染まってしまった。

ふと自分の窓を見ると、死体があちらこちらに散らばった絵が、ガラス越しに見えた。凄惨な絵にも関わらず、俺は達成感を感じた。

リビングへ急ぎ、お金の横に積み重なった手紙の束お無造作につかんだ。

大丈夫、昨日までは枚数を確認していた。今日の分を合わせて全部だ。

再び外へ出て、メール箱の中へ押し込む。

後は待ち合わせだ。

最後まで依頼主の要望に応えることまでが仕事だ。

気前が良ければもっと報酬をもらえるかもしれない。

もつれそうな足で、指示された場所へ向かった。


さあ、もう何日も睡眠不足で、人間としてもぎりぎりの生活を送ってきた。

体力も限界に近い。

だが、いくら待てど、依頼主は来なかった。

使いの一人すら寄越してこない。

もう立っていることすらままならなくなってきた俺は、諦めて帰路へついた。

貰うべき金はもらっているし、些細なことなら絵画を渡す時でいいだろう。


そこからどう家へ戻ったのかはよく覚えていない。

メール箱を確認すると、手紙はもう残っていなかった。

リビングに入ると、途端に異臭に気がついた。

何日も放っておき、腐った食べ物、カビや絵の具の匂いが混ざり合い、充満している。よく考えれば、自分もシャワーを長い間浴びていない。

しかし、アトリエはともかく、リビングもこんなに散らかっていただろうか。

今まで気にも止めず、まるで感じなかった不快さが一気に襲ってきた。

だが、もう呼吸する気力もない。


ゆっくり休んでからじっくり掃除や報酬の用途を考えよう。

数々の作品に囲まれたまま、赤黒いアトリエで気絶するように眠った。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る